2018年2月号

地域×デザイン まちを編みなおすプロジェクト

デザイン料は農作物で支払い可能 宮城発、新発想のデザイン会社

矢島 進二(日本デザイン振興会)

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宮城県に2016年に誕生した「ブルーファームカフェ」は、農家がデザインや商品開発の悩みを何でも相談できる"デザイン公民館"。農家がデザインを依頼する場合、対価を農作物で支払うこともできる。起業の背景と新しい事業モデルの魅力を解き明かしたい。

元理髪店をリノベーションした「ブルーファームカフェ」。青い鳥がシンボルマーク

店内ではオリジナルのコーヒー豆やジュース、ジャムなども販売。2017年度グッドデザイン賞を受賞

八百屋とデザイン事務所を融合させ、食と農業やデザインの相談で気軽に立ち寄れる「カフェ公民館:ブルーファームカフェ」が、2016年11月に宮城県大崎市岩出山に誕生した。最寄りの岩出山駅は東北新幹線・古川駅からローカル線で約20分。奥州三名湯に数えられる鳴子温泉にも近い農村地帯だ。

運営会社のブルーファームは、全国のレストラン・ホテル・百貨店などに東北の食材を販売する「八百屋」と、農家や地元企業からのデザインやブランディングを請け負う「デザイン事務所」という、2つの事業を展開している。カフェ公民館は農家のデザイン相談を受ける窓口として機能する。

ブルーファーム代表の早坂正年氏(右)、デザイナーの高橋雄一郎氏(左)。2月下旬から開催する「地域×デザイン」展にも登壇する予定

バイヤーとデザイナーの二人三脚

現在ブルーファームは早坂正年さんと高橋雄一郎さんの二人で運営している。早坂さんは愛知県、高橋さんは青森県の出身で、ともに山形にある東北芸術工科大学でデザインを学んだ同級だ。

早坂さんは卒業後、大手カタログギフト会社に就職し、勤務地の仙台で雑貨や食品のバイヤー職を10年積む。お取り寄せブームなどもあって産地を巡り逸品を探しだし、生産者とのネットワークをつくった。特に、山形の置賜地方でシャインマスカットを口にした際、全身に電流が走るほど衝撃的な美味しさを体感し、農産品に一気にのめり込んでいったという。その後、宮城の米農家の婿養子となり退職する。

当初早坂さんは田んぼにでていたが、米づくりよりも、前職の経験を活かし自分の企画したものをお客に届けることを事業化したくなり、2014年にブルーファーム社をまず八百屋業として起業する。特に東日本大震災と風評被害に直面して復興支援に対する限界を感じ、また農家から何とかして欲しいと直接相談も受けたことで、自社のミッションを固めていった。

高橋さんは大学卒業後、仙台にある広告制作会社でグラフィックデザイナーとして活躍。また2005年には「宝さがしから地域デザインを考える会」を設立するなど、地域に根ざした個人ワークも並行した。ブルーファームでデザイン事業を立ち上げるために、2015年に退職し早坂さんと合流した。

これまでに手がけたデザイン事例をディスプレイ

近隣住民が気軽に立ち寄れる店としても定着

グランドハイアット東京にも卸す山形県産のお米

東北の幸せの青い鳥

ブルーファームというネーミングは早坂さんが考えたもの。「震災後、東北の一次産業は破壊的な状態でした。私たちは"ドラえもん"のように逃げずに人の役に立ちたかったので、ドラえもんの『青』をモチーフとした名にしました。またそこからシンボルとして『幸せの青い鳥』が浮かび、お客さんにとっての『青い鳥』になりたいという想いで付けました」

会社としては、全国のホテルやレストランへ業務用食材の販売と卸(八百屋)が事業の柱である。特に六本木ヒルズのグランドハイアット東京のレストランとはお米の栽培契約を結び、年間4トンを卸している。その契機は、ハイアットに「山形フェア」の企画を売り込んだこと。料理長を始めとする関係者を山形に招き、田植えに参加してもらうなど当事者意識をもってもらった結果、ハイアットのご当地フェアで過去最大の売上を達成した。今ではお米だけでなく日本酒や蕎麦などの契約もとっている。

こうした取り組みが地元農家にも評判になり、徐々に商品開発や販路開拓の相談を受けるようになる。デザイン事業を強化するためには農家との接点づくりが必要だと、カフェのオープンに至った。店舗は岩出山地区のメイン通りにある理髪店だった家屋をフルリノベーションしたものだ。

デザイン料と農産品を物々交換

1階のカフェとしての営業は、土日の2日間のみ。メニューはオリジナルブランドのコーヒーや、フレッシュジュースやデザートなど。平日はデザインの相談を受ける場として利用し、実際のデザインワークは2階で行う。

「コーヒーをサービスするためだけにやっている場所ではなく、デザインを売るためのスペースです。来店客の6〜7割は飲食ですが、残りはデザイン相談が目的です。県内だけでなく、遠くからの視察も増えてきました」

また「デザインを誰かに頼みたいが、どうしていいのかわからない農家がほとんどです。特に6次産業化を目指すにはデザインは必須ですが、デザインに投資する予算がないのが実態。そのための相談窓口がこのカフェです。デザイン料を現金で用意できない場合は、"物々交換"として農産品で受け取ることもやっています。質の高い食品は私たちの卸ルートに乗せることで現金化ができますので。この手法で東北のブランド構築と、1次産業へのデザイン導入を図っていきたいと思っています」

デザインをして終わりではなく、印刷や加工の手配、ロット調整まで一括で請け負うのがブルーファームの特徴。さらに商品化の仕組みづくり、販路開拓まで実績があるので、農家の安心感は高い。「最近はこうした情報が口コミ的に拡がってきました。また毎月のように講演会を行っており、聴講された方がここに来て相談を受けることも増えてきました」

八百屋とデザインのハイブリッド

食のフェアのように、食材の仕込みからメニュー開発、有名シェフのアサイン、そしてPRまで一括でプロデュースできるのも、ブルーファームの特色だ。

会社としての年間売上は2,500万円を超える規模となり、内訳は八百屋業とデザイン業の売上がほぼ1/2だという。「このハイブリッドな事業モデルは他に見本がないはずです」と早坂さんは言う。

最近では、このモデルの延長で食を中心にした鳴子温泉地区の活性化プロジェクトの企画提案など事業範囲は拡がっているという。今後はこの公民館を使い東北の農業ブランドの価値を高め、さらに東北の食を世界に発信する拠点に育てていって欲しい。

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