福岡県・服部誠太郎知事 九州、日本の発展を支え、リードする福岡県に

服部誠太郎知事は2025年度に新たに3つのチャレンジを掲げた。それは、「人を育て、人を惹きつけるまちをつくる」「産業を育て、はたらく場を広げる」「健全な環境と、安全・安心なくらしを守る」だ。福岡県をさらに飛躍・発展させるための現在の県の戦略と今後の構想について話を聞いた。

服部 誠太郎(福岡県知事)

企業進出・設備投資が活性化
若い世代が希望を持てる福岡に

――2022年からスタートした「福岡県総合計画」(2022~2026年度)は4年目を迎え、2025年4月からは2期目の県政をスタートされました。これまでの成果や、いま力を入れている施策についてお聞かせください。

福岡県の未来を切り拓き、担っていくのは「人」です。総合計画の中でも「次代を担う『人財』の育成」を重点施策の一つに掲げて、県政を進めてきました。こどもたちが、夢に向かって羽ばたくことができる力を養う「未来子どもチャレンジ応援プロジェクト」や、産業発展の礎となる産業人材の育成に注力してきました。「福岡半導体リスキリングセンター」では、開設から2年で全国から約1万5千人が受講し、半導体、デジタル分野の重要技術に精通した人材として育成されています。

そして、県民の皆さんが活躍できる産業を育て、働く場を広げるための施策も進めてきました。中小企業の生産性の向上を強力に支援するとともに、「世界から選ばれる福岡」を掲げ、半導体、自動車、水素の3分野で「グリーン」をキーワードとしたプロジェクトを推進しています。実際に、半導体後工程世界シェア2位のアムコー・テクノロジーグループが国内初の研究開発拠点を本県に開設するなど、世界有数の企業が本県を選んでいます。他にも、企業進出や設備投資が活発化しています。

また、健全な環境と、安全・安心なくらしを守るため、人と動物と地球の健康バランスを持続的に保つ「ワンヘルス」の取組を他に先駆けて進めてきました。2025年11月の国会でもワンヘルスが取り上げられるなど、関心が高まっています。感染症の約6割は人獣共通感染症と言われています。将来のパンデミックを防ぎ、人々の命を守るための取組であり、農林水産物に対する「ワンヘルス認証制度」の創設や、小中高校での「ワンヘルス教育」を実施してきたところです。

起業から事業承継、第二創業まで
失敗を恐れず挑戦する人を応援

――中小企業の競争力強化に注力されていますね。DX推進の取組についてもお聞かせください。

本県の雇用の8割は中小企業が担っており、中小企業の発展なくして県経済の発展はありません。中小企業の競争力を強化するためには、業務プロセスの改善や自動化等により生産性を向上させることが重要です。福岡県中小企業生産性向上支援センターでは、AI画像処理装置や、パソコン操作の自動化システムの導入に対する支援を行い、中小企業の現場改善や生産性向上に貢献してきました。

2025年10月からは、このセンターを中小企業DX推進センターとし、DX専門アドバイザーが、中小企業のDX推進の取組をきめ細かく伴走型でサポートしていきます。

このほか、中小企業の後継者が、家業の経営資源を生かして新規事業に挑戦する「アトツギベンチャー」、後継者でなくても第二創業など新分野に挑戦する「サッシンベンチャー」など中小企業の新たなステージへの挑戦を伴走型で支援しています。

――スタートアップへの支援では、どのような取組に注力されていますか。

スタートアップは経済成長の起爆剤です。日本人は失敗を認めない傾向にありますが、スタートアップから立ち上がった大企業も、みんなが最初のチャレンジで成功したわけではありません。本県には九州大学や九州工業大学をはじめ、優れた大学がたくさんあります。失敗を恐れずにチャレンジするマインドセットを持った若者が高度なスキルセットを身に付ける環境に恵まれています。挑戦する皆さんを我々は全力で応援します。そして、世界に大きく羽ばたくユニコーン企業を育てていきたいです。

