当事者意識が日本を変える 年間2億時間の労働力を生み出す「デコンストラクション経営」
労働人口の枯渇、旧態依然とした業務プロセス、そして地方の消滅危機――日本が直面する構造的課題に「当事者意識」を持って挑むオープングループ。RPAの黎明期から10年、年間で2億時間分の労働力を創出し、広告・社労士・医療など様々な業界で「デコンストラクション(脱構築)」による変革を実践してきた。破壊ではなく、良いものを残しながら進化を促す日本型イノベーションの可能性について、創業者で取締役の大角暢之氏に話を聞いた。
Windows95世代が見た日本の新たな転機
── 1995年入社という節目の年から30年。大角さんは日本経済をどのように見てきましたか。
私は1995年、Windows95が発売された年に新卒で大手コンサルティングファームに入社しました。この30年間、日本経済は確かに厳しい時代を歩んできました。しかし、2023年頃を境に、新たな転換期を迎えていると感じています。今こそ、日本の良き伝統や文化を大切にしながら、時代に合わない仕組みを革新していく「デコンストラクション」の時代が到来したのです。
私たちは創業以来、一貫して「当事者意識」を持って日本の未来と向き合ってきました。人手不足だからRPAをどうぞ、という受け身の姿勢ではありません。実際、オープングループは年間2億時間分の労働力を既に創出しています。これは「人手が減っているから何とかしよう」ではなく、「労働人口を増やしている」という能動的な取り組みなのです。
しかし現実を見れば、もはや人手不足という言葉では表現しきれない深刻な事態が進行しています。全国を回っていると、地域の供給制約があらゆるところで起き始めている。このまま放置すれば、2040年までに744の自治体が消滅するという予測も現実味を帯びてきます。私たちは、この消滅の危機に対して、単なるテクノロジーベンダーとしてツールを提供するのではなく、当事者として向き合い、地域の継続性を担保する。それが私たちの使命だと考えています。
RPAへの着眼 ― IT投資の矛盾から生まれたイノベーション
── コンサルタントから起業家へ。なぜRPAビジネスを始めたのですか。
コンサルティングファーム時代、私はIT側の仕事として企業の業務改善に携わっていました。ITをどんどん導入していくことが企業の生産性を高める――そう信じて一生懸命仕事をしました。しかし、多くのお客様から「期待したほど生産性が上がっていない」という声をいただきました。
調べてみると、多くの企業でIT投資の6割以上が保守・運用コストに消えている現実がありました。世界的な製造業でさえ経理部門に100人規模の人員を抱えている。複式簿記という確立された仕組みなのに、なぜこれほどの人数が必要なのか。この構造的な課題に向き合う必要があると感じました。
2000年にオープンアソシエイツを設立した際、着目したのは現場で膨大な事務作業に従事する方々でした。当時はまだ「RPA」という概念すら存在しませんでしたが、マクロを活用して業務を自動化する仕組みを作り始めました。当初は従来の業界慣行とは異なるアプローチに戸惑いの声もありましたが、現場の方々から強い支持をいただき、一緒に事業を立ち上げていきました。
現場の変革が証明した可能性
── RPAとは具体的にどんな技術なのでしょうか。
RPAは「ロボティック・プロセス・オートメーション」の略で、人間がパソコン上で行う定型的な作業を、ソフトウェアロボットが代わりに実行する技術です。データの転記、システム間の情報連携、定型的なメール送信など、繰り返し作業を24時間休まず、ミスなく実行できます。
転機となったのは、ある大手企業が沖縄に設けるシェアードセンターでの成功事例でした。従業員約800人全員の給与が1万円以上アップし、同時に労働時間の1時間短縮を実現しました。自動化により生産性が向上し、働く方々がより付加価値の高い仕事に専念できる環境を創出できたのです。
ただ、10年間RPAを推進してきて気づいたことがあります。多くの企業が既存の業務プロセスをそのままに、部分的な自動化にとどまっている。紙の書類をデジタル化して処理するだけでは、本質的な変革にはなりません。業務プロセス全体を見直し、デジタルを前提とした新しい働き方を設計する必要があるのです。
地方との共創が開いた新たな地平
── 伊予鉄グループとの合弁会社設立が話題になりました。地方企業との協業の意義を教えてください。
伊予鉄グループは当初、我々のユーザーでした。新入社員全員にRPAを学ばせるという先進的な取り組みで、生産性が飛躍的に向上しました。その成功を受けて、「ぜひ販売代理店として四国地域に展開したい」と申し出をいただいたのです。
ここから「共創開拓プロジェクト」が始まりました。単にツールを販売するのではなく、地域の企業と共に新しい価値を創造する。「地域のサービスは地域で創る」という理念のもと、デジタルテクノロジー四国という合弁会社を設立しました。現在、全国約80の地域パートナーと共に、それぞれの地域特性に合わせたデジタル化を推進しています。
この会社の実力を示す事例があります。コロナワクチン接種で愛媛県と松山市から大規模なデータ処理の案件をいただきました。従来の手法では対応が困難な短納期の案件でしたが、我々は5人のチームでOCRとRPAを24時間フル稼働させ、期限を大幅に前倒しで完了させました。デジタル技術を最大限活用することで、少人数でも期待を超える成果を実現できることを証明できました。
業界の未来を創る実践的アプローチ
── PRESCOという広告代理店事業も注目されています。どんな革新が生まれているのですか?
