鹿児島県・塩田康一知事 農林水産業・観光・企業の「稼ぐ力」を強化

奄美大島や屋久島など魅力的な離島が多くあり、県土の約3割を離島が占める鹿児島県。豊かな自然や個性的な食・文化が集積する「宝箱」のような地域だが、一方で7月にはトカラ列島で地震が頻発し、離島の防災対策における課題も浮き彫りになった。鹿児島県の将来ビジョンについて、塩田知事に聞いた。

塩田 康一(鹿児島県知事)

誰もが安心して暮らし
活躍できる鹿児島の実現を

――2022年に改訂された「かごしま未来創造ビジョン」の進捗や、計画のポイントについてお聞かせください。

コロナ禍や、デジタル化の進展、SDGsやカーボンニュートラルなどにより、経済社会は大きく変化しています。2022年に改訂した「かごしま未来創造ビジョン」では、変化が激しい社会の中で県民が一丸となって挑戦すべきテーマや行政課題を明確化し、本県が今後進むべき方向性やビジョンをわかりやすく示しました。

本県が目指す姿は、「誰もが安心して暮らし、活躍できる鹿児島」です。そのような鹿児島県の実現に向けて、「未来を拓く人づくり」「暮らしやすい社会づくり」「活力ある産業づくり」に取り組み、この3つの好循環を作り出すことで目指す姿を実現していきます。具体的には農林水産業・観光・企業の「稼ぐ力」の向上、防災対策の充実と強化、デジタル化、カーボンニュートラルへの対応など、多岐にわたる課題に取り組んでいます。

海外で人気が高い
鹿児島の農林水産物

――農林水産業の「稼ぐ力」の強化に向けては、どのような取組をされていますか。

農林水産業の「稼ぐ力」の向上では、販売量の増加、販売単価の向上、生産コストの低減、担い手の確保・育成に取り組んでいます。その結果、2023年の農業産出額は5,438億円で過去最高となり、7年連続で北海道に次ぐ全国第2位を堅持しています。食料安全保障が大変重要な課題となる中で、日本の食料供給基地・鹿児島としての責任を今後もしっかりと果たしていきたいと思っています。

特に、畜産では、5年に1度開催される全国和牛能力共進会の2022年鹿児島大会で、県産和牛の代表ブランドである「鹿児島黒牛」が2大会連続で「和牛日本一」に輝きました。

また、お茶は、2024年産の荒茶生産量が、初めて日本一となりました。今、抹茶は海外で非常に人気が高くなっています。本県は特に有機栽培茶の生産に注力しており、その栽培面積は全国の2分の1を占めています。

本県の牛肉、ブリ、お茶をはじめとする農林水産物は海外でも高い人気を誇っており、2024年度の輸出額はおよそ471億円と4年連続で過去最高額を更新しています。2025年度の目標額500億円の達成に向け、米国やEU、アジアなどへの販路開拓に引き続き取り組みたいと思います。

県産和牛の代表ブランドである「鹿児島黒牛」

ダイナミックな自然を強みに
観光関連産業の「稼ぐ力」を強化

――観光も鹿児島県の基幹産業の1つですが、観光関連産業の「稼ぐ力」に向けた取組についてお聞かせください。

鹿児島県には、雄大な桜島、世界自然遺産の屋久島、奄美大島・徳之島など、豊かな自然があります。その他、多彩な食、歴史、伝統、文化など、多くの地域観光資源に恵まれています。市町村や民間と一体となり、こうした観光資源を活かした魅力ある観光地づくりに取り組んでいます。

特に2つの世界自然遺産は本県の観光産業の大きな強みです。屋久島は今や世界的ブランドです。奄美大島・徳之島や屋久島をはじめとする、自然環境の保全とその利用の両立という観点で、この地域の観光業の振興を図っていきたいと思っています。

国内からの観光客数は、ほぼコロナ禍前に戻りました。課題はインバウンドです。これまでクルーズ船の県内寄港は2019年の156回が最高でしたが、2025年は、10月15日に寄港回数が157回となり、過去最高を更新しました。一方で、鹿児島空港の国際線4路線は全て再開していますが、まだコロナ禍前の便数には戻っていません。現在、屋久島空港では滑走路の延伸事業を進めています。これによりジェット機の直行便が飛ぶようになれば、さらに多くの観光客を誘客できるのではないかと期待しています。