2025年4月には、世界的なスタートアップ支援機関であるCICがアジアで2箇所目となる拠点「CIC Fukuoka」をオープンしました。この中に県として初のスタートアップ支援拠点「グローバルコネクト福岡」を開設しました。6名の専門スタッフが、資金調達やビジネスマッチング、経営人材マッチング、海外展開支援など、スタートアップの成長を総合的に支援しています。スタートアップの海外VCからの大きな資金調達やグローバルなビジネスマッチングを実現するため、国内外の企業や海外スタートアップと連携したビジネスマッチングイベント「グローバルコネクト スパーク デイ」を開催しています。グローバルコネクト福岡への相談実績は、オープンから5カ月間で約800件にのぼります。数千万円の資金調達を実現した東京のスタートアップが福岡で新会社を設立する案件も出ています。

「グローバルコネクト福岡」で開催されたピッチイベント「F★Pitch」の様子

事業拡大を目指すスタートアップには、財務やマーケティングなどに精通した高度経営人材も必要です。「福岡県CXOバンク」では、スタートアップと経験豊富な人材のマッチングを支援しています。現在、このバンクの登録者は800名を超え、オープンから15件のマッチングが成立しました。

世界で活躍するスタートアップを次々と創出し、福岡県にグローバルなスタートアップエコシステムを形成し、アジアのハブを目指していきます。そして、県内にも新たなイノベーションを生み出していきたいです。

豊富な産業人材や公的支援機関を
武器に広域連携をリード

――先ほどの「グリーン」をキーワードとしたプロジェクトの中でも、九州で盛り上がっている半導体分野について、お聞かせください。

本県には、世界トップレベルの企業を含む約400社の半導体関連企業が立地し、カーボンニュートラル時代の製造業を支える「グリーンデバイス」の一大開発・生産拠点の構築を目指しています。

今日、あらゆる分野で人手不足が顕在化していますが、半導体分野でも人材が不足しています。本県では、「福岡半導体リスキリングセンター」を2023年に開設し、半導体を「作る側」だけではなく、自動車の制御のように「使う側」に関するものも含めて60以上の講座を設けています。今後、全国初となる半導体の後工程を体系的に学習できる実習講座を開設します。後工程とは、前工程で回路が形成されたウェハーから個々のチップを切り出し、製品化するプロセスです。前工程の微細化の技術が限界に近づく中で、その重要性はますます高まっています。こうした講座をたくさんの方に受講いただき、貴重な産業人材として大いに活躍していただきたいです。さらに、2025年8月には、半導体の実装分野で、設計・試作から評価・解析、実証まで一貫して支援する「福岡超集積半導体ソリューションセンター」を開設しました。他に類を見ない公的支援機関による支援体制を構築しており、多くの企業の皆さんが注目し、大いに活用していただいています。

2025年8月に開設された「福岡超集積半導体ソリューションセンター」

政府は、都道府県域を超えた多様な主体の連携により、産業政策など地域の成長につながる施策を点から面に展開する枠組みとして「広域リージョン連携」を創設し、財政支援や規制緩和に取り組む方針を示しています。九州各県の知事や経済団体でつくる九州地域戦略会議では、この連携の重要プロジェクトの中に半導体関連産業の振興を掲げています。本県の豊富な人材や公的支援機関を武器に、「新生・シリコンアイランド九州」への歩みをリードしてまいります。

サステナブル社会に向け、
環境と経済の好循環を実現

――カーボンニュートラルや環境分野での取組についてお聞かせください。

エネルギー分野では、スケールメリットを生かして購入費用を低減する共同購入の仕組みを活用し、昨年度から「みんなのおうちに太陽光」をスタートし、家庭における太陽光発電設備や蓄電池の導入を促進しています。また、シリコン系太陽電池の設置が困難な場所にも設置可能なペロブスカイト太陽電池の普及を推進するため、県有施設への率先導入やJR九州や福岡国際空港などの民間事業者と連携した実証に取り組んでいます。

