京都府京都市のKOYO熱錬 航空機分野参入で熱処理技術磨き世界展開へ挑戦
(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年3月23日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

1875年、株式会社KOYO熱錬は京都市内において杉本鉄工所として創業し、昭和初期まで伸銅機械、水門等の製作を行っていました。
1950年には現在の専業分野である「金属熱処理(※)」を事業として開始し、2008年には現在の「株式会社KOYO熱錬」という社名に変更しました。
これまで航空機部品のみならず、電気製品、自動車、建設機械等の様々な業界において、金属材料の熱処理加工を行っています。
(※)金属材料に加熱と冷却の組み合わせによって製品の形を変えることなく性質を向上させる加工技術
金属熱処理には様々な処理方法が存在しますが、同社ではそのほとんどの熱処理加工に対応が可能です。
中でも同社は、金属の表面に炭素や窒素を浸み込ませることで表面の強度を高めながら、金属材料の持つ靭性(粘り強さ)を活かすことができる浸炭・窒化処理に強みを持っています。
これらの処理は、加熱、冷却のみならず、浸透する元素の深さ等の管理が必要であり、より高度な技術が必要となる加工方法です。
そんな同社で実施する取組等について、代表取締役社長の杉本さん、業務部において、航空機事業を含めた営業事務を行う豊田さんにお話を伺いました。
国内有数の航空機熱処理企業
同社が航空機産業に参入したのは、海外の大手装備品メーカーの担う航空機エンジン部品に係る引き合いが来たことがきっかけでした。
当時、同社は自動車産業向けの仕事をメイン事業として実施していましたが、1つの業界動向に左右されない強靭な企業を目指して、航空機産業への参入を決意したといいます。
熱処理加工は「特殊工程(※)」に該当し、航空機産業においては「Nadcap(国際航空宇宙産業特殊工程認証プログラム)」の認証取得が必要不可欠です。
(※)容易にあるいは経済的に検査できない工程のこと。熱処理、表面処理、溶接、メッキ、複合材部品成形、非破壊検査等の製造・検査を含む工程を指す。一般的な外観検査や性能試験では確認できない品質が航空機の安全性、耐久性に大きな影響を及ぼすことになるため、航空機産業では特に重要視されている。
同社はこのNadcap認証を2007年に取得し、その後の2011年には航空機メーカーであるボーイング社の認定工場となりました。
そして現在は、ボーイングの最新鋭機737Maxや787等に搭載される装備品、GEエアロスペースの製造するビジネスジェット機向けエンジン部品などの熱処理加工を担っています。
航空機事業への参入にあたっての当時の思いを杉本さんに伺いました。
「自社の仕事が社会にどのように貢献しているのか、社員自身が分かっていない。」
入社当時からそんな思いを持っていたという杉本さん。
重要な仕事をやっているはずなのに、社員が気づけていないことを課題に感じたといいます。
社員のモチベーションを上げることを目的のひとつに、航空機産業への参入を実現しました。
航空機産業は、社会への貢献が社員にとって分かりやすい、そして海外との仕事で人間関係の可能性を広げることができるのが魅力だと杉本さんは語ります。
また、社内だけでなく、社外に対しても航空機産業への参入は影響があったといいます。
「航空機」や「ボーイング」といった社外の方でも分かりやすい事業ができたことで応募人数が増え、航空機事業を始めてから、20人程度だった社員数が30人近くまで増加しました。
品質保証の観点で検査人員等の人数が多く必要になったというのもあるが、確かな技術を持っているという良いイメージが会社についたと感じると語ります。
また、それまで同社で取引のあった産業とは大きく異なる点があったといいます。
「海外がエンドユーザーであるため、国内の企業同士はワンチームという感覚が非常に強い。」
Nadcap等の認証については、取引先である大手企業等も同様に認証を受ける立場にあります。
そのため、同じ認証をクリアするという関係であり、取引先とも協力し合うパートナーとして、風通し良く付き合いができているといいます。
京都という土地柄から学ぶこと
同社は京都に根付く100年企業であり、2017年には京都府より「京の老舗表彰」も受賞されています。
