AIで「信頼」を未来の価値に NXワンビシアーカイブズの挑戦
1966年に創業したNXワンビシアーカイブズは、情報資産の管理・活用の先駆者として半世紀以上にわたり企業の情報を守り続けてきた。1974年には保険代理店事業にも参入し、現在はNIPPON EXPRESSホールディングスの一員として、セキュリティと信頼を基盤にAI-OCRや電子契約を駆使し、DX時代の情報アーキテクトへと進化を遂げている。本取材では代表取締役社長 高橋豊氏に、創業からの歩み、AI技術を活かした事業戦略、そして未来への挑戦を聞いた。
創業の理念
1966年(昭和41年)、同社は都心のオフィスで自前の書庫を構える文化が一般的だった時代に、郊外に専用倉庫を構え企業文書を預かるという新しいモデルを打ち出した。災害の多い日本において、堅牢な倉庫で情報を守ることが大きな差別化要因となり、業界のリーディングカンパニーとしての地位を確立した。
その後、1980年代にはマイクロフィルムや光ディスクといった新しい記録媒体に対応。情報管理の手段が変化しても、「社会にとって欠かせない情報を安全に預かり、必要なときに提供する」という理念は揺るがなかった。現在では4,600社を超えるお客様の契約書や人事記録といった基幹情報だけでなく、医療カルテや金融データに至るまで幅広い情報を扱っている。
高橋氏は「単なる倉庫業ではなく、情報のライフサイクル全体を設計・運用する“情報アーキテクト”としての役割が求められている」と語る。文書を守るだけでなく、廃棄・活用までを視野に入れたサービス設計が企業の競争力を支えているのだ。
DXを支えるAI-OCRとBPOの融合
2000年代以降、個人情報保護法などの規制強化を背景に、同社は事務作業のアウトソーシングを支援するBPO事業を拡大してきた。大量の契約書や申込書を安全に処理するため、セキュリティ体制を備えた専用拠点を整備。紙文書の受付から点検、補正、保管までを一括で担う仕組みを確立した。
この進化形が、AI-OCRを中核に据えた「AI-OCR×BPOサービス」である。従来のスキャニングは単なる画像保存にとどまっていたが、AI-OCRは文字を構造化データに変換し、検索やシステム連携を可能にする。金融や保険の領域では、手書きの申込書や請求書をAI-OCRで読み取り、人の目で補正する仕組みによって、非常に高い読み取り精度を実現している。
関東第3センター(NXワンビシアーカイブズ提供)
高橋氏は「紙はなくならない。だからこそ紙を正確にデータ化し、後工程とつなげることがDX推進の入口だ」と力を込める。また、グループ会社の日本通運では、業務日報の処理にAI-OCRを導入し、読み取り精度を飛躍的に向上させた事例もある。帳票の仕分けからデータ納品まで一括で担える点が、他社にはない競争優位性となっている。
AI-OCRは単なる効率化にとどまらず、コンプライアンス遵守や内部統制の強化にも直結する。改ざん防止、監査対応、検索性の担保など、企業経営に欠かせない「情報ガバナンス」を支える基盤技術として存在感を高めている。
電子契約とセキュリティ体制の強化
AI-OCRと並ぶもう一つの成長エンジンが電子契約システム「WAN-Sign」である。グループ全体の契約行為をすべて電子化し、紙の印刷・郵送・保管といった業務を大幅に削減した。WAN-SignにはAIによる自動抽出機能が搭載され、電子帳簿保存法に必要な管理項目も簡単に記録できる。
「セキュリティを重視する大手企業を中心に、既存サービスからWAN-Signに切り替える事例が増えている」と高橋氏は語る。24時間監視システムや厳格な入退室管理といった徹底した安全管理体制が、契約書や機密文書を扱う上での信頼を裏打ちしている。
同社は、セキュリティと利便性を両立させることで、電子契約市場の激しい価格競争の中でも、独自のポジションを築いている。これも「守る力」と「活かす力」を両立させてきた同社ならではの戦略だ。
医療・公共分野へ広がる挑戦
近年は、医療研究における検体や創薬データの保管にも注力している。再生医療分野では、マイナス150度以下の液体窒素環境で細胞を長期保管するサービスを展開し、製薬企業から高い評価を得ている。高度な温度管理や薬事法に基づく資格者の配置など、厳格な基準をクリアすることで、生命に関わる情報資産を守っている。
さらに、公共分野でも中央省庁や自治体向けにAI-OCRを組み込んだ文書管理システム(レコードバンキングシステム「WAN-RECORD Plus」)を提供。従来FAXで行われてきたやり取りを電子化し、業務効率化と情報の透明性向上を支援している。高橋氏は「社会にとって欠かせない情報を未来へつなぐことが当社の使命だ」と語る。災害時のBCP(事業継続計画)においても、堅牢な倉庫と最新のデータ管理技術を組み合わせ、企業や行政の事業継続を支えている。
未来を見据えた人材とビジョン
今後は、電子契約とAI-OCR、保険、医療分野を柱に据えつつ、人材戦略の強化にも力を注ぐ。保険の直販社員や医療に精通した専門人材の採用を進める一方で、既存社員には「変化を先取りする精神」を浸透させるため、社長自らが毎月トップメッセージを発信している。
高橋氏は「労働人口が減少する中で、業務の自動化は社会的要請である。当社は、企業理念にある『信頼される企業市民』として、新しいサービスに挑戦し続ける」と未来を見据える。
その言葉の背景には、同社が半世紀以上にわたり築いてきた顧客との信頼関係がある。金融機関や中央省庁といった厳格な取引先から、重要文書の管理を任されてきた歴史が、挑戦の土台となっている。人とAIを組み合わせ、精度の高い「トラストデータ」を提供すること。これが、次の100年を支える企業ビジョンである。
高橋豊氏(NXワンビシアーカイブズ代表取締役社長)
埼玉県生まれ。ワンビシアーカイブズ執行役員営業本部副本部長、NXワンビシアーカイブズ取締役を経て、2024年に同社代表取締役社長に就任