宮城県・村井嘉浩知事 半導体企業誘致を核に、「富県宮城」へ道筋をつける
2025年11月に県政史上最多の6期目がスタートした村井知事。世界的半導体企業の誘致を成長戦略の柱に据え、スマート農業やDX推進、東北一丸となったインバウンド誘客など、多角的な施策を展開している。最後の任期と位置づける6期目への想いと、知事が描く宮城の未来像に迫る。

村井 嘉浩(宮城県知事)
世界的半導体企業の誘致で
県経済の次なる柱を構築
――6期目の成長戦略として、半導体企業の誘致を掲げています。どのような企業を誘致し、製造業をどう活性化させていくお考えですか。
半導体産業は、生成AIの急速な普及やデジタル化の進展により、今後も飛躍的な成長が見込まれる産業であり、県経済の発展を牽引する次なる柱となる産業です。
世界トップレベルの研究・人材育成拠点である東北大学や高度な都市機能、産業インフラに加え、これまでの誘致活動で培ってきた知見を活かし、世界経済の基盤を支え、供給体制の構築や技術開発の動向がデジタル産業全体に大きな影響力を持つような世界的な半導体企業の誘致を目指しています。このため、2024年度末に策定した「みやぎ半導体産業振興ビジョン」に基づき、人材育成、取引創出、工業団地の整備など、立地優位性を一層高める取組を進めながら、企業誘致活動にあたっているところです。
2024年に半導体メーカーが進出する話があったものの白紙になった経緯がありますが、一連の誘致活動を通じて、我が県の立地環境が非常に優れたものであると再認識できました。今回の貴重な経験を次の飛躍の糧と捉えて、誘致に取り組んでまいります。
半導体企業の誘致は、直接的な経済効果にとどまりません。関連企業の集積や地元企業との取引創出、高度人材の集積による新産業の創出など、幅広い産業の高付加価値化による県内経済の活性化や、若者の地元定着にも寄与するものと期待しています。
創造的復興で培ったスマート農業
新品種と気候変動対応で攻める
――東日本大震災からの復興過程で、農業の効率化・高度化が進みました。さらなる農業振興の戦略についてお聞かせください。
東日本大震災からの創造的復興により、宮城県の農地の大区画整備率は全国トップクラスとなり、自動操舵トラクターやドローンなどのスマート農業技術の導入が進み、農業生産の効率化・高度化が図られつつあります。
宮城県は、「ひとめぼれ」「ササニシキ」を生んだ米どころです。食料安全保障の観点からも、国内の消費者の方々に責任を持って高品質の宮城米を安定的に生産・供給していきます。加えて、今後の国内人口のさらなる減少を見据え、高付加価値の園芸・畜産振興につながる取組も推進しているところです。
この成果の1つとして、「いちご」の新たな品種を開発しました。名前は「ころろんベリー」で、大粒で食べ応えがあり、あふれる果汁とみずみずしい食感が特徴です。私も試食しましたが、非常においしかったです。今後の園芸分野の柱となるものと期待しています。

宮城県が開発したいちごの新品種「ころろんベリー」
気候変動への対応も喫緊の課題です。水稲の高温耐性品種の開発に注力するとともに、さらなる高温化でも栽培しやすい新たな園芸品目の導入に向けた研究も進めています。
農業生産の基盤となる農村地域の振興も非常に重要です。6次産業化による付加価値創出に加え、インバウンド向けの事業など、農村地域の活性化につながる新たな取組も実施していきます。農業は宮城県の地域社会を支える基幹産業です。米、園芸、畜産のバランスの取れた農業構造に向けた取組を進めるとともに、儲ける農業を実現し、持続可能な農業と安定的な食料供給を目指していきます。
スタートアップが拓く新産業
ナノテラスで研究開発の好循環を
――成長産業の育成やスタートアップ支援について、どのような取組を進めていますか。
県では、みやぎ高度電子機械産業振興協議会の活動を中心に、「半導体・エネルギー」「医療・健康機器」「航空・宇宙」を重点分野に位置づけ、県内企業の技術高度化や生産性向上、販路拡大に取り組んでおります。