左/屋久島の人気観光スポット「ウィルソン株」 ©Soramido-Yakushima 右/奄美大島でのリバーアクティビティ

――2025年度は「鹿児島県国際戦略(仮称)」を策定されるそうですが、どのような内容の戦略なのでしょうか。

本県はこれまで、いろいろな形で国際交流をしてきました。しかし、これまではそれぞれの部署が縦割りで、それぞれのテーマのもとで交流してきました。それに横串を通して、それぞれの国・地域ごとに戦略的に取り組んでいく必要があるだろうということで、国際関連施策に関する今後の国・地域別の取組の方向性等を示す「鹿児島県国際戦略(仮称)」をまとめる予定です。

例えば、ベトナムとの交流では、これまではベトナム人材の確保という観点に重きを置いてきました。しかし、それは本県側の観点であり、ベトナム側にも鹿児島の農業技術を学びたい、文化交流をしたいといった要望があります。今後は相手国・地域のニーズや特性等を踏まえた相互の交流を、戦略的に展開していこうと考えています。

2つのロケット発射場を保有
宇宙産業の一大拠点を目指す

――企業の「稼ぐ力」をつける産業振興策では、どのような取組をされていますか。

企業の「稼ぐ力」では、人手不足や人件費の上昇により、生産性の向上や付加価値の向上が課題となっています。これまで、製造業やサービス業の生産性向上に向けた自動化・省力化・デジタル化などの支援を行ってきました。その結果一定の成果はあがっていますが、今後さらにこうした取組を集中的に支援していきたいと思っています。

――鹿児島県は以前から宇宙産業の振興にも注力されていますね。

本県には内之浦と種子島にロケット射場があります。これは他にない本県の強みだと思っています。

昨年、宇宙ビジネス実態調査を実施しました。その結果、県内の高校や大学での宇宙教育の推進や人材育成、大学や研究機関と連携した県内企業の宇宙産業への参入促進、企業誘致などが、本県において宇宙産業が発展する上で効果的であることがわかりました。

今後は宇宙産業参入のための企業への知識の普及や、宇宙関連企業とのマッチングなどを推進していきたいと思います。令和4年に宇宙ビジネス創出推進研究会を創設し、宇宙ビジネス参入への機運醸成を図っております。また、県内企業の展示会への出展支援などを行っております。これにより商談の機会も生まれていると聞いています。

10月16日に、「九州宇宙ビジネスキャラバン2025鹿児島」を本県で開催しました。これは宇宙産業の振興を目指すイベントで、宇宙関連のフォーラムや展示、ミートアップを行い、県内外の宇宙関連企業・自治体・研究機関など500名超の方にご来場いただきました。こうしたことを通じて、県内企業や学生など、さまざまな人々に宇宙産業に関心をもっていただき、宇宙への機運を盛り上げていきたいです。

種子島宇宙センターでは2024年2月、H3ロケット試験機2号機の打ち上げに成功

県庁18階の「かごゆいテラス」を
新事業全力応援拠点にリニューアル

――ベンチャーやスタートアップを支援する取組についてお聞かせください。

本県は「かごしま製造業振興方針」を定めています。その中で、一定の産業集積が図られている食品、電子、自動車関連産業に加えて、今後成長が見込まれる環境、新エネルギー、ヘルスケア、情報通信関連、ロボット関連を重点的な産業と位置付け、企業誘致や技術開発支援を行っています。

スタートアップの創出・育成では、若い世代の起業家マインドの養成、ビジネスプランコンテストの実施、実証事業や設備投資への支援など、起業前から各段階に応じた伴走支援を行っています。また、県庁18階のコワーキングスペース「かごゆいテラス」を、この5月にリニューアルして運営体制を刷新し、起業家・スタートアップ支援の拠点としました。ワークショップや県内外の先輩起業家との交流会など、起業を志す方々に向けたプログラムをさらに充実させて、新たなビジネスの創出に取り組んでいます。

9月には、すでに起業されており、本県の新事業創出を支援していくことが期待される方々数名をシリコンバレーに派遣し、現地の鹿児島県人会の協力のもと、セミナーの受講や人的ネットワークの構築に取り組んでもらいました。今後、培ったネットワーク等を活かしながら、企業家の新規事業創出やその支援に力を発揮されることを期待しています。

