2016年1月号

アスリートが地域を変える

ラグビーワールドカップ 地域経済・観光・教育へのインパクト

嶋津 昭(ラグビーワールドカップ2019組織委員会 事務総長)

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ラグビーワールドカップ2019組織委員会は、日本大会を一過性のイベントではなく、その準備・開催を通じて、ラグビーの普及を図り、地方経済の底上げと青少年教育の推進等、永続する成果に繋げる機会にしたいと考えている

イングランド大会を振り返って

第8回ラグビーワールドカップ2015イングランド大会は、10月31日午後、ロンドン郊外のトゥイッケナム・スタジアムでの決勝戦で、ニュージーランドがオーストラリアを34対17で破り、44日間にわたる20か国の熱い戦いを締めくくった。ニュージーランドの大会初となる2連覇は、ラグビー発祥の地で開かれた第8回大会に花を添えることとなった。

続く閉会式では、ハリー王子からニュージーランド選手らにメダルが授与されスタジアムは歓声に包まれたが、筆者は、次の2019年にはいよいよ日本が開催国となることを実感し、身の引き締まる思いであった。同時に、今次大会での日本代表の歴史的活躍を改めて思い起こし、大スクリーンに映し出された富士山を背景に桜吹雪に包まれる日本にイングランドからバトンが渡されるシーンを万感の思いをもって見つめていた。

初戦で世界最強の一角、南アフリカ(今回第3位)を破り、一大会に3勝を挙げるというかつてない成績を収めた日本代表チームは、地元の新聞でも「最も不運だが(注:3勝して決勝トーナメントに進めなかったチームは過去にない)、恐らく最も勇敢なチーム」と称えられた。また、決勝トーナメント進出が絶望的になった直後の米国戦で全力を尽くす日本代表のひたむきな姿に共感した世界のラグビーファンも多かったことと思う。帰国してみれば、日本ラグビーを取り巻く環境は一変し、ラグビーに馴染のなかった人にも関心を持ってもらえるようになった。

こうした国民の関心と期待に応え、さらなる高みを目指すことが、ラグビーワールドカップ2019組織委員会(会長:御手洗冨士夫氏、以下、組織委員会)の使命であると考えている。

2019日本大会の目指すところ

ラグビーワールドカップの特徴の一つは、一都市開催ではなく、開催地が全国に分散すること。多くの国民が参加し、世界の人々と交流する機会が創出される

さて、ラグビーワールドカップを非伝統国の日本で開催することは日本ラグビー界を率いる日本ラグビーフットボール協会(会長:岡村正氏)の悲願であり、開催すること自体に大きな意義がある。加えて、大会開催の実務が委託された組織委員会は、政府、自治体、民間企業・団体、専門職の各分野の専門家で構成する事務局を縦横無尽に活用し、日本大会が日本の未来にとって意義深いものとなるよう設計、実施していくこととしている。

たとえば、ワールドカップは開催国の各地で7週間の長期にわたって開催されることから、海外のファンに長期間滞在してもらい、試合観戦の合間に観光を楽しんでもらうことが可能になる。また、各国選手が試合の疲れを癒し、次に備えて練習に励むことのできるキャンプ地の提供も必要になる。開催国には試合会場のみならずキャンプ地や観光関連施設を含むハード・ソフトのインフラを万全に整備することが求められている。そこで、ワールドカップのこれらの特性に着目し、地方都市の経済活性化や被災地の再生・発展、さらには、観光業の力も借りた地域や草の根レベルの国際交流の推進を企図している。

今回のイングランド大会の折りに、それぞれの都市が地域特性を生かした魅力ある受け入れ態勢を整えながら、中央組織(ワールド・ラグビー)と緊密に連携し、大会運営に積極的にかかわっていることを知った。特に、地域の市民ボランティアが行政と連携して道案内や交通整理など大会運営の重要な役割を担っていることに感銘した。これを参考に、組織委員会でも開催都市と緊密に連携を取り合い、大会運営を進め易い環境作りに努めたい。

