re-MI 産後ケアを中核に子どもを安心して育てられる社会を目指す
相次ぐ乳幼児虐待事件の報道に胸を痛めたことをきっかけに、事業家としての道を歩むことを決めた毛利美礼氏。医療現場で培った知見とネットワークを生かし、育児に向き合う女性のケアから企業や自治体向けのソリューションまで、女性のライフステージに伴走するプラットフォーム構築に挑む。
毛利美礼 re-MI株式会社 代表取締役
(東京校13期生/2025年度修了)
管理職となったことで開眼
東大病院の看護師長として活躍
2026年5月にre-MI株式会社を設立した毛利美礼氏。事業内容は医療・テクノロジー・コミュニティを横断し、女性の健康と家族の未来を支えること。そのビジョンへの思いを込めて、社名は再生・再構築・再構成を意味する「re」に、未来の「MI」を組み合わせた。
毛利氏は医療関係者が多い家庭に育ち、看護系の大学を経て看護師となり、大学病院でキャリアをスタートした。
「大学病院は一般的な病院と異なり、臨床・教育・研究の3分野を網羅しているので、学びの多い職場です。でも、当時は自分自身の未熟さもあって、組織の上下関係の厳しさや分刻みの業務に息苦しさを感じ、3年で退職しました。その後、オーストラリアへの語学留学や海外添乗員、会社勤務など、看護と関係ない世界で過ごしたことで、とらわれていた価値観がずいぶん緩んだと感じます」
その後、転機が訪れる。当時、オーストラリアで仕事をする上で、日本で1年間の継続勤務実績が必要となり、東京大学医学部附属病院(東大病院)に中途採用で入職。当初は1年で退職するつもりだったが、昇進の話が浮上した。
「最初の大学病院での仕事が不完全燃焼だったこともあって、ここでやれることをやろうと決意し、最終的には看護師長まで任せていただきました。20年間勤めあげることができたのは、管理職として仕組みを作り、構造を見ることがモチベーションとなったからです」
発想を事業として構造化したい
医療界に閉じないモデルを模索
2020年頃、多忙な病院勤務の日々のなかで、毛利氏は相次ぐ乳幼児や児童の虐待事件の報道に胸を痛めていた。つらい目に遭っている子どもたちを少しでも助けたいと考えた毛利氏は5人ほどの有志と共に、子育て中の母親を支えるボランティア活動を始めた。しかし、コロナ禍で対面での活動が困難になり「ボランティアであろうと、先立つものがないと続かない」ことを痛感し、事業として成立させる道を模索し始める。そこで選んだのが事業構想大学院大学(MPD)だった。
「発想を事業として構造化していくノウハウを学べる点と、狭い医療業界だけでやっていても広がりませんから、人脈を広げられる点に魅力を感じました。当初は耳慣れないビジネス用語に戸惑うこともありましたが、先生方や仲間との交流から得るものは多く、最後にはなんとなく事業を語れるようになったと思っています」
特に忘れがたいのは2人の教員、渡邊信彦教授と野口恭平教授に師事したことだった。毛利氏によれば「自らも起業して会社を経営する渡邊教授から生きた知識を得る一方で、教員歴の長いベテランの野口教授がそれを学問的な構造として整理してくれる、というバランスの良さがあった」という。
「入学当初は児童虐待という社会課題に対し、子ども食堂の運営など子どもへの直接的な支援を構想していましたが、マネタイズの壁にぶつかっていました。そのころにいただいた渡邊教授の『大きなビジョンを見失うな』という助言が突破口となって、『根絶したいのなら、そもそも発生させなければいい』と気づき、子育て以前の母親への働きかけ、すなわち予防の入り口として産後ケアに目を向けることができたのです」
産後ケアは看護師としての強みを最大限活かせる領域でもあり、そこから事業構想のアイデアが広がっていった。毛利氏は「あの瞬間がなければ、おそらくまだ目先のものにとらわれたままだった」と振り返る。
安心して子育てできる社会を目指し
修了してからも進化続く
大学院修了後、毛利氏は東大病院を退職し、事業構想を実装するためにre-MIを設立した。中核となる事業の一つはBtoCの産後サポート事業「MAMANATM」(図)。看護師としての経験を活かし、独自に開発した産後ケア訪問サービスプログラムを提供する。
図 産後ケアを中核にした事業を構想
提供:re-MI
「日本では10%から15%が産後うつに陥るとされ、大きな社会課題になっていることから、自治体でも産後ケアに取り組んでいますが、単発のプログラムが多く、運用にもバラつきがあって必ずしも利用は多くありません。加えて、日本人特有の『頑張ってやらなきゃいけない』という意識や、サービス利用を『贅沢』と捉える風潮も、必要な支援が届きにくい遠因と言えます。こうした課題を踏まえ、MAMANAは1年間の伴走サービスとして設計しました。また、東大病院での勤務経験がある看護師・医師チームであることを強みに、属人化を避けた仕組みを構築しています」
もう一つの中核事業はBtoBの福利厚生・研修プログラム。背景にあるのは「キャリアを築いた女性ほど、出産年齢が高くなる傾向にあり、産後うつになれば職場復帰が遠のくという悪循環を断ち切りたいという思いと、古き良き時代のような、みんなでワイワイ楽しみながら子育てをする文化を作りたいという思い」だ。
「これは一個人の取り組みでは限界があるので、より大きな事業体に働きかける必要があると考えました。具体的には大手企業に対し、産休中から復職後まで社員に伴走する福利厚生プログラム、離職防止やエンゲージメント向上、DE&I推進などをテーマにした研修サービス、福利厚生などを提案。『あのグローバルカンパニーが取り組むということは大事なことなのだろう』という評価から社会現象が起これば、それが文化になると思っています」
起業から約4カ月、目下の課題は集客だ。BtoCの産後ケアはそもそもニッチな領域であることから、知人の紹介や協業を中心に輪を広げていく。BtoBは複数の企業との対話を重ねている段階だ。
「児童虐待のない、子どもたちが平和に暮らせる社会を実現するには、周囲の大人たちも余裕のある生き方をしていかなければいけません。MPDで学び思考を深めたことで、バラバラに見えていた課題が点から線、面となって捉えられるようになりました。子育てを中心に、女性のライフステージに伴走するプラットフォームを企業や地域の皆さんと共に実現したいと思っています」