エータイ樺山社長が描く永代供養墓の新たな価値創造 寺院と創る「ポジティブな超高齢社会」
年間16万件を超える墓じまいと檀家制度の変容という社会変化を、寺院への全額投資という独自のビジネスモデルで事業機会に転換する永代供養墓のリーディングカンパニー、株式会社エータイ。同社が掲げる「ポジティブな超高齢社会」の実現に向けた事業構想と、寺院を地域コミュニティの中心として再定義する新たな価値創造について、代表取締役社長の樺山玄基氏に話を聞いた。

永代供養墓で社会インフラを創る
株式会社エータイは、全国100以上の寺院と提携し、永代供養墓事業を展開している。2007年の事業開始以来、累計3万組以上が利用し、2025年6月26日には東証グロース市場への上場を果たした。
同社が向き合うのは、少子高齢化と核家族化が顕在化させた「お墓の継承問題」である。厚生労働省の衛生行政報告例によれば、墓じまい(改葬)件数は2009年の72,050件から2018年には115,384件へと、10年間で1.6倍に増加。さらに令和5年度には16万件を超え、過去最多を更新している。
「子どもに負担をかけたくない」「お墓を守る人がいない」という声が増える一方、檀家制度の変容により多くの寺院も新たな運営モデルを模索している。樺山氏は、この寺院と顧客双方のニーズに応える「プラットフォーム」として、永代供養墓という新しい供養の形を提供していると語る。
顧客には年間管理費不要の永代供養墓を、寺院には安定収益と宗教活動に専念できる環境を提供する。樺山氏はこれを「三方良し」のビジネスモデルと表現する。
初期投資全額負担という革新的発想
同社は永代供養墓の企画・建立から広告宣伝、販売、メンテナンスまで一貫して同社の全額費用負担で代行。現地には同社スタッフが常駐し、顧客対応から日常管理まですべてを担当する。特に、永代供養墓の建立には数千万円規模の投資が必要だが、エータイはこの費用を全額負担している。このフルサポート体制により、寺院は初期投資なしで新たな収益源を確保することが可能となる。同社がこの体制を確立するにあたり、「1寺院1寺院、丁寧に関係を築き上げ、信頼を積み重ねてきました」と樺山氏は強調する。
この着実な積み重ねが結実し、同社は「いいお墓」調査で全国永代供養墓販売数4年連続No.1(鎌倉新書調べ。調査期間:2021年1月1日~2024年12月31日、調査概要:「いいお墓」に掲載されている全国の企業における永代供養墓の販売数を調査。)を獲得している。
20年かけて築いた競争優位性
同社の競争優位性は、寺院との信頼関係にある。樺山氏の父が創業した同社は、当初全く異なる事業を行っていたが、新たな社会貢献事業を模索する中で、知人の寺院関係者から永代供養について聞き発想し、2007年にこの事業を始めた。宗教の専門知識もない中で、1軒1軒の寺院と対話を重ね、知見を積み上げてきた。
現在、同社の提携寺院は15都府県にまで展開されている。競合による新規参入について樺山氏は「これまでの20年の積み重ねは、一朝一夕には再現できないはず」と自信をもつ。「各寺院の特性を理解し、地域のニーズを把握し、現地採用のスタッフが日々お客様と向き合う。この積み重ねが、持続的な競争優位性となっています」。
今後は関東を中心とした既存展開地域でのさらなる展開や、人口動態を踏まえた上での新たな地域への展開も計画している。顧客は居住する市区町村内でお墓を探す傾向があるため、地域密着型の展開が重要になるという。
そして、同社の成長を支えるもう一つの強みが、堅実な財務基盤である。「創業以来20年間、無借金経営を貫いてきました。これにより、初期投資の全額負担という大胆な戦略を継続できています」と樺山氏は説明する。借入に頼らない経営により、市場環境の変化にも柔軟に対応できる体制を構築。この財務的な安定性も、寺院との長期的な信頼関係の構築を可能としている。
事業承継が生み出した新たな成長
2019年から代表取締役社長を務める樺山氏は、創業者が築いた堅実な経営基盤の上に、チームの力を最大限に活かす組織運営を加えることで、さらなる成長を実現してきた。上場に必要なガバナンス体制の構築を進め、段階的に組織の成熟度を高めてきた。
最も重視したのは、ビジョンとミッションの明確化である。「ポジティブな超高齢社会を創造する」というビジョンと、「みんなの未来を安心とワクワクで満たすサービスを提供する」というミッションを、全社員と議論し策定した。
同社は、社員が成果への責任を前提に、担当業務を通じて成長し続けることを奨励している方針のもと、自発的な提案が生まれる組織風土が醸成されつつある。こうした組織をさらに強化するため、社会貢献性の高さに共感する中途採用者を中心に人材の採用を進めている。また、社員同士の交流を促進する施策に加え、年に一度、社員が自由に活用できる福利厚生制度「ワクワク申請」など、独自制度の導入を通じて、組織の活性化と一体感の向上を図っている。
寺院から始まる地域創生への挑戦
「寺院は本来、地域コミュニティの中心でした。役所のような機能も持ち、人が集まる場所だったのです」と樺山氏は語る。この原点を現代的に再解釈し、寺院を「集う場所」として活性化する構想を描いている。
すでに同社は、子ども向けイベントや地域祭りなど、多世代が交流する企画を各地で実施。千葉県市川市の妙正寺では、800年の歴史を持つ寺院を舞台に、地域交流イベントを定期開催している。
デジタルマーケティングも強化しているが、樺山氏は「大切なのは適切な距離感」と強調する。永代供養墓の認知度向上に向け、有益な情報を提供し、顧客に選んでもらう。一方的な発信ではなく、対話を重視した関係構築を目指している。
「お墓といえばエータイ」と認知される企業を目指すという樺山氏。寺院と共に、地域と共に、ポジティブな超高齢社会を創造する―その構想は、日本の超高齢社会における新たな社会インフラのモデルを示している。
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