古都京都において長く事業を行う同社では、土地柄から学ぶことが経営に活かされているといいます。
杉本さんは、土地柄から学んだ考え方として“魅せる(見せる)”、“察する”、“共感する”という3つの心持ちがあると語ります。
工場内では必要な表示を際立たせるために、最低限の掲示物しか置いていないという同社。
日本の華道における“引き算の美学”にも通ずるような、“魅せる”ことを意識した工場づくりが行われています。
また同社では、全社員による毎朝の清掃活動が行われています。
この清掃活動は、工場内だけでなく、社員が過ごす休憩室や工場外にある植栽の手入れに至るまで、徹底した清掃がなされています。
「熱処理を行う老舗の工場」というと、暑くて油で汚れた工場が想起されがちですが、同社工場は空調も完備されており、清掃もすみずみまで行き届いているため、働く社員にとっても快適な空間が整備されています。
同社で働く豊田さんは、この清掃活動は非常に重要な取組だと感じているといいます。
前職において、接客業に従事されていたご経験を持つ豊田さん。
同社への入社を決めた一つのきっかけは、この清掃活動にあるといいます。
自身の経験から、何か1つのことを企業で徹底するということは本当に難しいこと。
社員の皆で清掃活動を毎朝行うと聞いて、信頼がおける企業だと感じたと語ります。
また、この清掃活動は、“魅せる”ためだけでなく、活動を通じた社員の一体化、コミュニケーションの促進に寄与しているといいます。
社内のコミュニケーション促進に向けて
コロナ禍を経て、社員のコミュニケーション不足を課題に感じていたという杉本さん。
製造業のような職人の多い業種は、横のつながりが希薄になりがちだといいます。
そのような課題感から、同社では2025年に新たな社員の休憩室を含めた新社屋を整備しました。
「社員にやれと言うだけでなく、やれる環境をまずは整える。」
そんな先代からの教えを大事にしているという杉本さん。
社員同士のコミュニケーション促進のために、社員が顔を合わせて情報交換できるような場を作ることを考えたといいます。
実際に休憩室を利用する豊田さんは、休憩室は明るく、昼食も社員が集まって食べられる。そのことで社員同士の会話も増えたと語ります。
また、杉本さんは、社員同士のコミュニケーション促進だけでなく、自身も社員のもとへ積極的に足を運び、コミュニケーションをとっているといいます。
「社員の好きなものを聞くと、自分も好きになっていくんです。」
社員と話すことが楽しいと語る杉本さん。
コミュニケーションをとることで、社員と共にいろんな変化を感じられるのが良いといいます。
杉本さんが社員のもとへ話しかけにいくのをよく見るという豊田さん。
豊田さん自身も、好きなものを杉本さんと共有しているといいます。
杉本さんが大切にする“察する”、“共感する”心が、社員とのコミュニケーションの中で自然に表れています。
同社では、こういった社員のための活動だけでなく、自社の技術力向上を含めて、事業拡大に向けた投資も積極的に行っています。
2022年からの3年間、中小企業庁の実施する成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)を活用し、熱処理時のゆがみを抑えるためのシミュレーション技術の開発にも取り組んできました。
さらには、熟練技能者の目や筋肉の動きを測り数値化することで、同社の技能を継承していくための活動等にも取り組む等、更なる成長に向けた投資を確実に行っています。
京都という場所で、その文化を感じながら、事業の成長を目指して様々な取組を続ける同社。
今後の会社としての目標を杉本さんに伺いました。
海外で通用する企業に
海外との仕事を通じて社員に広い視野で仕事ができるようになってもらいたいという杉本さん。
そのような環境の中で、仕事に対するやりがい、働きがいを見つけていってほしいといいます。
そのためにも、海外と取引ができる航空機産業を自社の大きな柱にしていきたい。
地域の良さを活かしながら、世界に知られる企業へと少しずつ成長していきたいと語ります。
「“ここでしかできない熱処理”ができる会社に」
京都ならではの文化や価値観、人とのつながりを大切にしながら、世界で活躍する熱処理企業を目指し、KOYO熱錬はチカラを磨き続けます。
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- 近畿経済産業局 公式note