こうした成長産業の集積を推進するには、新分野を切り開くスタートアップの育成が重要であり、100を超える産学官金が得意なリソースを提供する「テクスタ宮城」を設立し、研究開発の支援や創業・成長を地域全体で支援しています。最近では、非常に難易度の高い大気圏再突入技術を有する東北大学発スタートアップであるElevationSpaceなど、今後の成長が大いに期待されるスタートアップが生まれてきております。
また、2024年度に利用開始された3GeV高輝度放射光施設「Nano Terasu(ナノテラス)」は、エネルギーや材料、食品など様々な分野で活用されており、多くの企業や研究機関が集積し、新たなイノベーションを創出するコアとして、将来の産業発展に大きく貢献することが期待されております。こうしたスタートアップの成長や優れた施設の活用により、世界の注目を集める研究開発、成果の事業化、人材育成の好循環を、東北の地から生み出していきます。
外国人宿泊者が過去最多
東北一丸で欧州からの誘客に挑む
――宮城県の観光産業の現状と、今後の観光振興戦略についてお聞かせください。
2024年の県内宿泊者数は、コロナ禍前の2019年と同水準の988万人泊まで回復しました。また、外国人宿泊者数は2025年に過去最多の100万人泊に達し、全国の対前年比伸び率(+8.2%)と比較しても大幅に増加(+29.3%)するなど、これまでの台湾を中心とした東アジア向け誘客プロモーションの成果が現れています。
2024年10月に、私が全国知事会のプロモーションでフランス・パリを訪れた際に、現地の旅行会社から「欧州ではバカンスを利用して滞在日数の長い旅行をする人が多い。東北の認知度は低く、東北各地を周遊する旅行商品造成に東北一体で取り組んではどうか」とのアドバイスをいただきました。
このため、新潟県や東北各県知事、仙台市長、東北観光推進機構理事長に相談し、欧州からの誘客拡大に一丸となって取り組むこととしました。早速、2025年10月からパリに県職員を派遣し、現地旅行会社の訪問や商談会・旅行博への出展を通じて、東北の魅力を売り込んでいます。引き続き、現地旅行会社との関係を深めながら、航空会社や鉄道会社と連携して現地旅行会社を招請し、ツアー商品の造成につなげていきたいと考えています。
加えて、2025年11月に全国知事会の海外プロモーションで韓国を訪れた際には、現地の若い方から「旅費が高いので東北には行きづらい」との声を伺いました。実際に韓国からの宿泊客は前年を下回っており、他の東アジア諸国に比べ伸び悩んでおります。こうした韓国の若者の来訪を後押しすべく、さらなる路線の拡充に向けたプロモーションや空港側の受入体制強化にしっかりと取り組んでまいります。
また、本県ではこの1月に宿泊税を導入し、旅行者の満足度向上に向けた観光コンテンツの造成や県内各地を巡る周遊バスツアーの運行など、観光地としての魅力向上を図っています。「第6期みやぎ観光戦略プラン」では、2027年の数値目標として県内宿泊者数1104万人泊、外国人宿泊者数120万人泊を掲げました。外国人宿泊客が全体の約1割を占める九州に追い付くことを当面の目標とし、東北一丸となって全力を尽くします。

宮城県の外国人宿泊者数は2025年に過去最多に達した。インバウンドに人気の観光地は、伊達政宗騎馬像がある仙台城跡(左上)や、蔵王連峰を東西に横断する、宮城県と山形県をつなぐ山岳道路「蔵王エコーライン」(左下)など Photo by oben901/Adobe Stock
生成AIを全職員に開放
企業のDXも統一ブランドで加速
――AI活用やDX推進について、県庁内部と県内産業の両面での取組をお聞かせください。
宮城県では、「宮城県庁生成AI活用5原則」を策定し、2023年6月から試行的に生成AIの利用を始め、翌2024年4月から、ChatGPT、Copilot、Geminiの3種を全職員に解放して本格利用を開始しました。さらに2024年9月にはGoogle社と地域課題の解決に向けた協定を締結し、生成AIを活用した行政サービスの効率化に共同で取り組んでいます。