また、ラグビーは、teamwork(チームワーク)、 respect(尊敬の念)、discipline(自制)、fairness(公正)などの価値観を尊重するスポーツであり、青少年教育のツールとしても優れた面がある。我が国でも、one for all, all for oneが引用され、チームプレーの大切さが強調される。試合後は敵味方を超えて互いの健闘を称えあうno sideという伝統もある。こうしたことから、英国をはじめ伝統国では、ラグビー経験者から各界の優れたリーダーが数多く輩出されてきたことが指摘されている。日本大会に向けてわが国においても青少年の心身を陶冶するスポーツとして、ラグビーを我が国はもとより近隣のアジア諸国にくまなく普及させていきたい。

ラグビーワールドカップの意義は数多くあるが、就中、地域経済の活性化と青少年教育や人づくりといった未来につながる投資の側面のあることを強調していきたい。かかる観点から、組織委員会の具体的取り組みの現状を以下にご紹介したい。

地域経済の活性化

2019年日本大会の開催都市は、2015年3月に、札幌、釜石、熊谷、東京、横浜、静岡、豊田、東大阪、神戸、福岡、熊本、大分の12都市に決定された。関係する都道府県を入れると19自治体が開催に関与する。これら開催都市では、会場の新設、既存会場の改築、改修を進める他、会場に集まる観客数を勘案して、会場周辺の道路をはじめとする公共交通や宿泊施設等のインフラ整備を行うこととしている。このうち2011年の東日本大震災の被災地である釜石では、被災した小中学校の生徒・児童の全員が避難した安全のシンボルとなっている鵜住居(うのすまい)地区に新競技場が建設されることとなっており、地元に勇気を与える希望の計画となっている。

また、開催都市は、2019年を待つことなく、前倒しで親善試合やPR活動を行うことを考えており、早い段階に海外から選手や観光客の訪問が拡大すると期待されている。さらに、2017年の春以降には、40か所以上と想像される海外代表チームのキャンプ地も決まる。これに備えて、外国からのお客さんを気持ちよく受け入れるための言葉の障害を緩和するための外国語の案内板、案内放送、ガイドの配置などハード・ソフトのインフラの整備が課題となっている。

EY総合研究所は、こうした準備状況を踏まえて少なく見積もっても直接的支出が1,900億円、間接効果が1,400億円、雇用創出効果が3万9,000人であると試算している。また、日本政策投資銀行も3つの開催都市を有する九州での経済波及効果を350億円と見積もっている。

組織委員会では、上記の課題に円滑に取り組んでいくため、2015年7月15日に組織委員会と地方自治体との間で開催自治体協議会を立ち上げるとともに、業務分担を明確にする契約を各自治体と交わした。11月1日からは各自治体よりエース級の担当官を事務局に差遣してもらい、地方とのコミュニケーション能力をさらにパワーアップしている。

2015年イングランド大会、アルゼンチン対オーストラリア戦を前に交流するサポーター

青少年教育と人づくり

次に、青少年教育にラグビーを活用していくアイデアについては、すでに、文部科学省との間で共有しており、小学校におけるタグ・ラグビーの普及等を積極的に進めていただいている。また、日本ラグビーフットボール協会では、小中高校生を対象とするスクラム・ジャパン・プログラムを2013年より開始しており、組織委員会でもこれを側面協力している。同プログラムは、財界からの財政支援を得ながら、(1)小学生ラグビーの普及支援活動、(2)中学生ラグビーの受け皿づくり、(3)高校生ラグビーの活性化、(4)タグ・ラグビーの普及支援、(5)青少年児童を対象とする観戦招待、(6)国際交流・貢献活動等を行なっている。一般国民のラグビーに対する関心が高まる中で、青少年にラグビーに触れて貰う機会を増やして、心身を鍛えて貰い、将来の競技人口とファン層の拡大にもつなげてまいりたい。

7人制や女子にもチャンス

縷々ご説明した通り、ラグビーワールドカップは、地方経済の活性化や青少年教育の推進の点から意義深いものである。また、来年のリオ・オリンピックでは、7人制ラグビーが正式種目に採用され、わが国の出場は男子が確定し、女子も確実視されている。イングランド大会で高まった関心をリオ・オリンピックでさらに高め、多くの方にラグビーとワールドカップに関心を持っていただき、ワールドカップを通じた豊かな未来づくりのために是非ともご支援をいただけば幸いである。

ロンドン郊外のトゥイッケナムスタジアムで、アルゼンチン対オーストラリア戦が開催された

嶋津 昭(しまづ・あきら)
ラグビーワールドカップ2019組織委員会 事務総長
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