融合の力で描く100年先の社会
人口減少や少子高齢化による技術者不足、施設の老朽化など、深刻な課題に直面する上下水道インフラ。創業者の理想を受け継ぎながら「融合」を掲げて進化を遂げる株式会社フソウは、DXと地域共創を軸に持続可能な未来社会を描く。「進化する構想」について、代表取締役・社長執行役員(兼FUSOグループホールディングス株式会社代表取締役社長)の角尚宣氏に聞いた。

創業者の理想像/不変の指針
フソウの歩みは、1946年に香川県丸亀市において塩田事業や農機具の販売・修理から始まった。戦後間もない時代に、創業者・谷欣一氏が「地域の人々の暮らしを支える仕事をしたい」と起業し、水道用資機材の販売を手掛けたことがその後の発展の原点である。その後、資機材の販売だけでなく管路や浄水場等の建設、下水・農水の分野へと事業領域を広げ、暮らしを支える水インフラ全般へと拡大していった。
こうした成長の中で道標となったのが、創業者の言葉「理想のないところに新しい歴史の創造はない」だ。目先の利益にとらわれず社会課題の解決を第一義に置く姿勢は、今日まで企業文化として根づいている。また、「山椒は小粒でもピリリと辛い」という言葉もよく用いていた。挑戦と独自性を武器に社会へ存在感を示すべきだという教えであり、その思想は創業者の孫にあたる角氏の経営姿勢にも確かに受け継がれている。
「融合」で挑む/進化する構想
2010年、創業者の逝去は会社にとって大きな転機となった。経営陣は理念を問い直し、次世代に向けた成長戦略を模索する時期を迎えた。そして現在、そのバトンを受け継いでいるのが、2021年に社長に就任した角氏である。
角氏が掲げたキーワードは「融合」だった。従来から「総合力の発揮」は唱えられてきたが、部門横断の協働は十分でなかった。インフラが整備・普及期であったことを背景とした縦割りの風土を見直すべく「単体でできることは限られている。融合することで新しい挑戦の芽が生まれる」と強調し、営業・工事・技術・調達といった部門をつなぎ直すことで一体感を醸成した。
その延長線上に、FUSOグループとして取り組む、住まい・エネルギーといった新領域への展開がある。また、昨今の脱炭素やデジタル化といった社会変化は従来の経験値だけでは乗り越えられないが、視点を変えれば大きな可能性が生まれる。「融合」はそうした時代への挑戦を象徴しており、社内協力にとどまらず外部パートナーや自治体との共創を含めた広義の一体化を意味している。
DXと外部連携で/水インフラ革新
人口減少に伴う技術者不足は、全国の上下水道事業にとって深刻な課題だ。施設の老朽化が進む一方で担い手が減少すれば、社会の持続性そのものが危うくなる。こうした危機感から、フソウはデジタル技術への投資を積極的に進めている。
代表的な取り組みの一つが、施設情報の3D化だ。得意としていたBIM/CIM技術を軸に、人手不足、技術継承に悩む上下水道事業の現場のコミュニケーションを円滑化するデジタル技術を自社施工案件に積極的に導入。ベトナムに現地法人を設け、現地の高度なデジタル人材を活用するオフショア戦略を進め、将来的にはASEAN諸国とのシナジーも見据える。

さらに、下水道管路のドローンを用いた検証では、これまで培った3D化技術を生かし、老朽化が進む下水道管路を安全かつ的確に点検できる手法の構築を進めている。地元・香川県高松市と連携して進める検証は、自治体のニーズを汲み、試行錯誤を重ねながら地域に最適なモデル構築を目指しており、地域密着型アプローチの象徴といえる。
加えて神奈川県との共同研究によるAIを活用した先進的な漏水検知、横浜市との共同研究によるロボット巡回点検など、新たな実証も進む。多様な技術を積み上げる姿勢が自治体からの信頼につながっている。
こうしたDX推進には、外部パートナーとの協力が欠かせない。自治体や他社の知見と自社ノウハウを掛け合わせ、独自のソリューションを創出してきた。技術と人材、理念を結びつけることで、フソウは従来のインフラ企業の枠を超えた存在へ進化しはじめている。
地方自治体との共創/地域課題を解く
フソウの特徴は、整備・普及期から着実に積み上げた地方自治体との関係性にある。中小規模の自治体を中心に実績を重ねてきた同社にとって、地域に根ざす姿勢は経営の根幹だ。デジタル技術についても、地域の要望に応えながら新手法を導入する姿勢が高く評価されている。
さらに、地域との共生を象徴するのが拠点整備である。2016年に創業70周年を記念して高松市に建設したフソウテクノセンターは、最新の研究設備を備えるだけでなく、防災時の避難施設としても地域に開放されている。四国物流センターは有事に備えた物資拠点として機能し、研修センターは日本水道協会をはじめとした水道関係団体と連携した技能者育成の場を目指している。これらは防災・人材育成といった社会課題に備えるものであり、地域の持続力を高めている。

角社長は「地方自治体が直面する人口減少は自然の流れであり、悲観するよりも、その中で住民の生活水準をどう守るかが重要」と語る。拠点を地域に開き、安心・安全を支える取り組みを通じて、フソウは自治体にとって欠かせないパートナーになり始めている。

2030年を見据え/描く未来像
フソウは、総合水インフラ企業として、自治体からベストパートナーに選ばれる企業を目指している。商社・メーカー・建設業にとどまらず、自治体と課題を共有し、解決に向けて伴走する姿勢を重視している。その具体的な方向性の一つが、地域の上下水道事業におけるアセットマネジメント支援だ。PFIやPPPといった官民連携の枠組みで代表的なプレイヤーとしての役割を担い、公共サービスの持続可能性を高めようとしている。
角氏は「社会課題に正面から挑み、解決していくことで成果は後からついてくる」と断言する。この言葉には、創業者から受け継いだ理想と挑戦心が息づいている。規模の大小にとらわれず、「小粒でも辛みを放つ」存在であり続ける。その覚悟が、次の100年を見据えた同社の進化を支えている。
「FUTURE SOCIETYをつくっていく」。グループ名称のFUSOは、グループビジョンであるこの言葉の頭文字を冠した。角氏の語るビジョンは、単なるスローガンではなく、地域社会の安心・安全を守り抜く決意の表れだ。水・住まい・エネルギーという生活の根幹に関わる領域で、フソウは挑戦と独自性を武器に、新しい歴史を紡ぎ続けていく。
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