データ共有・連携で新たな価値を生み出せ!ウラノス・エコシステムの挑戦

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年3月4日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

ウラノスはギリシャ神話に登場する天空神であり大地の神ガイアの夫でもある。全宇宙を最初に統一した神々の王とされ、ガイアとの間に農耕の神クロノスや法と掟(おきて)の女神テミスなど12柱の神々をもうけたと伝えられている。

この原初の神々の王の名を冠した「ウラノス・エコシステム」がスタートして3年目を迎えようとしている。人手不足や災害激甚化、脱炭素への対応といった社会課題の解決と同時に、イノベーションによる経済成長を目指し、企業や業界、国境をまたぐ横断的なデータ共有やシステム連携を構築していこうというイニシアティブだ。

ギリシャ神話のウラノスが多くの神々を生み出したように、ウラノス・エコシステムは今、様々な境界を越えて協調・共創を進め、新たな価値を創造し始めている。

ウラノスエコシステムのイメージ図

データは「21世紀の石油」。日本提唱のDFFTを具現化

「これから何十年という間、わたしたちに成長をもたらすもの。それはデジタル・データです。そして何かを始めるなら今がその好機です」

2019年1月、スイスのリゾートタウン、ダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会(通称:ダボス会議)で、当時の安倍晋三首相は、「Data Free Flow With Trust」(DFFT=信頼性のあるデータの自由な流通)を提唱した。

日々やりとりされる膨大なデータは、自由に行き来させて、経営資源として有効活用することで、イノベーションを加速させ、国や企業の成長を支える糧となる。一方で、個人のプライバシーや知的財産、安全保障上の機密などは、慎重に保護されなければならない。DFFTは、この二つの課題を両立させ、「21世紀の石油」とも称されるデータの自由な流通と信頼を確保しようというものだ。

ウラノス・エコシステムは、DFFTが掲げた理念の実現に向けて、2023年4月に始動した。

1号事案は自動車用蓄電池のデータ連携。欧州規制に対応

1号事案として取り組んだのが、欧州電池規則への対応だ。2023年8月に発効した欧州電池規則には、欧州市場で電池を販売する際の要件が定められており、製品のカーボンフットプリント(CFP)の宣言義務、責任ある材料調達(デューディリジェンス)の実施義務づけなどが、順次実施される。電気自動車やハイブリッド自動車を欧州市場に投入している日本の自動車産業も大きな影響を受けることになる。

こうした動きに対応するため、経済産業省が中心となって、関係省庁や業界団体、関連企業と共に検討を進め、各企業の営業秘密の保持やアクセス権限の確保を保障しつつ、企業をまたいでサプライチェーン上のデータを共有・活用できるようにするデータ連携システムを構築した。日本の自動車メーカー14社、日本自動車部品工業会、電池サプライチェーン協議会はこのシステムの運営事業者として、「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター」(ABtC)を設立。これにより、生産過程の最上流から最下流までの各段階で参加各社が営業秘密を保持しながらCFP関連のデータを提供することなどが可能となった。

更には、情報処理推進機構(IPA)が、欧州で同様のシステムを運営している「Catena-X」との間でデータの共有・利活用を可能にする覚書を締結。相互運用に向けた準備を進めている。

※カーボンフットプリント…製品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスをCO2排出量に換算し、その量を表示すること。
※デューディリジェンス…企業が、自社・グループ会社及びサプライヤなどにおける人権・環境への負の影響を特定し、防止・軽減し、取り組みの実効性を評価し、どのように対処したかについて説明・情報開示していくために実施する一連の行為。

CFPを管理・認証する仕組み
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民間主導で取り組み次々と。電力データ、LCA……

企業、業界を越えたデータ共有・利活用は、民間主導で様々な動きが始まっている。

「電力データ管理協会」は、全国約8000万台のスマートメーターから得た電力に関する情報を、一般送配電事業者(データ提供会員)から収集し、データ利用者(データ利用会員)に提供することで、従来の料金精算のためだけでなく、高齢者の見守りや太陽光発電所の運営効率化など、新たなサービスにつなげている。

ABtCも蓄電池のCFPにとどまらず、自動車製造のライフサイクル全体を通して、CO2排出量を定量的に算定するため、サプライチェーン企業間を跨いだデータ連携を目指す「自動車LCA(ライフサイクル・アセスメント)プラットフォームプロジェクト」を進めている。経済産業省情報経済課は、「蓄電池のCFPについては欧州の規制がきっかけになって始めた取り組みですが、自動車LCAの取り組みは、日本としてカーボンニュートラルを目指していく中で、自動車業界としてどうCO2排出量を削減・可視化していくかという思いから、業界として自発的に始めた取り組みです」と解説する。

先進事例を先導・挑戦プロジェクトに選定。海外との連携も

経済産業省では、ウラノス・エコシステムの趣旨に沿って民間が中心となって進める取り組みを更に拡大させようと、先進的なプロジェクトについて、既にサービス提供を開始したものを「先導プロジェクト」、将来的にサービス提供を目指しているものを「挑戦プロジェクト」として公表している。

「先導プロジェクト」にはこれまでに、自動車用蓄電池のCFPに関するABtCのデータ連携や電力データ管理協会の取り組みを含め四つのプロジェクトが、「挑戦プロジェクト」には、自動車LCAプラットフォームプロジェクトを含め三つのプロジェクトが選定されている。

同時に、国際的な横展開についても積極的に進めている。2025年4月にタイとの間でスタートした「エネルギー・産業対話」の一環として、データ連携について協力していくことを合意。5月には日EUデジタルパートナーシップ閣僚級会合が開催され、データ共有の改善に関する議論を促進することを合意した。

2025年12月に開催されたG7産業・デジタル・技術大臣会合でもデータ連携は重要なテーマとなった(後列右から2人目が井野俊郎経済産業副大臣)
2025年12月に開催されたG7産業・デジタル・技術大臣会合でもデータ連携は重要なテーマとなった(後列右から2人目が井野俊郎経済産業副大臣)

「データスペース」普及へ技術開発も。「価値創造こそ根源的な価値」

政府が主導して、データ連携を進めるため共通の技術仕様をつくっていこうという動きも進んでいる。情報処理推進機構(IPA)はデータ社会推進協議会、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会、東京大学大学院情報学環と共に、データを安全かつ自由に共有・連携するための基盤となる「データスペース」の共通仕様として「Open Data Spaces(ODS)」を推進していくことを合意。具体的な取り組みとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトの下で相互接続機能や認証認可機能などの技術開発を進めているほか、米国電気電子学会(IEEE)、IOFDS(International Open Forum on Data Society)などと国際連携も展開している。

「規制に対応するという受け身の対応だけではなく、会社や業界、国境という境界を越えてデータを連携・共有することで、新しい価値が生まれ、イノベーションや経済成長につながる。そこにウラノス・エコシステムの根源的な価値があると思います」

経済産業省情報経済課課長補佐の坂本さんはこう語る。

ギリシャ神話の天空神のようにデータの流れを俯瞰し、全体最適化を目指すウラノス・エコシステム。様々な境界を取り払い、どんな新しい価値を生み出してくれるのだろうか――。

【関連情報】

Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)/ 経済産業省
ODS(Open Data Spaces)技術コンセプトを推進する「ウラノス・エコシステム」のユースケース最新情報を「ハノーバーメッセ2026」に出展します/ NEDO
「ハノーバーメッセ2026」に出展/ IPA

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