――県庁内でも、職員の方々が積極的に事業アイデアを出せるシステムにされていると伺いました。

はい、若手が政策を提案するコンテストを毎年実施しています。自分の所属部門以外の政策課題を考え、その解決策を提案してもらいます。これまでいくつか実際に事業化しています。

鹿児島県の地理的特性を
踏まえた防災対策

――6月からトカラ列島近海で地震が頻発しました。離島を含めた防災対策を今後どのように強化されますか。

本県は南北600㎞の非常に広い範囲に多くの離島を有しています。また、2つの半島という地理的特性もあります。これまで県では、台風・大雨・地震・噴火などに対応するために県土の強靭化としてハード面とソフト面でさまざまな対策を行ってきました。

2024年1月に発生した能登半島地震では集落の孤立が多く発生し、通信の途絶など多くの問題も発生しました。半島防災という観点からも、今後さらに防災対策に取り組みたいと思います。

今回のトカラ列島の地震では、建物が倒壊するような被害は出ませんでしたが、震度6弱をはじめとする2000回を超える地震が続きました。そのため本土に避難を希望される方には避難していただきました。しかし、畜産農家の方々は家畜の世話があるため離れられないということでした。県は、地震が長引く場合を考え、家畜も含めた避難の準備を進めていましたが、幸いなことに地震が収まったのでそこまでには至りませんでした。

シラス由来の低炭素コンクリート
の開発に取り組む

――カーボンニュートラルへの取組についてはいかがでしょうか。

2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロとすることを目指し、再生可能エネルギーの導入やGXなどを推進しています。また、カーボンニュートラルの機運醸成のため、「地球環境を守るかごしま県民運動推進大会」「カーボンニュートラルフェア」を開催し、イベントで燃料電池自動車や電気自動車を展示するなどして周知・啓発を行っています。そのほか太陽光発電や蓄電池の普及、LEDなど省エネ機器の導入、カーボンニュートラル等の計画策定などにも取り組んでいます。特に洋上風力発電では、いちき串木野市沖を再エネ海域利用法に基づく促進区域の候補として、この4月に国に情報提供を行いました。

鹿児島県ならではのGXの取組としては、シラス台地のシラスから抽出したガラス微粉末(VGP)を活用した低炭素コンクリートの実用化に取り組んでいます。VGPは、コンクリートの材料であるセメントと比較して二酸化炭素の排出量を90%以上削減できます。セメントの一部をVGPに置き換えることで、コンクリートの低炭素化が図られることから、VGPを量産化して建設分野でのGXを進めていきたいと考えています。

また、畜産が盛んな本県では、牛の飼養頭数が多く、牛のゲップなどから排出される温室効果ガスの削減が課題となっています。このため、栄養吸収率を高める飼料用アミノ酸を給与して、肥育期間の短縮等を図ることで、牛から排出される温室効果ガスの削減と生産コストの低減・生産性の向上を図る畜産GXに取り組んでいます。

――行政や産業のDXでは、どのような取組をされていますか。

2021年度にデジタル推進戦略を策定し、行政やそれぞれの産業分野でのDXを進めています。スマート農林水産業の推進や企業の生産性を向上させるAI、IoTなどの導入支援を行っています。また、離島では教育や医療のDXに注力しています。

豊かな自然と住みやすさで
離島を含めた鹿児島での生活が人気

――最後に、知事の鹿児島県への思いをお聞かせください。

鹿児島には豊かな自然、多彩な食、歴史・文化・伝統があります。鹿児島はこうした宝がたくさんある、まさに「宝箱」のような場所です。ぜひ皆さんにお越しいただきたいし、鹿児島の物産を手に取っていただきたいです。

また、鹿児島県は住みやすい場所でもあります。最近では離島を含めた鹿児島での生活に関心を持たれる方が増えています。季節や地域ごとにいろいろな仕事をしながら年間を通して仕事を確保する取組も行っています。移住フェアも実施していますので、ぜひ鹿児島県への移住や、二拠点生活も考えていただきたいですね。

 

 

塩田 康一(しおた・こういち)
鹿児島県知事