90分の熱狂を地域経済の力に 茨城県鹿嶋市で広がるスポーツまちづくりと新規事業の可能性

(※本記事は「関東経済産業局 公式note」に2026年10月1日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

90分の熱狂を地域の力に!鹿嶋で広がるまちづくりの新たな可能性

こんにちは。関東経済産業局 流通・サービス産業課です。

私たちは、プロスポーツクラブや地域の関係者と連携し、スポーツをきっかけに地域で新たな事業や交流を生み出すなど、持続可能なまちづくりに取り組んでいる組織を支援しています。

この取組の一環として、令和8年8月3日、スポーツを活用したまちづくりに取り組む組織の皆さまを対象に「スポーツまちづくり情報交換会<視察会>in鹿嶋」を開催しました 。

前編では、鹿嶋で進む三つの取組を通じて、試合のために集まる人を地域での滞在や消費、新たな交流や事業へつなげるヒントを紹介します。

2万7401人が集まる力を、地域全体へ

2万7401人。

いきなりですが、この数字が何を表しているか、ご存じでしょうか。

これは、J1鹿島アントラーズがリーグ優勝を果たした2025シーズンのホームゲーム平均入場者数です。(出典:フォメラボ)

一つのまちに、これだけ多くの人が集まる。それは決して当たり前のことではありません。スタジアムを埋め尽くすサポーターの熱気と一体感は、まさに「90分の熱狂」です。

そして、その熱狂を90分だけでは終わらせない。多くの来訪者が生み出す活気を、まち全体の賑わいや新たな価値創出へと広げていく。

このようなスポーツをきっかけとした新たなまちづくりを鹿嶋エリアで実践しているのが、株式会社KX(以下、KXという。)です。

今回の視察会では、KXプロジェクトマネージャーの黒木康成氏にご協力いただき、KXが展開している取組の現場を訪ねました。

株式会社KX プロジェクトマネージャー 黒木康成氏 
株式会社KX プロジェクトマネージャー 黒木康成 氏

関東経済産業局がスポーツ?

「経済産業局なのに、なぜスポーツ?」

そう思われた方もいるかもしれません。

私たちが注目しているのは、競技そのものではなく、スポーツが地域にもたらす経済的・社会的な力です。

人口減少が進む地域では、地域の中だけで消費を増やしていくことに限界があります。地域外から人を呼び込み、新たな消費や交流を生み出していくことが重要になってきます。

プロスポーツクラブには多くのファンを惹きつけ、人が地域を訪れる力があります。その集客力や発信力を生かし、地域の賑わいや新たな事業の創出を促進していくことが、地域経済の活性化や持続可能なまちづくりにつながっていきます。

関東経済産業局では、このような視点から、スポーツを活用したまちづくりに取り組む地域や事業者を支援しています。

では実際に、KXは鹿嶋エリアをフィールドとしてどのような取組を行っているのでしょうか。

人とアイデアをつなぐスポーツバー「Asobiya」

Asobiya

最初に訪れたのは、鹿島神宮から歩いて4分、KXが運営するスポーツバー「Asobiya」です。

Asobiyaは、鹿行・カシマ地域における新たなチャレンジを生み出す拠点として2024年秋にオープンしました。

鹿島アントラーズの試合を観戦するスポーツバーとしての機能を持つ一方、新たなアイデアやつながりを生み出すコミュニティの場としても機能しています。

象徴的なのが「1日店長」の取組です。

KXは「地域で何かに挑戦したい!」という若者や「新たなアイデア」を求める地元企業の経営者などを「1日店長」として迎え、来店客との交流や対話の機会を創出しています。

