共創で得た連携力と認知 万博が遺した無形のレガシーをどう活かすか

2005年愛知万博を上回る約2557万人の来場者を集め、盛況の中で10月13日に閉幕した大阪・関西万博。パビリオン運営や関連イベントに向けた最新技術への投資、国際交流の活性化の手応えは? 非製造業・製造業を代表するキーパーソンが振り返り、祭典が遺したレガシーを関西経済に活かす道を探る。

今回対談に臨んだのは、銀行員として一般社団法人関西イノベーションセンターの専務理事に就任した廣瀬満知氏と、広瀬製作所の社長であり大阪商工会議所初の女性副会頭を務める廣瀬恭子氏。それぞれの立場から万博で発揮された「やってみなはれ!」の精神や、海外からも評価された大阪の魅力などについて語り合った。

大阪・関西万博開催を機に
連携が促進された

廣瀬(満) 関西イノベーションセンター(以下、MUIC)は、2021年に三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)が20数社の会員企業から賛同を得て設立した非営利型の社団法人です。万博に向けて関西に新しい産業や事業を創出することを目指し、まずは観光にテーマを絞りました。インバウンド増加という“うれしい状況”とオーバーツーリズム等の“悩ましいこと”が同時に発生することを踏まえながら、大企業×スタートアップによるイノベーション創出活動を展開し、万博以降にも繋がる実証実験を百数十件積み重ねました。

一般社団法人関西イノベーションセンター(MUIC Kansai) 専務理事 廣瀬満知氏

廣瀬(恭) 広瀬製作所は工業ミシンの上糸と下糸を絡めて縫い目を作る基幹部品の開発製造販売に特化しているメーカーです。また、副会頭を務めている大阪商工会議所(以下、大商)は、当社のような中小企業のみならず、大企業から個人事業主まで3万社以上の多様な会員を擁しています。万博では大阪産業局と共同で「リボーンチャレンジ」という展示を大阪ヘルスケアパビリオンで実施し、中小企業やスタートアップの出展を支援しました。合計430社以上が参加して、週替わりで新しい技術や製品を紹介することができました。

株式会社広瀬製作所 代表取締役社長 廣瀬恭子氏

廣瀬(満) 万博の開催は、組織の垣根を越えてベクトルを合わせる良い機会でしたよね。金融機関同士が連携するなんて普通は考えられませんが、MUICの活動に参加した金融機関や大企業の間には、リボーンチャレンジ出展企業の技術やサービスの社会実装に向けた共創のきっかけが芽生えています。

廣瀬(恭) 中小企業は社員数が少ないため、社内研修の機会や横の繋がりが不足しがちです。そこで大商が他社の社員と悩みを共有し、事例から学び合う機会を提供しています。

製造業においても「共創」が増加していますので、リボーンチャレンジの成果を一過性に終わらせず、出展企業への伴走支援を継続する方針です。大阪・京都・神戸が中心となって関西の商工会議所が連携し、行政・大学・研究機関、そして金融機関などにもご協力いただきながら、中小企業やスタートアップの事業化、販路開拓、海外展開などを支援する準備を進めています。

首都にも古都にもない
大阪ならではの魅力とは

廣瀬(満) 海外から見た日本でのビジネス展開には、言語や意思決定の遅さといった障壁があります。その一方で、豊かな自然環境や、少子高齢化に対する課題解決などにビジネスチャンスを見出す国も少なくありません。MUICでは、産業視察に留まらず、文化財の見学や食体験、伝統工芸との触れ合いなどの総合的なツアーを設計する「Tech Tours Kansai」の取り組みを開始しました。日本の旅行会社にとっても、これまで課題だった新たなインバウンド需要を掴むきっかけとなったようです。

廣瀬(恭) 海外パビリオンでは多くのビジネス交流会が開かれて、「ビジネス博」として活発に機能していると感じました。先行き不透明な時代だからこそ、日本や日本人に対する信頼の高さはアドバンテージになります。

廣瀬(満) 新聞等で万博の経済効果が報じられていますが、ヒト・モノ・カネの動きを活性化させたのは間違いないでしょう。また、2557万人を超える人々が来場したという事実は、「成し遂げた」という自信を地域にもたらしました。

さらに、インバウンド観光客にとって東京や京都ほど知られていなかった、大阪および関西の認知度向上に大きく貢献した点も見逃せません。東京ほど大きくない大阪のサイズ感や、オープンで多様性を受け入れやすい人柄が評価されています。

廣瀬(恭) 子どもたちや若い人たちにとって、日常とは異なる海外文化や技術に触れるインパクトは大きいですよね。当社はベトナムと中国にも拠点があるので、若手社員を対象に海外工場での半年間の研修を実施しています。できるだけ若いうちに組織全体を見る経験を積んでもらうことが狙いであり、コロナ禍での工場泊など予期せぬ事態への対応力を高めることにつながったと実感しています。

「やってみなはれ」で
わかったことを未来に生かす

廣瀬(満) 素晴らしい研修ですね。これは私の原体験なのですが、大学のときにアメフトで練習に練習を重ねたプレイを実践で使えなかったことがあり、いまだに悔やんでいて……。「良いと思ったらやってみる」姿勢を持ち、成否や批判を恐れずに踏み込んでいくことがイノベーションにつながる気がします。

銀行は信用第一の業界ゆえにミスを恐れる傾向があるかもしれませんが、若い人々が挑戦できる環境を組織として整えることが大切だと思っています。MUICでも、万博をきっかけに大学生のアイデアを大人が実行に移すプロジェクトが始動しましたが、常識を打ち破る挑戦を支えることで、大阪が「東京ではできないことを実現できる都市」になることを願っています。

廣瀬(恭)  私は前社長である夫を亡くした後、「やってみなはれ」の精神で素人経営者になりました。サントリー創業者である鳥井信治郎さんのお言葉として知られていますが、「やってみな、わからしまへんで」と続くそうです。挑戦した結果、視野が広がり、人生が豊かになりました。

廣瀬(満) MUICの活動も、当初は万博が終わったら発展的に解消するつもりだったのですが、実際に動かした結果、IRも視野に入れて、万博のレガシーを社会実装するためのプラットフォームとして続けることになりました。ただし、テーマは観光だけでなく、環境、健康、食、エンタメといった関西が強みを持つ分野に拡げていきます。企業版ふるさと納税の活用などで資金をつくり、南海電鉄や住友電工といった会員企業からの出向者も受け入れ、体制を強化しています。

廣瀬(恭) 大商はリボーンチャレンジを支援することで、大阪が文化・歴史と技術が融合した国際都市になっていく未来が想像できました。例えば大阪の歴史ある繊維産業の出展は、「光合成をする服」「透明に見える服」など、サステナブルかつ夢のあるアイデアに溢れていました。今後さらに他の団体と連携して、マッチング支援を通じて新産業を生み出し、世界の課題解決に貢献していきたいと思います。特に医工連携への関心は高く、大阪の強みであるライフサイエンス分野の強化を進めていけそうでワクワクしています。

 

全文をご覧いただくには有料プランへのご登録が必要です。

  • 記事本文残り0%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。