旅費精算DXで平均約6割の時短を実現

地方自治体のDXは住民向けが優先されるが、職員の業務旅行申請や精算業務のDXでその手間と時間が削減できれば、それは住民サービスの質向上にもつながる。自治体の旅費精算業務デジタル化を支援するコンカーの長谷大吾氏と事業構想大学院大学教授の河村昌美教授の対談の後半を紹介する。

旅費業務のシステム化は
業務見直しとセットで

── 2025年4月に施行予定の改正旅費法は、地方自治体の旅費精算業務のDXにつながるでしょうか。

長谷氏 (以下、敬称略) 今回の法改正は実に70年ぶりです。70年前はデジタルツールがなく、旅程や旅費を証明する手段がなかったので定額制でよかったわけです。それがデジタルであればデータを収集でき、移動の証明も可能です。今回の、定額制を実費制にすることを含めた法改正はそれに適応したものなので、ぜひこれを機に旅費精算業務のDXを進めてほしいと思います。

長谷 大吾(コンカー 公共営業本部 部長)

河村氏 (以下、敬称略) 今回のような業務実態に合わせる法改正は珍しい。これをいかにチャンスと捉えるかが自治体DXのポイントですね。

河村 昌美(事業構想大学院大学教授)

長谷 旅費精算業務のシステム導入を提案する際にはシステムの説明やデモンストレーションからではなく、まずは「業務をシンプルにしませんか」とお伝えしています。自治体にはそれぞれのご事情がありますから、旅費精算に関する現状や、業務を変更する際の課題、必要な手続き、制約事項などを確認します。最初から大風呂敷を広げるのではなく、変えられるところと変えられないところを明らかにして調整点を見つけていくという進め方です。

具体的には、実証実験としてExcelに業務を1工程ずつ落とし込み、現行で何分かかっているか、それを何分短縮できるか、そもそもその工程は必須かどうかを確認し、全体で何%削減できるかを検証します。これまでの実証実験で得られた削減時間の平均は約60%。細かく言うと、審査者で67%、旅行者で56%、上長・旅行命令権者で31%の削減効果となりました。

河村 60%とは、私の予想を超えています。自治体規模が大きいほど削減効果が大きいかもしれませんね。

長谷 海外は金額が大きいですし、国内でも飛行機や新幹線、宿泊を伴う業務旅行が多い自治体では効果が顕著です。とはいえ、旅費業務はどんな自治体にもあるので、小さな自治体の近距離旅行でも一定の効果はあります。当社のシステムを導入されている民間企業は、従業員が数十万人のところから5名程度まで様々です。

河村 システム導入で事務作業の時間が6割短縮できたら、人間にしかできない業務に従事できる時間が増えますね。福祉の担当者ならば、1日に訪問できる家庭を1軒増やすこともできるでしょう。本来、人がやるべき仕事をする時間を作り出すためにも、DXによる効率化は必要ですね。

AIの時代に備えて
今こそデータの整理整頓を

── 自治体の方々は今回の旅費法改正をどのように捉えておられるのでしょうか。

長谷 私たちのアンケート調査では、今回の法改正をポジティブに捉えている自治体は多いです。これまで、旅費規程や業務内容に対し疑問に思うことはあっても、それらを変えるきっかけもチャンスもなかったと。そういった皆さまの思いの中で、私たちはいかに貢献できるのかを考えています。

システム化により旅費業務にかかる時間を約60%減らせるというデータが出ています。当社では民間企業向けに経費精算のない世界というコンセプトを提案していますが、自治体においては旅費精算業務そのものをなくしたい。そこにはAIが活躍する余地があると思います。システム化しても審査の約30%は人の手による作業が残りますから、そこをAIでゼロにできないかと。ただし、データが整理整頓されていなければAIを適用できませんから、今すぐ審査を100%なくすことはできないでしょう。しかし、今のうちからデータを整理しておくことで、AIを活用できる将来に備えることができます。

河村 あらゆる業務にAIが適用される時代もすぐにやってきます。未来を見据えてデータの準備をしていくことも大切ですね。

職員の働きがいも創出する
旅費精算業務のDX

── コンカーが描く自治体の将来像はどのようなものですか。

長谷 いつか、「旅費精算って何ですか」と、若手職員に質問されるような世界にしたいと思っています。

河村 なるほど、旅費精算がないことが当たり前の世界とは、いいビジョンですね。今回の法改正は自治体が旅費精算業務を効率化する良いタイミングです。常識とは歴史的に作られてきたものであり、すべてを疑うべきだとは言いませんが、少なくとも事務作業に関しては常識が変化しました。常識を疑うことはイノベーションにつながります。ここでイノベーションを起こせた自治体は、ほかのことでも生き残っていけるのではないでしょうか。

長谷 そう思っています。私たちの提案は、単純に業務が楽になるという話ではありません。限られたリソースへの対応、職員にとっての働きがいやWell-Beingといった領域への打ち手として提案しています。コンカーという企業自体が、それを体現しようと力を入れていて、Great Place To Work® Institute Japanの「働きがいのある会社」ランキングの中規模部門で4年連続1位、7年連続でベストカンパニー賞を受賞しました。自治体に仕組みをご提案している私たち自身が働きがいを追求していることを、お客様にはお伝えしています。

河村 自治体職員は基本的に、地域が好き、子どもや高齢者を助けたい、まちづくりをしたい、という公益的な活動に携わりたいわけですから、そこに無駄な、時代に追いついていないルールを押し付けられたら本来の仕事に支障をきたしかねないし、心が折れることもあるでしょう。私は人間性を取り戻す余裕を作るのが自治体に必要なDXだと考えています。自治体職員にとってITやAIは専門外ですが、コンカーのような企業に相談に乗ってもらえれば対応することができます。今回の法改正を機に、本気で未来を見据えて取り組むか、小手先の改革をするか、自治体にとってはここが分水嶺ではないでしょうか。

 

河村 昌美(かわむら・まさみ)
事業構想大学院大学 事業構想研究所 教授

 

長谷 大吾(はせ・だいご)
株式会社コンカー 公共営業部 部長(公共分野担当)

 

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Tel:03-6737-4300(平日10:00-17:00)

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