2026年度からは、全職員が有償版生成AIを活用できる環境を整備することとしています。これにより、職員一人ひとりが日々進化するデジタル技術を柔軟に取り入れ、県庁全体が時代に即した行政運営へとアップデートされることで、業務の生産性向上とより質の高い県民サービスの実現が図られると考えております。また、県で培ったAIの活用ノウハウを市町村とも共有することで、県全体で活発にAIを活用できる環境を整え、様々な地域課題を効果的に解決できる職員を育成していきます。
なお、2026年度の新規事業として、県民への情報発信力の強化と、よりきめ細かい情報提供体制の構築のため、AIを活用してチャットボットや最新の県政情報をまとめた動画作成等を開始する予定であり、県政情報をよりわかりやすく届ける仕組みにも取り組んでまいります。
県内中小企業を対象としたアンケート調査によると、デジタル技術を導入済みの企業はようやく半数を超えたところであり、デジタル化やDXへの支援が急務となっています。このため、デジタル化や生成AIの活用を現場でリードする人材の育成、システム構築等への支援に加え、DXセミナーの開催やIT企業と県内ユーザー企業の連携強化を進め、生産性向上を後押ししています。2026年度からは、県内中小企業のデジタル化に向けた施策全体を「Digital Frontier MIYAGI」として新たに取りまとめ、統一ブランドで総合的に推進しています。新たなロゴマークを設定し、県内企業のみならず商工団体や自治体等へ積極的に情報発信しています。AIなどの新技術を活用しようとする企業に対しては支援を別枠で拡充し、産業支援機関や各種産業団体との連携も一層強化していきます。
ローコストアリーナの建設で
東北に若者を呼び込む
――6期目の公約にはローコストアリーナ構想もあります。構想のポイントについてお聞かせください。
本県、そして東北地方における最大の課題は「人口減少への対応」であり、私自身、強い危機感を抱いております。首都圏への若者の流出に歯止めをかけ、持続可能で魅力ある地域づくりを進めるためには、多くの若者が集い、人々が行き交う活気に満ちた拠点をこの宮城の地に設けることが重要です。
近年は大都市を中心にアーティストの公演数が拡大する一方で、東北は空白地帯となっており、関東圏の次は北海道が会場候補となっている実態があるそうです。そこで、一定規模の人口を有し、国内主要都市からのアクセスもよい本県であれば、大規模な興行需要を取り込める可能性が十分にあると考え、昨年の知事選挙の際に政策集でお示ししました。
昨今の建設費高騰を踏まえ、いかに県の財政的負担を軽減するか、そのためにはどういった手法が考えられるのかをしっかりと精査し、「ローコスト化」を図ることが重要な視点です。アリーナの整備を実現することで、県民の皆さまが様々なエンターテイメントに触れる機会を創出するとともに、交流人口の拡大により、本県ひいては東北一円の活性化につながることを期待しています。今後も関係者のご意見を伺いながら、知恵と工夫を凝らし、持続可能な整備・運営手法について様々な観点からしっかりと調査・検討を進めていきます。
――「6期目が最後」と表明されていますが、最後の任期で達成を目指されることについてお聞かせください。
私の座右の銘は、「天命に従って人事を尽くす」です。知事就任後に策定した「宮城の将来ビジョン」では、強固な経済基盤を確立し、県経済の持続的成長や発展を目指す「富県宮城の実現」を掲げましたが、これは政治家として私に課せられた天命であり、最後まで責任を持ってその歩みを進めていきます。半導体企業の誘致や仙台医療圏の病院再編、復興完了へ向けた取組など、困難な課題についてこの任期中にしっかりと道筋をつけることが私の使命です。引き続き、県民誰もが幸福を実感し安心して暮らせる地域づくりに全身全霊を捧げ、その職責を果たしてまいります。

- 村井 嘉浩(むらい・よしひろ)
- 宮城県知事