店内でひときわ目を引く大きな円形カウンターは、店長と来店客が自然と顔を合わせ、会話が弾むようにという工夫によるものです。

そして特徴的な「Asobiya」という名前。この場所は、かつて地域の子どもたちに親しまれた玩具店でした。

その場所が今度は、大人たちの挑戦や交流が生まれる“遊び場”になってほしい。そんなKXの思いが名前に込められています。

黒木氏からは、行政と密な関係を築くことの重要性や、スタジアム外で消費を促進させることの難しさについてもお話しいただきました。

これらの論点は、後編で紹介する意見交換会でも大きなテーマとなりました。

挑戦のハードルを下げる「チャンス区画」

チャンス区画

続いて訪れたのは、Asobiyaから徒歩3分、鹿島神宮近くの交差点にある約300平方メートルの「チャンス区画」です。

「いつかお店を開きたい、でもいきなり店舗を構えるのは不安」

そんな人の最初の一歩を後押しするキッチンカー型のチャレンジショップです。

資金集め、物件探し、事業計画、集客や人材確保――。

実際に店舗を構えるとなると、内装工事等を含め初期投資が1000万円前後にのぼることも珍しくありません。

ところが、チャンス区画入居者は、最大2年間、月額3万円(別途、共益費月額1万円・水道光熱費が必要)でキッチンカーを借りることで初期費用を抑えられるうえ、人が集まる場所へ出向いて営業をすることもできます。

さらに、開業前からKXによる伴走支援を受けられるため、ノウハウがなくても安心して営業を始めることができます。

「やりたい」を「できる」に。

チャンス区画は、挑戦者の最初の一歩を後押しし、地域の新たな賑わいをつくっていました。

チャンス区画第1期生 「TWOSONS」(写真左)と「匠soupcurry」(写真右)
チャンス区画第1期生
「TWOSONS」(写真左)と「匠soupcurry」(写真右)

来訪を滞在と消費につなげる「No.12 Kashima Fan Zone」

No.12 Kashima Fan Zone

最後に訪れたのは、鹿島アントラーズのホームスタジアム「メルカリスタジアム」から車で5分ほどの場所に位置する「No.12 Kashima Fan Zone」(以下「No.12」という。)です。

No.12は、トレーラーハウスを活用した客室や、アメリカンスクールバスを改装したサウナなどが楽しめる複合型の宿泊施設となっています。

また、サッカー好きの方はピンときたかもしれませんがサッカーチームにおいて、「12」という数字は、サポーターの背番号とされています。

このまちを訪れたファン・サポーターが、ホームもアウェイも関係なく集える場所になってほしいという思いを込めて、KXはこの場所を「No.12 Kashima Fan Zone」と名付けました。

鹿島アントラーズのホームゲーム1日に訪れる人は、実に2万7000人あまり。

しかし、東京駅から車で1時間30分という地理的な特性と、近隣エリアの宿泊施設不足が理由で、その多くは鹿嶋に滞在することなく、日帰りでこの場所を後にします。

No.12は、地域外からの来訪者にまちの魅力を伝えるとともに、滞在時間と地域内消費を広げるための一つの試みです。

トレーラーハウスを改装した客室
トレーラーハウスを改装した客室

さらに注目すべきポイントは、No.12のオープンにあたり13社の地元企業がトレーラーハウスの“オーナー”として関わっている点です。

「このまちの魅力をもっとたくさんの人たちに知ってもらいたい。」

そんな思いを抱えていたのは、KXだけではありませんでした。No.12は単なる宿泊施設にとどまらず地域の企業や経営者をつなぎ、それぞれの思いを形にする場にもなっていました。

三つの取組に共通するもの

今回訪れた三つの施設は、それぞれ異なる役割を担っています。

  • 「Asobiya」は、人とアイデアをつなぐ場
  • 「チャンス区画」は、地域で挑戦する人の一歩を支える場
  • 「No.12」は、来訪者を地域での滞在と消費につなげる場

共通しているのは、スポーツによって生まれた人の流れを、試合観戦だけで終わらせず、地域の交流、挑戦、事業へ広げようとしていることです。

しかし、こうした取組を個別の「点」で終わらせず、地域全体へ広げ、継続させるには何が必要なのでしょうか。

後編では、鹿島アントラーズの取組と参加者による意見交換から見えてきた、スポーツクラブ、地域企業、行政の連携について紹介します。

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関東経済産業局 公式note