NGK 社内外の連携から生まれた新ブランド「EnerCerLight」
NGKの超薄型リチウムイオン電池「EnerCera™(エナセラ)」を活用した、新ブランド「EnerCerLight(エナセライト)」。自動車関連事業への依存から脱却し、新規事業を育てるという全社的な方針のもと、奮闘してきたNV推進本部マーケティング部長で、MPD修了生の龍野雅美氏に話を聞いた。
龍野雅美
NGK株式会社NV推進本部 マーケティング部長(名古屋校12期生/2024年度修了)
海外勤務を経て経営企画室へ
新規事業開発に携わることに
NGKの超薄型・小型のリチウムイオン二次電池「EnerCera™(エナセラ)」は安全性、高容量、高出力、高耐熱、長寿命など優れた特性を兼ね備えている。この電池のマーケティングを任されたのがNV推進本部マーケティング部長の龍野雅美氏だ。龍野氏は1997年に九州大学文学部哲学科を卒業して日本ガイシ(現NGK)に入社した。最初の配属は金属事業部(電子部品材料)の営業。町工場を回って新規顧客を開拓する業務に従事した後、海外赴任が決まり、フランスで不採算事業の再建やヨーロッパ全域の事業に携わった。続く中国赴任ではITの伸長に合わせて中国全土で電子部品材料の営業を担い、2018年に帰国したあとは名古屋本社の経営企画室の専門部長となった。
「経営企画室で新規事業提案プログラムを作ることになりました。そのために新規事業を学ぼうと、2022年に企業派遣で事業構想大学院大学(MPD)名古屋校のプロジェクト研究を受講しました」
背景には産業構造の変化がある。NGKは電気を絶縁するための「がいし」を祖業とし、研究開発を重ねながら事業を拡大してきた。近年は自動車関連事業が主力だが、内燃機関からEV化への流れは加速し、市場の姿が変化している。自動車関連事業への依存は将来リスクとなり得ることから、新たな事業の柱を打ち立てる必要があった。2026年春、日本ガイシは社名を現在の「NGK」に改めると共に、ビジョン「カーボンニュートラルとデジタル社会に貢献する」を掲げ、全社を挙げて新規事業の育成に取り組んでいる。その先駆けの一つが龍野氏の担当していた新規事業関連のプロジェクトだったのだ。
プロジェクト研究の面白さから
個人として改めてMPD入学
「企業派遣としてMPDで学んだときの経験があまりに面白く、もっと本格的に学びたい」と考えた龍野氏は2023年春、個人としてMPDに入学する。その翌年、NV推進本部へ異動となった。NVとはニューバリューのことで、まさに新規事業育成を担う部署である。
「配属して最初に出合ったのがリチウムイオン二次電池のEnerCeraを使ったバングル型のデバイスでした。非常に面白いと感じたのですが、開発担当者は『試しに作ったものの、どう使うかはイメージがない』と言うので、自分なりに『こうしたら面白いのではないか』というデザインを描きました。イメージを絵にする手法は丸尾聰教授の講義で教わったものです」
色とりどりのバングル型デバイス
龍野氏が描いたデザイン案
MPDでの学びの中で印象に残っている概念の一つが「ネガティブ・ケイパビリティ」だ。不確実さや疑念が残る状況で拙速な結論に飛びつかず、不快な状態に耐えながら思考を深め、情報を集め、対話を重ね、仮説を磨き続けるという意味だ。龍野氏は「これまで即断即決を信条とする営業の仕事に長く携わってきました。答えが出ない状況で苦しんだ時期もありましたが、この概念を知ったことで、見通しの立たない状況への向き合い方が変わったと思います」と語る。
もう一つ、印象深い学びとして挙げたのが、副指導教員の中畑千弘特任教授の「発想は移動距離に比例する」という言葉だ。様々な人に会い、様々な場所に足を運んで話を聞く中で、発想が磨かれていくという考え方は新規事業開発に有効であり、現在も意識しているという。
自社の優れた製品を生かして
チームで築いた新規事業の軌跡
現在、龍野氏はNV推進本部のマーケティング部長として、新たに立ち上げたブランド「EnerCerLight(エナセライト)」の展開に力を注ぐ。
「私が描いたバングル型デバイスのデザイン案を、経営企画室時代から一緒に仕事をしていた博報堂プロダクツの浅井元規さんに見せて相談したところ、浅井さんのツテで芸能事務所につながり、そこからアクリルスタンドを光らせる台座という活用案が生まれました。それから試作を重ね、約2カ月後に第1号機が完成しましたが、次は量産化に向けたコストが壁になりました」
開発担当者がコスト低減策を検討する一方、龍野氏と部署のメンバーが展示会を回るなどして製造委託先を開拓。約1年がかりで、当初想定コストで受注してくれる製造会社が見つかった。
さらに、人気アニメ「推しの子」のバーチャルライブ向けの公式グッズに採用され、好評のうちに完売した。また、アイドルグループSKE48とのコラボレーションや、テレビ朝日主催イベントでのランタン演出なども受注。イベントでは想定外のトラブルなどもあったが、チーム全体で原因究明と改善に取組み、無事解決することができた。また、EnerCeraの特性を生かせる分野として、東北大学の研究室と連携した津波避難用バルーンの開発にも取り組んでいる。2026年2月には内閣府の実証事業として仙台市で実証試験を実施。エンターテインメント領域の実績を踏まえて、防災や減災といったソーシャルビジネス領域に応用した好例と言える。
SKE48とのコラボを果たした
「NV推進本部ではデバイスそのものを販売する段階を『EnerCerLight1.0』、その先にあるサービスやデータを活用した展開を『EnerCerLight 2.0』と位置づけています。この2.0構想のもと、アーティストとファンを繋げる機能やチケットの転売防止システムなども含めて特許出願を進めています」
当初はやや懐疑的な声もあがったが、プロジェクトが進むにつれて、若手や中堅社員から好意的な反応が寄せられ、経営層にも理解が広がっていった。龍野氏は「新規事業にはリーダー、エンジニア、プロジェクトマネジメント、セールスといった役割が必要です。今回は少人数のチームの中で役割が重なる部分もありつつ機能させることができました」と振り返る。今後もグッズやイベント等の協業パートナーだけでなく、技術や製造面でも協力できる企業を募り、事業の幅を広げていく方針だ。