京都府・西脇隆俊知事 「わくわくする京都」の実現へ

豊かな文化と精神性を未来へ繋ぐため、伝統とテクノロジーを融合させた新たな価値の創出に挑む京都府。半導体産業、スタートアップ育成といった産業振興に加え、企業のDXやリスキリングにも注力。京都文化の背景にある精神性を軸に、「文化の都・京都」としてAI時代の新たな価値創出を目指す。

西脇 隆俊(京都府知事)

精神性と3つのキーワードで挑む
「わくわくする京都」

――知事が3期目で実現を目指す「わくわくする京都」には、どのような思いが込められていますか。

昨今、我が国では少子高齢化や人口減少はどんどん深刻化しています。また、気候変動により災害は激甚化・頻発化するとともに、農作物への影響や、熱中症などの健康問題も起きています。

国際情勢も、米中関係、ロシアによるウクライナ侵攻、(イスラエルによる)ガザ地区における軍事作戦、中東情勢など、非常に不安定化しているところです。一方で、AIなどの技術革新がこれまでにないスピードで進み、これもまた社会に大きな影響が出ています。こうした状況の中でも、京都は国内外の観光客から高い人気を得ています。また、学者や芸術家、企業経営者など様々なオピニオンリーダーたちからの評価も高い。

京都には、豊かな自然、文化、芸術、神社仏閣、大学をはじめとする知の集積、産業などさまざまな魅力があります。そしてこうした京都の魅力のベースには、京都ならではの精神性があります。社会が激動している時に、こうした京都の良さを、我々は維持・継承するだけでなく、少しでも発展させて次世代に受け継いでいきたい。それが即ち、「わくわくする京都」をつくるということです。我々はその実現に向けて「安心」「はぐくみ」「輝き」という3つのキーワードを掲げています。

「安心」では、子どもを中心に幅広い世代が気軽に集まることができる「きょうのつながるひろばモデル事業」を起こしました。これは、子ども、大人、障がい者など、あらゆる人々が集まる居場所をつくり、希薄化する地域コミュニティの再構築を行い、人口減少社会のなかでも地域の活気や生活サービスを低下させることなく、みんながわくわくして暮らせる京都を目指そうという取組です。

「はぐくみ」は、私が8年前から掲げている「子育て環境日本一・京都」の実現に向けた取組です。共働きが増えた今、働くことと子育ての両立は必須です。若者にヒアリングを行うと、特に女性から、仕事から帰宅後、育児や家事に追われる生活をイメージすると子どもを持つことを前向きに捉えられないという声が多くあがります。働くことと子育てを両立させるには、ジェンダーギャップの解消が必須です。

また、今の子どもたちは社会の中で多世代と触れ合う機会が減っています。40年ほど前は2世帯に1世帯は18歳未満の子どもがいましたが、今は5世帯に1世帯となりました。そうしたなか、子ども同士の横のつながりだけでなく、大人とのつながりも少なくなっています。子どもたちができるだけ早い時期から社会とつながるような機会をつくり、子どもたちの生きる力をはぐくみたいと考えています。

「輝き」では、「KYOTO伝統こそが最先端プロジェクト」を推進中です。京都が誇る伝統産業はもともと最先端の産業でしたので、それをもう一度最先端のものにしようという取組です。

また、京都には半導体産業に欠かせない製品やノウハウを持つ企業が多くあることに加え、ものづくりの伝統があります。「AI×半導体×ものづくり」という観点で、半導体を中心に据えた産業を創出していきます。

AI時代に求められる問いの力
探究の輪を広げて育む尖った人材

――若い世代と社会とのつながりの強化では、探究学習にも精力を注いでおられますよね。

約2年半前から、京都府立高校と京都市立高校が、共に探究学習に取り組み、垣根を超えた交流をしています。探究学習の成果を発表する舞台「京都探究エキスポ」も、府立・市立各校からの有志が実行委員となり運営しているのです。

2024年度に開催した京都探究エキスポには約1,100人が参加しました。基調講演は、東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授に「生成AI時代に皆さんはどう学び、挑戦すべきか」というテーマでお話をいただきました。「世界で競争に勝つには尖った人材をつくらなければいけない。尖った人材とは、誰も考えないようなことをやる人である。知りたいことはAIが答えてくれるような時代で必要なのは、AIにどういう問いを立てられるかということである。問いを立てる能力というのは探究そのものではないか」というお話でした。それを聞き、探究自体がこれからの新しい教育のあり方だと思い、改めて探究学習を極めていこうと思いました。

また、文科省の「トビタテ!留学JAPAN」の拠点形成支援事業に採択され、2026年度から府内の高校生を対象とした留学支援『京の高校生「海外探Q留学」応援事業』を実施しています。成績や語学力は不問で、留学を希望する生徒は、どの国で何を探究したいのかプレゼンします。今年度は100名が留学することになりました。これには企業にもご支援いただいており、企業もプレゼンの審査に入り、留学先で現地支社と連携した活動もできます。帰国後に留学経験者と企業等が継続的につながるコミュニティを立ち上げるところまで進めたい。子どもたちと社会とのつながりを醸成するという面からも、探究学習に企業に入っていただくのは非常に有効だと思っています。

上/「探究エキスポ」の様子 下/「海外探Q留学」の派遣留学生壮行会の様子

文化と精神性が呼び覚ます感性
AI時代に果たすべき役割

――AI時代において、「文化の都・京都」の実現を掲げる京都府の役割をどのようにお考えですか。

2023年3月に文化庁が京都に移転してきた後、文化庁の長官や職員が京都三大祭すべてに参加されるようになりました。そうして実際に地域の文化と接触された経験をもとにした地域文化施策が少しずつ生まれ始めました。

