電気興業 通信設備の老舗企業が挑む「未来の当たり前をつくる」改革
1950年に設立された電気興業株式会社(以下、電気興業)は、日本の通信と放送および自動車社会の安全性を支え続けてきた。しかし、度重なる経営環境の変化に直面する経験の中、2021年に就任した近藤忠登史社長が選んだのは、従来の受動的な企業文化からの脱却だった。風通しの良い組織づくりを進めると同時に、事業ポートフォリオの転換を図り、AI画像解析といった新領域への挑戦も始めている。「未来の当たり前をつくる」べく仕掛ける変革と、その根底にある近藤社長の経営哲学を聞いた。

(電気興業株式会社 代表取締役社長)
受動的企業文化からの脱却へ
社長が掲げる「未来の当たり前」創造戦略
近藤忠登史氏が社長に就任したのは2021年4月1日。コロナ禍に加え、通信インフラ関連企業の設備投資抑制や半導体不足による自動車生産の停滞など、主要顧客である通信・自動車業界が大きな打撃を受けていた時期である。同社は経営環境の大幅な変化から厳しい局面も経験し、5G基地局への設備投資は抑制傾向となるなど、構造的な転換期を迎えていた。「お客様に言われたことをきっちりこなせばビジネスになる時代は終わった」と近藤社長は危機感を示す。
近藤社長の構想は、厳しい事業環境だけでなく、自身の想いにも根ざしている。「入社以来、この会社でさまざまな経験をしてきましたが、どこか保守的で受け身な空気感がある会社だと思っていました。真面目な会社ではあるものの、どこかに"今の仕事はあって当たり前"という感覚がある。変化の激しい時代だからこそ、この空気を変えていくことが急務だと考えていました」と近藤社長は当時を振り返る。
近藤社長が着任後にまず取り組んだのは、ガバナンス改革と社内外への情報発信の強化だった。2025年5月には中期経営計画「DKK-Plan2028」を公表(対象:2026年3月期〜2028年3月期)。2031年を見据えた「未来の当たり前をつくる」というビジョン達成に向けた具体的な計画を掲げた。
情報発信を重視する背景には、社員に自分の仕事に誇りを持ってほしいという想いもある。「当社は社会基盤となる仕事をしてきました。社員たちには、私たちの仕事は当たり前のものではなく、社会的価値を持つものだという使命感と誇りを持ってほしい。かつて私たちが携わった携帯電話の基地局やテレビ放送網の構築が社会の当たり前となったように、新しい当たり前を生み出していきたい」と近藤社長は語る。
また、定期的に経営陣がグループ企業を含めた各拠点を回り、多くの社員と対話する機会を設けている。「会社の方針を説明し、社員の意見をしっかり聞いて回っています。改善を求める声もあれば、新しい挑戦を提案する人もいる。こうした従業員との対話は、経営に活かす貴重な機会となり、風通しのよい職場づくりにも繋がると考えています」。
事業ポートフォリオの転換
新規領域での挑戦
従来、電気興業の収益基盤は、電気通信部門と高周波部門という二大セグメントの顧客による設備投資に強く支えられてきた。しかしながら、近藤社長は「これからは自分たちで仕事を興していかなければならない」と新領域への進出の必要性を強調する。
中期経営計画では、事業を「成長事業」「再構築事業」「導入期事業」の3つに再定義。防衛関連や誘導加熱装置といった「成長事業」にはリソースを重点配分する。そして、従来の中心事業としてきた通信や放送といった「再構築事業」では収益体質の改善を図る。さらに、ソリューションや高周波新領域などを含む「導入期事業」には、中長期的な投資を行う方針を打ち出した。
とりわけ「導入期事業」では、新規事業の実施・育成の推進を担う新組織も設置。目先の収益にとらわれず、長期的な成長を見据えている。
その代表的な取り組みの一つが、盛岡市で展開するAI人流・交通分析システムだ。地元企業の株式会社サイバーコア社(以下、サイバーコア社)と協業し、電気興業がカメラソリューションとシステムインテグレーション(SI)を、サイバーコア社が画像解析AIとクラウド基盤を担う。機器の設置・施工は地元パートナーと連携し、AIカメラで取得したデータをビジネス支援や政策立案に活かすソリューションを提供する。「新たな発想で事業を興すだけではなく、事業を通じて社会に貢献することも重要です」と、近藤社長はその意義と手応えを語る。
「考動人財」育成と評価制度の刷新
人材育成では「考動人財の育成」を掲げ、改革を進めている。中でも注目されるのが、若手社員を中心とした『企画制作プロジェクト』である。風通しを良くして、闊達な議論と挑戦を促進しようという近藤社長の取り組みの一つだ。社内公募で集まった社員を6人1チームに編成し、半年かけて新規事業を構想。最終的に経営陣へプレゼンテーションを行う。「これまでの事業や製品を全く別の視点でとらえるような提案もあり、我々には思いつかない固定観念に縛られない発想に驚かされました」と近藤社長は目を輝かせる。「こうした気づきを与えてくれることが大事。考えて動こうとする雰囲気を広げていきたい」と高く評価している。
「考動」を促進するため、社内の取り組みを見える化するとともに、褒める文化の醸成にも着手。従来の業務表彰と技術表彰に加え、社長賞、部門賞、提案賞、社会貢献賞、新人賞など、多様な表彰制度を新設した。「多様な評価基準を設定することで、社員たちには様々なことにチャレンジしてほしい。社員のモチベーションを上げて、より仕事を自分事にしてもらいたいと思っています」。
「人に助けられている」
感謝を原点にした経営哲学
近藤社長の経営哲学の根底には、「人に助けられている」という思いがあるという。「社長という立場にあっても、社員がいなければ何もできない。だからこそ、関わる人への感謝を忘れず、コミュニケーションを徹底すること。もっともシンプルでありながら、いかに徹底できるかが重要だと思います」と語る。
会社設立から75周年を迎えた電気興業。近藤社長は「社会に貢献し続ける会社でありたい」と力を込める。通信・放送インフラなどの情報通信網と自動車社会の安全性を下支えしてきた強みを土台に、AI画像解析や環境などの新領域にも果敢に踏み出す。その両輪を回しながら、同社は「未来の当たり前」をつくり続ける。

- 近藤 忠登史(こんどう・ただとし)氏
- 電気興業株式会社 代表取締役社長