チタンの素材メーカー 技術力を核にオープンイノベーション模索

1952年に日本で初めてスポンジチタン製造の工業化に成功してから70余年。スポンジチタンの製造では世界屈指の生産能力を持つ大阪チタニウムテクノロジーズ。現在、主力事業に次ぐ第2、第3の事業を生み出すべく、コア技術を核とした新規事業の創出に力を入れる。

川福 純司(大阪チタニウムテクノロジーズ 代表取締役社長)

先端技術に欠かせない素材
常に1つ上の品質を目指す

第二次世界大戦後の間もない時期にスポンジチタン界のパイオニアとして歩みをはじめた大阪チタニウムテクノロジーズ(OTC)。スポンジチタンは、クロール法と呼ばれる製錬技術を用いて、チタン鉱石から単体のチタンを取り出したもの。多孔質な形状からスポンジチタンと呼ばれる。同社の製造する高純度・高品質なスポンジチタンは、航空機分野、電力・化学プラント、エレクトロニクス産業、医療分野等を中心に幅広く活用されている。

「New Challenge Best Quality」が同社のブランドスローガンだ。この6月に新社長に就任した川福純司氏は「ものづくり業というのは、需要家に優れた品質を提供して、対価を頂く業種です。特にスポンジチタンは、人の命を預かる飛行機に使われており、利便性だけではなく絶対的信頼品質が求められます。厳しい要求品質に対し、常に1つ上の品質を作りあげてきた。ここで終わりというものはなく、常に次のベストを作りあげていく。これが、我々にとっての『Best Quality』だと考えています」と語る。

70余年の歴史において、スポンジチタンを中核事業に成長を遂げてきた同社。一方で、金融危機や疫病などで世界の景気が低迷し経済活動が停滞すると、チタン素材を使う製品の需要が減り、OTCの主力事業が大きなダメージを受けるというリスクと常に隣りあわせで歩んできた。このため、チタン以外の事業開発はOTCにとって非常に重要な意味を持つ。しかしながら、1960年の生産開始から第2の事業の柱としてOTCを支えていた、シリコンウエハーの材料となるポリシリコン事業からは、2018年に競争激化などを理由に撤退するという決断を下している。

これが、OTCが「New Challenge」として、ポリシリコン事業に代わる事業開発に本格的に力を入れるきっかけとなった。以前から手掛けていた、チタン粉末や一酸化ケイ素(SiO)蒸着材の事業を加速させる機運が高まり、ここから新しい柱となり得る製品を生み出そうとしている。さらに、全く一からの開発案件を立案していくため、2021年10月に新規事業推進グループを設置した。

「新規事業推進グループは、技術部隊、製造部隊、企画部隊、営業部隊が寄り集まった混成チームとなっています。市場調査から顧客対応、事業開発、知財戦略まで一気通貫で検討していく、製販一体でものづくりを考える、当社のなかでもユニークな部隊となっています」。

専属の混成部隊のもと、営業部隊が顧客ニーズを素早くキャッチし、技術部隊で最適プロセスを構築し、製造現場でサンプルを作り顧客からの評価を得る、というサイクルを高速で廻し、新事業のスピード感ある立ち上げを狙っていく。

OTCが近年導入した大型グローブボックス。不活性環境下で高温実験が可能だ。コア技術を活かした研究・開発を進めている

リチウムイオン電池に期待
技術ベースの共創が将来につながる

同社で現在、事業化を推進しているのが、リチウムイオン電池の負極材の開発。OTCでは、スポンジチタン製錬の真空技術を応用した独自製法を用いて、1960年代から光学用蒸着材や包装フィルム材として高品質のSiOを供給してきた。その知見を活かし、独自技術によるSiO負極材の量産プロセス開発に取り組み、2022年4月、岸和田製造所にパイロットプラントを設置、操業を開始している。ほか、航空機部品や医療機器部品の製造へ向けた、低酸素球状チタン粉末の3Dプリンター原料としての応用、主に半導体業界をターゲットとした高純度チタンのさらなる高度化などにも取り組む。さらに2024年6月には、外部組織とのオープンイノベーションを推進するべく、「新事業共創プロジェクト」(https://otc-cocreation.com/ )を立ち上げた。

リチウムイオン電池向けのSiO負極材は期待の新製品だ

「いま世の中が求めるGX(グリーントランスフォーメーション)へ向け、目指すべき理想の企業像、社会像を実現するには、自社のリソースだけでは限界があります。我々の持つコア技術と他企業、大学、研究機関などが持つリソースを掛け合わせることで、次世代の技術、新事業を創出していきたいと考えています」。

「新事業共創プロジェクト」では、同社がこれまでチタン製造で培ってきた、塩化・蒸留・還元・真空分離・溶解・電気分解・ガスアトマイズ(金属や合金の粉末を得る手法)などのコア技術を紹介。新素材開発、既存の素材の一層の高純度化、プロセスの効率化、コストダウン、チタンの特性を生かした新しい応用など、新技術や新製品を開発するための共創パートナーを広く募集している。

「共創の手段としては、ジョイントベンチャーを設立する、工程の委託、国の補助金などを活用しての事業化など、様々な選択肢があると考えています。この6月にプロジェクトを開始したところですが、海外の企業も含め、既にいくつかお話をいただいています」。

イノベーション人材の育成を強化
専属チームが活動開始

創業から70余年、スポンジチタンをはじめ、チタン鋳塊、四塩化チタン、チタン粉末、SiOなど、チタン製造に係わる技術やプロセス、そこから派生する素材の高度化・高品質化に努めてきた。これらを生かせる新規事業の創出やオープンイノベーションの推進には、既存事業の高度化とは異なる、イノベーションを起こす人材が必要だ。

「従来の考え方とは異なる発想で新しい事業を推進していける人材を育てるため、人的資本経営を強化していきます」と川福氏は話す。

同社の人的資本経営の柱は3つ。1つは従業員の教育環境を作ること、2つ目は、しかるべき人材の採用、3つ目が職場環境の改善だ。

人的資本の強化を目指し、企画・設計を行う専属プロジェクトチームを2024年4月に発足。社員1人ひとりのモチベーションや現状、秘めた想いなどを掘り起こし、イノベーションにつながる教育プログラムの提供や職場転換も含め、会社の成長戦略と社員の希望とがマッチングするような人材の育成・活用・登用を進めていく。また、社内に足りないピースについては、外部からしかるべき人材を採用し、人材戦略の構築を図る。

「OTCの目指す、将来のあるべき姿に欠かせない新規事業の創出。これを実現するには、リソースとしての人材が欠かせません。新規事業やオープンイノベーションへの我々のチャレンジを発信することで、新卒の方はもちろん、キャリア採用の方にも共感いただき、マッチする人材を効果的に採用、育成してくことが重要だと考えています」。

 

川福 純司(かわふく・じゅんじ)
大阪チタニウムテクノロジーズ 代表取締役社長