コミュニケーションストレスのない世界へ クウゼン創業者が描く対話型AIの未来図

偶然のランチから生まれた
コンシェルジュ構想
2016年春、株式会社クウゼン代表の太田匠吾氏と共同創業者で現在CTOの白倉弘太氏がランチをしていた時のことである。大手SNS企業がメッセージプラットフォームのAPIを開放するというニュースを目にした二人は、そこに情報流通の革新的転換点を見出した。
「その日、対話が自動化されるプラットフォームを作ろうという『コンシェルジュ構想』が生まれました。一流ホテルのコンシェルジュのように、普段使いのインターフェースからいろいろな情報を自分で拾いに行く必要なく、自動的に教えてくれるものです。そんな世界に変化すると、もはや検索する必要がなくなります。大手検索エンジンは100兆円規模の企業ですので、巨大なマーケットがあると思いました」と太田氏は当時のビジョンを語る。
例えば、人気テーマパークにいながら、ランチ場所やおすすめルート、帰りの交通手段を検索サイトで調べる必要はなく、すべてをAIコンシェルジュが教えてくれる。そんな知的で直感的な未来図を太田氏は描く。
技術革新を追い求めて
対話の可能性を広げる
「テクノロジーで、対話の可能性を広げる仕組みを創る」。
これがクウゼンのコーポレートミッションだ。自然言語処理技術の発展と向き合いながら、同社は一貫してこのミッションに向かって歩みを進めてきた。
「自然言語処理技術の進化を見据えながら、おすすめする情報のテキスト生成などの研究開発を続けてきました」と太田氏は説明する。「当初は準備した選択肢の中から最適な回答を提供する形でしたが、技術の進化とともに可能性が広がっています」。
特に画像やボタンによる選択肢中心のインターフェースから、より自由度の高い自然言語によるコミュニケーションへの展開を追求した。この技術的挑戦は対話型AIの可能性を広げる重要な取り組みとなっている。
「画像ベースのインターフェースは道筋が明確ですが、フリーテキストでは文脈理解という高度な処理が必要です。この技術的課題に対し、私たちは継続的に向き合ってきました」。
生成AIの台頭により、状況は新たな局面を迎えている。
「コミュニケーションの滑らかさは格段に向上しています。ようやく技術基盤が整い、私たちのビジョンに近づける環境が整ってきたと感じています」と太田氏は期待を込める。
対話×AIの統合戦略
業界認定される技術力
クウゼンの事業領域は、カスタマーサポート、セールス・マーケティング、カスタマーサクセス、業務DXと幅広い。
その先進性は、単一のプラットフォームに依存せず、様々なコミュニケーションチャネルを横断的に活用する「対話デザインプラットフォーム」の構築にある。
この技術力の高さが認められ、同社は2025年5月「LINEヤフー Partner Program」において「Technology Partner」のコミュニケーション部門「Advanced」認定を取得。日本最大級のメッセージプラットフォームにおける高度な対話設計技術を持つパートナーとして公式に認められた。
「私たちのアプローチは、特定のプラットフォームに特化するのではなく、多様なコミュニケーションチャネルを統合的に捉えています。LINE、ウェブサイト、メール、SNSなど、あらゆる接点でのコミュニケーションを最適化することが重要だと考えています」と太田氏は戦略を語る。
この多元的なアプローチにより、例えばECサイト上での行動データとメッセージアプリでのやり取りを連携させるなど、より包括的で知的なコミュニケーション設計が可能になる。「AIテクノロジーとさまざまなデータを組み合わせて一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションを実現する」という同社のプロダクトビジョンは、まさにここに体現されている。
スタートアップの本質を重視
評価プロセスを始めとした組織改革へ
太田氏は「草野球ではなく甲子園」という言葉を用いながら、急速に成長する同社について語った。
「より困難な課題にチャレンジするという姿勢がスタートアップの本質です。そうした挑戦を通じて成長し、喜びを見出す人材が集まってきています」と太田氏は組織文化について語る。
組織の拡大に伴い、月次の全体ミーティングや評価プロセスへのバリュー反映など、企業理念の共有と浸透にも注力している。
「組織が成長する過程で、共通のビジョンと方向性を持つことの重要性が増しています。私たちのDNAともいえる挑戦精神を、いかに共有し広げていくかが鍵です」と太田氏は説明した。
日本のスタートアップの成功モデルに
イノベーションの担い手へ
同社はIPOという一つの到達点を見据えながらも、太田氏のビジョンはさらに先を見据えている。
「IPOは重要なマイルストーンではありますが、私たちの本質的な使命はその先にあります。中長期的な技術革新と社会変革をどう実現していくかが本当のテーマです」。
クウゼンは中期的な取り組みとして、「あらゆるステージで顧客の期待値を超えたコミュニケーションを実現する」というプロダクトビジョンを掲げ、認知から購入、リテンションまで顧客の全体験をサポートする統合的なプラットフォームの構築を進めている。
グローバルメッセージプラットフォームを通じた海外展開や、音声インターフェースなど新領域への拡大も視野に入れる。
「将来的には売上1兆円規模の企業に成長することを視野に入れています。それほど高い山に挑戦する覚悟です」と太田氏は展望を語る。
日本のスタートアップエコシステム全体についても太田氏は明確なビジョンを持つ。
「米国の産業史を振り返ると、1980年代は大企業中心の時代でしたが、その後イノベーションの担い手はスタートアップへと移行しました。日本も同様の進化を遂げる可能性があります。そのためには多様な成功モデルの創出が不可欠です」。
対話型AIによって「コミュニケーションストレスのない世界」を創造し、日本発の技術革新の成功事例を示す。クウゼンの知的挑戦は、対話の可能性を広げ、情報社会の未来を切り拓き続ける。