レアアースなど重要鉱物の安定供給へ JOGMEC理事長が語る資源戦略の最前線

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2025年11月17日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

銅やレアアースなどの重要鉱物の大半を海外からの輸入に頼る日本にとって、その安定供給確保は、産業や人々の暮らしを支える基盤だ。脱炭素社会や情報化の進展でこれらの鉱物の需要がより高まる一方で地政学的リスクも指摘されており、経済安全保障の観点から供給源の多様化を図ることが求められている。このような状況の下、資源やエネルギーを安定的かつ経済的に供給することを使命とし、国や民間企業などと連携して資源開発の最前線に立つのが、経済産業省が所管する独立行政法人「エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)」だ。最終回は、JOGMECの取り組みや今後の展開を、高原一郎理事長へのインタビューも交えて紹介する。

高原一郎理事長

石油公団と金属鉱業事業団を統合して発足

JOGMECは2004年2月、石油・天然ガスの安定供給確保の役割を担ってきた石油公団と、非鉄金属鉱物資源で同様の役割を務めてきた金属鉱業事業団を統合し、「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」として発足した。その後、事業分野を徐々に拡大していき、2022年11月には、水素・アンモニア等の製造・貯蔵への出資・債務保証業務、二酸化炭素の貯蔵等への出資・債務保証業務及び地質構造調査業務、国内における洋上風力発電事業の検討に必要な地質構造調査や金属鉱物の選鉱・製錬への出資・債務保証などにも業務の幅を広げ、現在の名称となった。2025年度の支出予算は2兆3634億円。本部は東京・虎ノ門にある。

7分野で8事業を展開

安定供給確保を使命とするJOGMECには、「資源・エネルギー開発の中心的機関」「緊急時に備える備蓄機関」「脱炭素や環境保全の一翼を担う機関」――の主に3つの役割がある。具体的には、金属資源や石炭、石油・天然ガスなど7分野で、地質構造調査や海洋調査、金融支援など8種類の事業を展開している。

JOGMECの事業活動
<JOGMECの事業活動>(JOGMECの資料から)※画像クリックで拡大

鉱物資源開発… プロジェクト形成から開発・生産まで幅広く支援

レアアースなどの重要鉱物は、産出国や製錬を行う国が偏在しているうえ、近年は鉱床の深部化や遠隔化、有望な新規鉱区の減少、初期投資額の増大といった課題があり、日本企業の権益確保は厳しさを増している。このため、JOGMECは、世界各地で海外の国営企業や非鉄メジャー、日本企業の海外子会社などと共同で地質構造調査を積極的に展開。資源探査の結果、有望と認められたプロジェクトについては、JOGMECの権益を日本企業に引き継ぐことで民間の初期のリスクを軽減し、権益獲得を支援している。

南アフリカ・ボーリング(試錐)の様子(JOGMECの資料から)
南アフリカ・ボーリング(試錐)の様子(JOGMECの資料から)

合弁事業(JV)による海外での地質構造調査に加え、JOGMECには、出融資・債務保証によるリスクマネーの供給、技術開発、情報収集・提供などの事業もある。これらを複合的に活用することで、探鉱プロジェクトの形成から開発・生産段階まで、幅広い支援をパッケージで提供している。

鉱物資源開発の流れとJOGMECの事業
<鉱物資源開発の流れとJOGMECの事業>(JOGMECの資料から)※画像クリックで拡大

資源国との関係強化

日本企業の資源国での投資促進や権益獲得を支援し、また、資源国自体も発展できるよう、JOGMECはこうした国々との関係強化にも長年、力を入れている。

例えば、鉱物資源が豊富にあると見込まれ、国際的に注目されているアフリカ。JOGMECは2008年7月、資源開発に携わるアフリカの人たちの人材育成に貢献することなどを目的に、人工衛星や航空機を使って地形や地質を調べる「リモートセンシング」を学べるセンターをボツワナに設立した。2025年現在、南部アフリカ開発共同体(SADC)加盟国をはじめとする16の国を対象に毎年、画像解析などの研修を実施しており、これまでに専門人材を2500人以上、育成したという。

「ボツワナ・地質リモートセンシングセンター」(左)と、ジンバブエでのリモートセンシング技術の現場研修の様子(JOGMECのホームページから)
「ボツワナ・地質リモートセンシングセンター」(左)と、ジンバブエでのリモートセンシング技術の現場研修の様子(JOGMECのホームページから)

また、2025年8月に横浜市で行われた「アフリカ開発会議(TICAD)」にあわせて、高原理事長らがコンゴ民主共和国、ナイジェリア、モザンビークなどの政府要人と会談。各国の鉱物資源などの分野での政策やプロジェクトの状況、技術協力などについて意見交換した。また、TICADの会場ではJOGMECの活動を紹介する展示ブースを開設し、アフリカでの取り組みをアピールするなどした。

TICADの会場に設けられた展示ブース(JOGMECのプレスリリースから)
TICADの会場に設けられた展示ブース(JOGMECのプレスリリースから)

レアメタルの国家備蓄や鉱害防止支援も

JOGMECはまた、1983年度に創設されたレアメタルの国家備蓄制度に基づき、地政学的リスクや産業上の重要性が高い鉱種を国家備蓄倉庫で保管・管理し、緊急時の放出に備えている。

