100年後も残る「青山」文化を エリアマネジメントの極意

東京・青山で進められている大規模再開発計画「北青山三丁目地区まちづくりプロジェクト」に計画段階から地域と行政・民間企業の橋渡し役として参加し、現在はエリアマネジメントを推進する水野成美氏。100年後の未来を見据えたまちづくり構想や、青山への想いを聞いた。

水野 成美氏 市街地開発専務取締役、まちづくりののあおやま理事、事業構想修士

国道246号線・青山通りに近接する北青山三丁目地区で進められている再開発計画、北青山三丁目地区まちづくりプロジェクト。老朽化した都営住宅団地である青山北町アパート(約4ha)や沿道区域を東京都が集約化して建て替え、創出した用地を活かして民間開発を段階的に誘導しながら、青山通り周辺エリアの拠点となる複合市街地を形成するプロジェクトである。

2019年12月の都営住宅棟竣工に続いて、2020年5月には「ののあおやま民活棟」が竣工。都有地を約70年間の定期借地によって借り受け、賃貸マンションとサービス付き高齢者住宅、商業施設、保育所、地域交流施設等で構成した25階建ての複合施設だが、特徴のひとつが3500m2の大規模緑地だ。明治神宮など計画地周辺地域の潜在植生や生態系に基づいて外構計画が行われた、多様な生物が生息できる豊かな緑地であり、ビオトープや芝生広場なども設けられている。

ビオトープでの生き物放流の模様

今回紹介する水野成美氏(事業構想修士)は、本再開発計画に参画し、地域と行政・民間企業の橋渡し役を務めてきた。現在はののあおやまのエリアマネジメントを推進する(一社)まちづくりののあおやまの理事及び、ののあおやまの企画運営会社たりたりの代表として、空間を活用したイベントやまちづくり活動に取り組んでいる。

構想家だった叔父の影響
大学院で学び、まちづくりへ参画

水野氏は衆議院議員である叔父(故・大塚雄司氏)の秘書を約13年間務めたあと、叔父が設立した北青山のビル管理会社、市街地開発(株)の役員に就任した。

「1964年の東京オリンピックを機に246号線の道路拡幅が行われたとき、叔父は地権者の合意を得て4棟のビルを開発しました。市街地開発はそれらのリーシングや管理を約60年間行ってきましたが、ビルを含む周辺の再開発計画が持ち上がりました」

水野氏は60年前の市街地再開発事業を知るために会社に眠っていた資料を読み込んだ。そして、叔父の構想力やアイデアに驚いたという。

「叔父は、住民主導のまちづくりによって、青山を出会いがあり子育てがしやすい、夢のあるまちにしたいという構想を持ち、その夢を冊子や映画にして残していました。また、周辺の小学校の生徒に『未来の青山』というテーマで作文を書いてもらい、冊子に載せるなど、未来をつくるために子どもたちを巻き込んでいました。これをお手本にしなければいけない、ただ権利変換をして資産運用するだけでなく、私自身がもっと俯瞰的な目を持たなければいけないと考え、事業構想大学院大学に入学しました」

会社勤務経験はほとんどなかった水野氏。2013年の入学当初は授業についていくだけで精一杯で、他の学生に対するコンプレックスの塊だったというが、「大企業社員であれ経営者であれ、誰もが知識や経験は偏っているんだ、ならば自分の得意分野を活かせばいいんだと気づいてからは自信が付きました」と振り返る。大組織に属さない強みを活かし、企業と行政、あるいは企業と地域の間に立ち“翻訳者”になる。会議室に籠もるのではなく、豊富な人脈を活かして人と人を繋ぐ。自身の強みに基づく行動を続けるうちに、青山のまちづくりへの想いも徐々に固まっていった。

「経済優先の再開発では、幕の内弁当のようにどのまちも同じになってしまいます。地元から“こういうまちにしたい”と発信し、大手ディベロッパーや行政の助けを得ながら、青山らしいまちを主体的につくろうという考えが生まれました」

そこで2014年、市街地開発としての青山への再開発の想いをまとめた冊子『青山構創』を発行。「自然回帰」を再開発のテーマとして掲げ、ディベロッパーや行政への配布や説明を通じて仲間を増やしていった。さらに2018年には、大手ディベロッパーを含む南北青山三・四丁目のビルオーナーで組織する青山まちづくり協議会で、ビジョンブック『青山まちみらい』をまとめた。これは「時間をつないでいく」「自然との共生を志す」「照葉樹林を共に育てる」「感性を刺激する」「気品を守る」など、青山のまちを再開発するにあたって守るべき10の価値観をまとめたものだ。作成にあたっては、地域住民によるマインドマップ作成ワークショップなども行ったという。

「青山構創やビジョンブックの提言は、ののあおやまの開発にも多分に生かされています。建物・景観デザインを監修した建築家の隈研吾氏にも面会して、地元の価値観に合わせた表現を強くお願いしましたし、緑地空間のデザイン監修をしたランドスケープ・プラスの平賀達也氏とも膝を突き合わせ話し合いました」

自然共生と文化を次世代へ

こうして広大な緑地空間とともに整備されたののあおやまだが、複合施設の竣工はまちづくりの始まりにすぎない。水野氏は今、豊かな自然環境を活用したまちづくり活動やイベントの実施を通じて、自然と共生する生活やまちの新旧の文化を次世代に繋ごうとしている。「環境学習や日々暦を感じられる暮らし、そして風景づくりに取り組んでいます。例えばお茶会が緑地空間で日常的に開かれている、子どもと大人が一緒にダンスを楽しんでいる、そんな風景を残したいですね。私達が行っているのは、100年後の人たちへの『伝言』を残す活動かもしれません」

イベントでは、多彩な奏者による定期的な演奏会を通じてまちと音楽のかかわりを作る「青山 音ノ会」を不定期で開催。2020年からは、江戸時代から明治初期まで行われた竹竿の先に提灯をつけて高く掲げるお盆の行事であり、歌川広重の浮世絵にも描かれた「星灯篭」を甦らせるイベント「青山星灯篭」を毎秋に開いている。

尺八とダンスのイベント「月白風清」

こうしたイベントだけでなく、日常の中にこそまちづくりのチャンスは存在すると水野氏は言う。「例えばゴミ拾いなら、子ども用のゴミ拾いトングも用意しています。『ゴミを集めよう』と言うと子どもは喜んで手伝ってくれるし、『どうやったらポイ捨てをなくせるかな』と問いかければ真剣にアイデアを出してくれる。本来ならば管理会社が費用化するような仕事を、いかにイベントや学びのチャンスに変えるか、いかに困りごとを皆で解決するか。そのために日々実験を行っています」

北青山三丁目地区まちづくりプロジェクトは、2028年の完成を目指して沿道一体型開発区域の開発がスタートする。「ののあおやまでの経験も活かして、新たなまちづくりへの主体的な提言を行い、地域に貢献していきたいです」と水野氏は笑顔で語った。