佐竹敬久・秋田県知事 地域資源の高付加価値化で産業革新を

2021年4月に4期目の当選を果たした、佐竹敬久知事。大変革の時代である今こそ、ベーシックなハード資源を持つ地方が強くなると言い、秋田県に豊富に存在するそれらの資源とテクノロジーを組み合わせて産業や雇用を生み出すなど、ゼロエミッション社会に適応した地域創生に挑んでいる。

秋田県知事 佐竹敬久氏
取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた(2021年7月26日)

――知事は、秋田の強みや秋田らしさを活かして、「将来に夢を持てる秋田の創生の実現を目指す」ことを掲げられておられます。特に、どのような点を秋田県の強みと捉えていらっしゃいますか。

現在、世界では3つの要素のもとに大変革が進行しています。

1つ目は、IoTやAIによる第四次産業革命。2つ目は、地球温暖化に起因するCO2ゼロエミッション社会への潮流。そして3つ目は、コロナパンデミックです。特にコロナパンデミックは人々の価値観を大きく変えました。こうした100年に一度ともいうべき大変革を背景に、ベーシックなハードを持っている地域が力を持つようになると考えています。

ベーシックなハードとは、人間が生きていく上で必要な資源です。秋田県には農業資源、豊富な森林資源や水資源、広大な自然の大地、再生可能エネルギーといった、これからの日本に必要な大半のものは揃っています。例えば戦時中、東京の人たちは空襲にみまわれて十分な食事をとることができませんでした。秋田でも空襲はありましたが、農村部では毎日白飯を腹いっぱい食べていて、生活に不便を感じることはあまりありませんでした。このように変革期ではサービス経済よりも、ベーシックなハードを持つところが強くなります。

しかし、「歴史は繰り返す」と言います。サービス経済が力を持っていた時代からハードの時代になり、おそらくその後またサービス経済の方向にいくでしょう。サービスはハードがなければ成り立ちませんが、問題はその時に秋田が持つこれらの資源にどういう付加価値を付けているのかということです。これまでの地域創生の成功事例は、ごく限られた地域や小さい分野での取り組みがほとんどで、あまり参考にはできません。

秋田県が目指すのは、「面」展開により、産業と雇用を生み出す地域創生です。この発想はかつての秋田にはありませんでしたが、ITやデジタルなどさまざまなテクノロジーを活用しながら秋田の有望産業を成長させていこうと考えています。それが本県最大の課題であり、未来への足掛かりであると考えています。

第2期あきた未来総合戦略(令和2~6年度)

出典:秋田県

 

希少品でブランド価値を示し一般品で収益を上げる

――ソフト時代に対応する産業を創出するための具体的な施策をお聞かせください。

秋田県は国内有数のコメの生産地ですが、コメは価格が安いため、それだけをやっていても農業生産額は上がりません。

そこでコメに加えて、枝豆やシイタケ、ネギなど他の農作物で、出荷量・販売額・販売単価のいずれかで日本一をとることを目標に、力を入れています。2019年度には、枝豆の京浜中央卸売市場への出荷量で秋田県が日本一になるなど、努力が実を結び始めています。

コメについても、秋田の新しいブランド米「サキホコレ」が来秋市場デビューする予定で、希少品種という付加価値を付けて販売します。

例えば、レクサスはトヨタブランドを代表する車ですが、トヨタはレクサスでは商売をしていません。一番売れているのは一般車で、そこで商売をしています。「サキホコレ」もレクサス同様、秋田米のブランド価値を示すためのもので、商売は一般米で行います。そこを間違えないようにしなければいけません。

コメに関して言えば、省資源や省エネを重視する時代では売り方も変わるはずで、これからはパックごはんの時代が来ると思っています。パックごはんは、レンジにかける時に電気を使いますが、各家庭で水や電気を使って炊飯するよりも省エネになります。

2021年7月には、大潟村のコメ集荷・販売業者、金融機関などが出資して設立された「株式会社ジャパン・パックライス秋田」のパックごはん製造工場が完成しました。この工場で秋田の美味しいコメでパックごはんをつくり、国内だけでなく、アジア市場などへの輸出にも力を入れていこうと考えています。

森林資源については、現在の木材価格の高騰を受けて、地元企業はかなり増産を行っています。製材大手の「中国木材株式会社」が能代市に地元の木材を加工する製材工場を建設するため、今年5月に能代市と基本協定を締結しました。2024年春には本格稼働する予定です。原木から住宅部材などの高度な加工品を総合的に製造することで、市場を広げます。

また、新工場では製材過程で出る端材などを活用した木質バイオマス発電も計画しています。

再生可能エネルギーの導入拡大が
産業を集積し活性化する

――秋田県は風力、地熱、水力などの再生可能エネルギー資源が豊富ですが、この分野についてはどのような構想をお持ちですか。

再生可能エネルギーで一番注力しているのが、風力発電事業です。当県は風況に恵まれており、風力発電の導入量が全国一位となっています。現在、能代市にある「風の松原風力発電所」で発電された電力の一部を活用して水素を製造し、国産ガスをベースとした都市ガスと混合して、都市ガスに近い熱量に調整した水素混合ガスをつくり出し、家庭や事業所などで活用する実証実験も行われています。