また、全国初の取組として、使用済EVバッテリーを回収し、その状態に応じてリユース、リサイクル、さらには再製造を行うといった資源循環システム「福岡モデル」の構築に取り組んでいます(図)。現在、8割を超える中古EVが海外に輸出されており、バッテリーに含まれるレアメタルも海外に流出して国益が損なわれています。中古EVの国内市場の活性化によりこの状況を打開するため、自治体としては初となる「サステナ(中古)EVリース事業」を2025年8月にスタートしました。この事業では、バッテリー診断や保証を付帯し、バッテリー性能への不安を払拭します。また、リース終了後にバッテリーを確実に回収し、リユース・リサイクル工程で有効活用します。スタート直後から想定を大きく上回る応募をいただき、改めて社会的ニーズの高さを実感できました。「福岡モデル」は、サステナブル社会の実現とともに、産業が集積し雇用が拡大する効果もあり、まさに「環境と経済の好循環」を生み出す取組です。

図  使用済みEVバッテリーの資源循環システム「福岡モデル」のイメージ

出典:福岡県

 

農林水産物の競争力強化の柱は
生産現場強化と消費販売の拡大

――農林水産業の競争力強化に向けては、どのような取組をされていますか?

農林水産業をサステナブルで夢のある産業として成長させ、若い人が一生の仕事として取り組み、家族を養い、こどもを育てていくことができるようにするためには、単に「稼げる」だけでなく、しっかりと「儲かる」産業にしなければなりません。

そのためには、「生産現場の強化」と「消費・販売の拡大」の2本の柱をつなぎ、強化していかなければなりません。農業では、農地の集積・集約化とスマート農業を推進し、同時に気候変動に対応した新品種の開発も進めています。2025年度から新たに、企業マインドを持って経営面積の拡大や生産性向上に取り組む意欲ある経営者を「企業型経営体」として育成する取組も始めました。また、林業ではICT高性能林業機械などの活用を、漁業では海況予測システムによる効率的な操業を推進し、生産性の向上を図っています。

さらに、消費・販売を拡大するため、ブランド力の強化に取り組んでおり、長く販売単価日本一をいただいているイチゴ「あまおう」のプレミアム商品規格の開発や、ブランド誕生から20周年を迎えた「博多和牛」の販売強化などに取り組んでいます。また、欧州で需要が高く、生産拡大を推進しているオーガニック八女茶をはじめとする県産農林水産物のさらなる輸出拡大を目指し、㏚イベントを現地で開催しています。

2025年にブランド誕生から20周年を迎えた、福岡県が誇る「博多和牛」

福岡で成功し、幸せになれる
人財が育ち、集まる福岡へ

――知事としては今後、どのような施策や取組に力を入れていかれますか。

福岡県は元気だと言われていますが、県内各地に目を向けますと、人口減少とそれによる地域の疲弊という課題も顕在化しています。このため、各地に広域都市圏の中核となる拠点を形成し、地域それぞれの活力を高めてまいります。そして、それぞれの地域で、若者が働き、定着し、安心して子育てができることはもとより、人を惹きつける魅力あふれるまちをつくってまいります。

また、地方は自らの地域を活性化するために、もっと努力を重ねなければなりません。産業を創出して経済成長を実現し、ここなら成功できる、幸せになれると思ってもらえる福岡県をつくってまいります。九州のリーダー県たる福岡県を、九州、日本の発展を支えリードする「雄県」にしていく。強い「志」を持って、福岡県の未来への「礎」となる施策を展開してまいります。

そして、全ての礎となるのは「人」です。福岡県の、日本の未来を拓き、築いていくこどもたちの羽ばたきを全力で応援します。大人もこどもも、毎日、たくさんの笑顔で暮らしていける、そんなふるさと福岡県をつくってまいります。

 

 

服部 誠太郎(はっとり・せいたろう)
福岡県知事