PRESCOは、旧態依然とした業務プロセスそのものを変革した実例です。デジタルマーケティングという本来デジタルで完結すべき仕事を、真にデジタルネイティブな形で提供しています。広告代理店業界で営業利益率40%、解約率7%、従業員1人当たり粗利3000万円という数字を実現しています。
成功の鍵は、既存業務の自動化ではなく、デジタルを前提にゼロベースで業務を再設計したことです。若い社員たちが高い給与を得て、やる気を持って働ける環境を実現しています。
社労士業界でも同様の取り組みを進めています。給与計算のアウトソーシング需要が急増する中、多くの事務所が対応能力の限界に直面しています。我々のデジタルBPOサービスなら、1人で2500人分以上の処理が可能です。重要なのは、既存の専門家の方々がより多くの価値創造に専念できる環境を提供することです。
デコンストラクション
日本らしい進化の形
── 「デコンストラクション」とは、どういう考え方なのでしょうか。
「デコンストラクション(脱構築)」は、既存の良いものを活かしながら、時代に合わない部分を革新する考え方です。日本には素晴らしい現場力があり、優れた人材がいる。それらの強みを最大限に活かしながら、新しい価値を創造する――これが日本型イノベーションの形だと考えています。
医療業界での取り組みが好例です。多くの医療機関が経営課題に直面する中、一般社団法人メディカルRPA協会を通じて支援した岩手県立病院では、AIとRPAの活用により年間5000万円の増収効果を実現しました。医療の質を向上させながら、持続可能な経営を実現する。これがデコンストラクションの本質です。
生成AIの登場で、RPAよりも直感的で、誰もが使いやすい技術が生まれています。将来的には、医師と患者が話すだけで後続処理が全て完了する。業務プロセスの大幅な効率化が期待できます。AIが基礎的な処理を担い、人間はより創造的で戦略的な業務に専念できる社会が実現するでしょう。

共に創る日本の未来
── 最後に、読者へのメッセージをお願いします。
読者の皆様に問いかけたいのは、「あなたの業界で、真に価値を生む仕事は何か」ということです。地方では既に、深刻な人手不足により一人が複数の役割を担わざるを得ない現実があります。医師が診療後に別の仕事をする。それが供給制約の現実です。しかし、これを悲観するのではなく、新たな価値創造の機会と捉えることが大切です。
私たちは様々な業界で変革の可能性を実証してきました。重要なのは「当事者意識」です。「うちは違う」ではなく「うちこそ変わらなければ」という意識が必要です。
企業価値の向上がより一層求められる時代において、同じビジョンを持つ企業同士が手を組むことは、新たな価値創造の機会となります。共創開拓プロジェクトでは、ノウハウを惜しみなく共有します。M&Aでも、パートナーシップでも、形は問いません。
日本には世界に誇れる現場力と、困難を乗り越える知恵があります。その力を信じ、当事者意識を持って、共に日本の未来を創っていきましょう。

- 大角 暢之(おおすみ・のぶゆき)
- オープングループ 創業者 取締役