3D都市モデルを活用 「シン・デジタルツイン」がまちづくりを変える
まちづくりは企画立案から合意形成、実行までに膨大な時間や労力、コストがかかる。それをまるでゲームのようにデジタル上でシミュレーションすることで、まちづくりに革新を与えようという試みがある。大成建設が進める「シン・デジタルツイン」構築による西新宿のスマートシティ計画だ。
西新宿の都市アセットを
有効活用するまちづくり
大成建設は、産官学連携によるスマートシティ・まちづくりを進めている。その対象エリアは、都庁や区立最大の新宿中央公園があり、高層ビルが立ち並ぶ西新宿だ。
西新宿の96ヘクタールの範囲内に権利を有する企業・団体が集まり、地域の課題解決や都市間競争力の向上を目指し、2010年に任意団体として「新宿副都心エリア環境改善委員会」を発足した(2014年に一般社団法人へ移行、構成企業19者)。2020年からは東京都と西新宿に関わる団体が連携し、「西新宿スマートシティ協議会」を設立し、デジタル技術等を活用した課題の解決を進めている。
さらに2022年からは東京都と「西新宿先端サービス実装・産官学コンソーシアム」を立ち上げ、スマートシティ実現に向けた幅広い取組を西新宿で開始。このコンソーシアムでは、同社が今後のまちづくりの根幹に据える「デジタルツイン」の構築を行っている。
同社新事業推進部の村上拓也氏は過去の経緯から、西新宿が目指すまちづくりの方向性について次のように話す。

大成建設株式会社 新事業推進部の村上拓也氏
「西新宿は約80%が公開空地や道路、公園などオープンスペースになっているため、それらを最大限活用していこうと考えています。築50年を超える超高層ビルを建て替えるのではなく、既存の都市アセットを有効活用して賑わいをつくっていくことを狙っています」
都市アセット活用は、道路空間の利活用、有効空地の高質化、公園の活用の3本の軸で試みが行われてきた。たとえば、道路空間の利活用は2015年以降、歩行スペースに期間限定でキッチンカーやテーブル、ベンチを並べてオープンスペースの利活用ポテンシャルをはかる社会実験「Shinjuku Share Lounge(現在はFUN MORE TIME SHINJUKU)」を実施。5万人を集め、8割が高評価で常設を求める声があがったという。
オリジナルの3D都市モデル
西新宿デジタルツイン
施策の成否とは別に、都市アセットの活用を考える際に懸念事項があった。それはエリアマネジメントのPDCAサイクルに時間がかかることだ。
「施策を行う際は、都市の状況把握、まちづくり施策の検討、関係者の合意形成、実施・振り返りを行い、その分析をもとにまた施策を考えます。ただ、これは負担や労力が非常に大きく年1回の実施が限界でした」
その課題を解決するために同社は、国土交通省が提供する3D都市モデルオープンデータ「PLATEAU(プラトー)」の活用を行い、デジタルツインの試行をはじめた。デジタルツインとはリアルな空間をサイバー空間で再現するものである。
「過去にはイベントがビル風の影響で中止になったことがあり、それもPLATEAUを使えば事前にシミュレーションができて防げるとわかりました。合意形成も進めやすいため、本格的に使っていくことに決めました」
オープンデータをもとに西新宿オリジナル版の3D都市モデルをつくり、エリアマネジメントのサイクルを効率化していくプロジェクトがスタートした。その実現のためには、立体交差や芝生広場など細かい空間情報も把握していく必要がある。
「かなり大変な作業なので弊社がコンソーシアム事業の支援を受けながら西新宿オリジナルの精緻なデジタルツインをつくっていく役割を担っています。航空測量でつくられた3D都市モデルに加えて、独自にレーザースキャナーを用いて歩きながら街をスキャンします。西新宿は複層的な都市構造ですが、丁寧にスキャンしていくことにより、入り組んだ地下空間ネットワークも精緻に再現することができます」
ただ、96ヘクタール全てをスキャンするのは難しい。そこでオープンデータに存在する駅構内の点群データなどと融合・加工や、都市計画書から公開空地等の情報を参照することでデータを作成、統合していった。
完成したデジタルツインはゼネコン関係者以外も簡単に利用できるように、大容量の都市空間をグラフィカルに表現することができるゲームエンジンに入れ、テクスチャーやライティングなどを設定することで本当の街のようなリアルな都市空間が再現された。
「シン・デジタルツインでは、自動車交通量や歩行者数のデータもインポートすることで、西新宿で活動する人々の動きも含めて表現しています。引き続きデータと機能をアップデートしていく予定です」
シン・デジタルツインを使ってシミュレーションを行い、最適解をリアルに実装する
他の都市のデジタルツインも
同社のノウハウで作成可能
シン・デジタルツインの特徴の1つは「精微なモデル」である点だ。レーザースキャンをしているところは誤差数ミリレベルでモデル化しているという。また特徴の2つ目として、ゲームエンジンに入れたことで操作性が格段に向上した。「近隣の小学校の体験授業で操作しもらったところ、初見で操作できるぐらいまでになっています」と村上氏。さらに、狭域に絞って再現した部分は本物と見分けがつかないほどのレベルで構築されており、グラフィックも目を見張るものがある。
「ゲームではなくまちづくりのためのツールとして構築しているので、私達が今までの都市開発やエリアマネジメントで培ったノウハウを機能として入れ込んでいます。たとえば、近隣協議の際に必要だったデータや、許認可を受けるときに作成した資料などを実用的な機能として付加しています」
施策を検討するうえで有用な機能は他にも盛り込まれている。風環境シミュレーションは、過去20年の統計データから風向きや強さがインプットされているため、モデル内でシチュエーションが再現可能だ。また、天候シミュレーションもあり、モデル内で天候も自由に設定することができるので、イベント当日が雪だった場合などの想定もデジタル上で簡単に行える。
「精微な都市モデルと実用的な機能を組み合わせることで、まちづくりにおけるさまざまな意思決定のツールとして使ってもらいたいと考えています。既に住民参加でシン・デジタルツインを活用したケースがあり、ワークショップを開催して道路空間にベンチやテントを置いたらどうなるかなど、住民が操作しながら議論しました。リアル版シムシティですね」
シン・デジタルツインには過去の施策データが入力されているため、施策立案の精度も向上する。1時間にテントに集まった人数や、過去に導入した什器のサイズや製品番号、金額も調べる必要がない。さらに人流データも組み込まれていることから、「ここにテーブルを置いたらどれぐらいの歩行者数があるか」などの簡易なシミュレーションができる。
「今まではエリアマネジメント組織で行う社会実験は年1回が限度で、数千万円のコストが必要でした。このシン・デジタルツインがあれば、仮想空間で何百回も実験が可能で、一番良い効果が出たものをリアルで実現できる。他の街でも構築は可能で、既に複数の都市でシン・デジタルツインをつくりたいという声をいただいている。今後のスマートシティの基盤になりうるツールだと期待しています」
お問い合わせ先
大成建設株式会社
東京都新宿区西新宿一丁目
25番1号 新宿センタービル
https://shin-digitaltwin.jp/
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