風の松原風力発電所(能代市)地元企業9社と能代市が出資する、風の松原自然エネルギー株式会社が運営する発電所。出力2300kWの風力発電設備17基が海岸に立っている。平常時は電力系統への送電となり、災害時には蓄電池から防災拠点に電力を供給する専用線を検討中(風車自立運転システムにより2週間以上供給可能)。上の画像は蓄電池設備。 画像提供/大森建設株式会社

2022年には秋田港および能代港で着床式洋上風力発電の商業運転も開始される予定です。今後さらに洋上風力発電事業が進めば、日本の再生可能エネルギーの相当量を秋田県が持つことになるでしょう。地元企業も、これをビジネスチャンスと捉えており、関連する技術者をスカウトしたり、蓄電池を設置して風力発電所で発電した電力の一部を非常用電源として活用できるようにしたりと精力的に動いています。こうした動きはこれまでの秋田にはありませんでした。

風力発電設備のメンテナンスも地元企業が行うことができるよう、人材育成等の取組が進められています。

また、消耗部品あるいは、海外から輸入するには輸送効率が悪い大型の部品は、地元企業に発注しようかという話も出ています。鉱山で栄えた当県には大型の鉱山機械を製造してきた実績があり、加えてコンデンサの製造拠点もあります。こうしたものを上手くマッチングしていけば、風力発電関連の産業が活性化していくでしょう。

再生可能エネルギーの地産地消が実現すれば、農産物や工業製品のゼロエミッションが実現します。例えばイギリスでは、2035年から輸入品は全てゼロエミッション由来に限るとしています。

こうした流れは今後世界で拡大していくでしょうから、再生可能エネルギーを求める企業が秋田に拠点を設ける可能性も考えられます。再生可能エネルギーの地産地消には、制度面を始めとして課題があるものの、我々行政はその仕組みづくりを全力で考えていかなければなりません。

輸送機産業に求められる柔軟性
今後はIT産業の集積に注力

――知事はこれまで輸送機産業施策にも力を入れてこられましたが、コロナの前後で状況はどのように変わりましたか。

輸送機産業は、ガソリンからEVに替わっていけば、内燃機などのエンジン部品をつくる産業はしだいに廃れることになるでしょう。

問題はこうした流れにどう対応していくかです。エンジンとは別の方向に向かうのか、部品の構成を変えた新しい分野に挑戦するのか。流れが元に戻ることはありませんから、柔軟な対応が求められます。

一方、当県にはセンサーなどの精密電子部品製造会社が多いので、今後10年間でこうした企業に積極的に支援して成長させたいと考えています。

また、最近はテレワークが普及した影響で、企業誘致が加速しています。ほとんどがIT企業で、秋田に拠点を置き、従業員の移住や地元採用を推進しています。今後、IT化は黙っていても進んでいくでしょうから、IT企業など情報関連企業の集積をさらに進めていきます。

変化に合わせられるか否かが地方の将来を決める

――最後に、知事が目指す理想の秋田県の姿についてお聞かせください。

全国的な傾向でもありますが、秋田県は、人口減少・少子高齢化という大きな問題に直面しています。高齢者の比率が高い人口構造の現状では、短期間で人口減少に歯止めを掛けることは困難な状況であります。

しかし、少し視点を変えてみてください。例えばイギリスやフランス、ドイツなどは日本の半分程度の人口であり、仮に日本の人口が半減したとしても、世界で存在感を示しながら国力を保つことは十分可能です。問題は年齢構成のバランスです。今は少子高齢化が進んでいますが、あと10年もすれば私を含む団塊世代の人口が減少し始めます。

これからは農業をはじめ多くの産業がテクノロジーによって、少ない人数で生産性を上げるやり方に変わっていくでしょう。先ほども言いましたが、秋田には日本という国が存続するために必要な産業が全部と言っていいほど揃っています。これをどのように発信して、若者を取り戻すか。

実は秋田は有効求人倍率が高いのですが、高学歴の人材が活躍できる職場は十分ではありませんでした。そのため、若くて優秀な人材は県外に流出していました。それがこの変革期で、輸送機産業ではEV車の研究開発や開発設計に携わる人材を求めています。IT企業でも優秀な人材が必要です。特に研究職は大学や県の研究機関との関係で、秋田市周辺に集中する流れができています。

また、これまで低かった所得に関しても、新たに進出した誘致企業に給与を本社並みにしてもらいたいと申し入れたところ、ほとんどの企業が聞き入れてくれました。今まさに、優秀な若い人が県内で就職したり、外部から集まる条件が揃いつつあるわけです。そうなると、地元企業にも給与を上げて優秀な人材を採ろうという風潮が生まれてきました。

時代はどんどん変化します。大切なことは、変化に流されず前向きに捉えて、変化に合わせていくことです。それができるか否かが、地方の将来を決めるのだろうと思います。それともう一つ、他所の成功事例を真似するのではなく、自分たちでセオリーや手法を見出し、自分たちで汗をかく。これしかないと思っています。

 

佐竹 敬久(さたけ・のりひさ)
秋田県知事