例えば、「食」はもともと文化に入っていませんでしたが、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたことから生活文化に加えられました。その後、伝統的酒造りもユネスコの無形文化遺産に登録されました。京料理は国の登録無形文化財に登録されています。人間国宝では、杜氏や料理人などの「食文化」分野が対象に加えられます。

これらのことは、文化庁が京都に移転したことによって、京料理や和食に対するさまざまな学びがあり、全国的に食にまつわる新しい制度ができることにつながっているのではないかと感じています。

他にも、2025年に第1回「MUSIC AWARDS JAPAN」が京都で開催されました。これは日本の音楽業界を代表する5団体(日本レコード協会、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、日本音楽出版社協会、コンサートプロモーターズ協会)が、「アジア版グラミー賞」となる国際音楽賞を目指して立ちあげたアワードです。オールジャパンで日本の音楽の魅力を海外にアピールしていくのが狙いです。その第1回開催地として選ばれました。

京都に来られる方々に何を求めておられるかと聞くと、京都文化の背景にある精神性に関心が高いです。例えば、オードリー・タン氏は、AI時代を生きるなかで、京都の文化に触れると、もともとの人間としての感性を取り戻すことができるのだそうです。京都に来たとたん、時計の針がゆっくり動いているように感じるそうです。

京都には人間性や人間の本質のようなものを取り戻す何かがあるのかもしれません。それは精神性なのか文化なのか、どのような言葉で表現すればよいのかわかりません。しかし少なくともAIに答えられないことを問いかけるという意味においては、京都は、人間性や人間の本質を取り戻すのにふさわしい場所であり、そういう役割を果たすべきだと思います。

京都哲学研究所が立ち上げられた京都会議でも、何でもAIに置き換えられる時代だからこそ、人間の本質に触れるようなディスカッションが必要であるとして、今後2年に一度、開催するそうです。その舞台として京都がふさわしいと考えられています。

ただし、課題もあります。それは、京都に住んでいる人が京都の精神性をよく分かっていないのではないかということです。子どものころから京都の文化的価値に触れていく必要があります。そういう機会の創出にも取り組んでいく必要があると思っています。

IVSでスタートアップ育成を加速
世界の挑戦者が集う新産業拠点へ

――産業振興や成長産業の育成についてお聞かせください。

京都に圧倒的に多い中小企業は、京都の宝だと言えます。どの企業も歴史を持ったのれんや技を保持しています。しかし、人手不足や事業承継が課題となり、黒字廃業するケースも出てきました。これまで以上に事業承継問題の解決に注力していかねばなりません。

京都に本社を置く世界最先端の企業もたくさんあります。そうした企業は京都から本社を移そうとしません。なぜなら、京都には彼らを支えるものづくりの技を持つ中小企業が集積しているからです。半導体産業がまさにそうです。今年4月、京都府は京都市とともに「京都府内半導体関連企業マップ」を公表しました。これは、ネジのような小さな部品を製造する企業から製造装置まで、府内の半導体産業の一覧のようなもので、幅広い企業を掲載しています。どのような企業があるか知ってもらい、半導体産業の発展に役立ててもらえるようにつくりました。

産業振興では、スタートアップの育成は欠かせません。スタートアップで次の京都の産業を担う企業をつくりたいと思っています。今最も注力しているのは国際スタートアップカンファレンス「IVS」で、4年連続京都で開催しています。今年7月のIVSには約1万3000人が参加しました。そのうち約2割は海外からの参加者でした。IVS公認のサイドイベントも京都市内で350以上開催され、市内中をスタートアップ関連の人々が歩き回っていました。毎年7月にスタートアップ関連の人が京都に集結するという風潮がかなり定着してきたと手応えを感じます。

京都府では、ピッチで優勝して起業する場合に1000万円の補助金を提供します。これは賞金ではなく、あくまでも事業拡大するための補助金です。今回は宇宙建築の次世代技術を開発する会社が優勝しました。昨年から中高生が投資家の前でアイデアを発表する「IVS Youth」も実施しています。今後、スタートアップ育成にはさらに注力していきます。

「IVS2026」ピッチイベントの様子

アドバイザー派遣でDX推進
経営者の意識変革にも注力

――産業や行政のDX、AI活用の取組についてお聞かせください。

AI導入やデジタル化がハードルになっている中小企業は少なくありません。しかし、生産性向上や企業競争力の強化には必須です。苦手意識のある企業に一歩踏み出してもらえるように、京都府では「中小ものづくりイノベーションアドバイザー派遣事業」を行っています。実績と専門知識のあるアドバイザーを企業に派遣して業務を見える化し、課題解決に向けたアドバイスを行い、DXを推進しています。

人材教育にも注力しています。京都府生涯現役クリエイティブセンターは学び直しのワンストップ窓口です。新しい分野について学びたい、転職したい、農業に挑戦したい、ボランティアをしてみたいなど、第二の人生に向かって学び直したい人々をサポートしています。何か新しいことをやってみたいけれど、何をすればよいのかわからない人にも、お話を伺い、その人に合う講座を紹介します。AIの基礎や業務活用について学ぶ講座もあります。

最近では経営者の意識改革の重要性が言われるようになり、さまざまなツールが出ていたり、中小企業庁の補助金を活用したりできます。経営者の意識が変わったことで、子育て世帯が在宅で仕事をできるようにIT環境が整備された、企業内に子育てスペースができたという事例も出てきました。今後も中小企業のDXやAI導入の推進に注力していきます。

 

西脇 隆俊(にしわき・たかとし)
京都府知事