国内外での鉱害防止対策の促進にも努めている。例えば、ペルーでは2008年から12年間にわたり鉱害防止対策に協力。2022年度にはフィリピンの政府地方職員を対象に鉱害防止に関するセミナーを実施した。また、秋田県小坂町にあるJOGMEC金属資源技術研究所では、持続可能な資源開発を目指して、鉱物資源の選鉱や製錬、鉱害防止技術に関する技術の調査研究に取り組んでいる。

高原一郎理事長インタビュー 鉱物資源開発の現状と今後の展開

GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)が世界で進む中、重要鉱物の安定供給確保を使命とするJOGMEC。高原一郎理事長に、鉱物資源開発を取り巻く現状やJOGMECの今後の方針などについて話を聞いた。

高原一郎理事長

――世界的な鉱物資源確保競争の激化をどのように見ていますか。

経済安全保障は世界的に重要な課題であり、その中心にレアアースなどの重要鉱物が位置づけられています。特定の国に依存しない、強固なサプライチェーンを同志国と構築することは、日本にとって喫緊の課題です。昨今の中国による管理強化は、資源の輸出管理にとどまらず、製造技術なども含めた多方面に及んでおり、これまで以上にサプライチェーンを俯瞰(ふかん)した対策が必要です。また、アフリカ諸国でも、自国資源を有効活用したいとの意識が高まっています。

金属鉱物資源分野では、従来は民間による投資が主導的役割を果たし、政府は側面支援が中心でした。重要鉱物を取り巻く環境の変化は政府が果たすべき役割を一段階押し上げ、より積極的な関与が求められていると言えるでしょう。産業界でも、自動車や半導体の大手メーカーだけでなく、部品を納入する企業もサプライチェーンの途絶が事業に与えるリスクを強く意識するようになっています。

――JOGMECはこれまでにも大手商社の双日と共同で、オーストラリアでレアアース資源を開発するライナス社に出融資するなど、様々な取り組みをしてきました。サプライチェーンの多様化・強靱化はどの程度進んだのでしょうか。

我々と双日との取り組みは、サプライチェーンの多様化・強靱化における成功モデルの一つとして評価され、他国も参考にしています。モーターなどに用いられる永久磁石の性能を向上させるために必要なジスプロシウム、テルビウムといった重希土類についても今年、ライナス社での分離精製が始まりました。多様化・強靱化は着実に進展していますが、すべきことはまだ多くあると考えています。

高原一郎(たかはら・いちろう)1979年通商産業省(当時)入省。経済産業省関東経済産業局長、中小企業庁長官、資源エネルギー庁長官、丸紅副会長などを経て2023年4月から現職
高原一郎(たかはら・いちろう)1979年通商産業省(当時)入省。経済産業省関東経済産業局長、中小企業庁長官、資源エネルギー庁長官、丸紅副会長などを経て2023年4月から現職

――鉱物資源開発では近年、鉱床の深部化や遠隔化、投資額の増大といった課題が指摘されています。製造業のニーズに応える安定供給確保とリスクマネーの供給を通じた経済合理性とのバランスはどうあるべきでしょうか。

鉱床の深部化や遠隔化などは今後、厳しさがより増すと思われます。このような課題に対応していくためには、産官学が一体となってイノベーションを図り、日本勢として技術面での優位性を高め、維持していく必要があります。こうした日本の技術優位性を維持するため、JOGMECでは、例えば操業現場における課題解決の一助となるような技術開発を行うなどの支援を行っています。

投資額が増大する中、市場価格の変動も大きい重要鉱物の資源開発プロジェクトへのリスクマネーの供給に関しては、これまでと同じような基準で判断すると、支援の取りこぼしを招く恐れがあります。政策的な重要性を加味して、従来基準にとらわれない、より踏み込んだ積極的なリスクテイクが必要だと考えています。

――JOGMECには、金融面での支援のほかにも様々なサービスがあります。民間にはない強みや特色はどういった点にありますか。

JOGMECは、前身の金属鉱業事業団の時代から金属鉱床探査の技術者集団であり、我々の強みは培ってきたその技術です。JVによる海外での地質構造調査などは、他の機関や他国では担えない分野だと自負しています。

また、資源外交の一翼を担っているのも大きな特徴です。昨今は、重要鉱物への世界的な関心の高まりを受けて、これらを利用する欧米の先進国や、金属鉱物資源分野では存在感が高くなかったサウジアラビアなどの国々との連携や資源外交が強化されています。JOGMECは、重要鉱物の資源開発を支援する世界的にも稀有(けう)な機関として、欧州をはじめ、各国から注目されており、先般開催されたTICADや大阪・関西万博でもその機会を生かし、海外の政府要人との会談などを行いました。

高原一郎理事長

――安定供給確保のカギを握るJOGMECの今後の方向性を聞かせてください。

技術者集団というバックボーンのもと、初期の探鉱プロジェクトや海洋鉱物資源の開発などの技術に立脚し、民間や他の機関では負うことが困難なリスクを積極的に取ることで、安定供給確保にこれまで以上に貢献していきます。また、経済産業省とも人的交流を一層強化するなどして連携を深め、重要鉱物資源開発の上流部分やサプライチェーンに関する知見を生かした分析や政策提言を行うなど、より高い付加価値を発揮できる組織にしていきたいと考えています。

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