電子政府成功の秘訣を解明する デンマークに学ぶ人間中心のデジタル社会
NTTデータ経営研究所はデジタル先進国であるデンマークの成功事例をもとに日本国内でもデジタル社会の実現を推進しようと、地域における支援を実施している。そこで、同社が掲げる「人間中心のデジタル社会」の概要と、それを実現するために自治体が押さえておくべきポイントについて話を聞いた。

河本 敏夫
株式会社NTTデータ経営研究所 ビジネストランスフォーメーションユニット アソシエイト・パートナー/クロスクリエイショングループ グループ長
電子政府ランキング
4回連続世界一のデンマーク
NTTデータ経営研究所は「人間中心のデジタル社会形成」をキーワードに、日本におけるデジタル化の支援を進めている。同社アソシエイト・パートナー/クロスクリエイショングループ グループ長の河本敏夫氏は、そのポイントについて次のように説明する。
「デジタル技術ありきではなく、人や社会、組織を中心にデジタル社会をつくることが肝要です。デジタルは手段なので、使っている意識なく自然に生活や経済活動に溶け込んでいるものにすることや、組織やサービスがデジタルを使う前提で馴染むことが大切で、それを私は『デジタルレディネス』と呼んでいます」
その社会形成をすでに実現しているモデルとして、河本氏はデンマークに注目している。日本は2000年にe-Japan戦略を立て、デンマークもほぼ同時期に電子政府の戦略を打ち出した。デジタル化へのスタート時期は同じだが、現在は大きく差がついている状況があるという。

役所での手続きのほとんどがオンラインで完結するため、役所の窓口もスマートになっている
「デンマークは国連のデジタル(電子政府)ランキングでは2018年より8年間、4回連続で世界1位を獲得し、取り組みが最も進んでいる国です。そして国際競争力、幸福度、再エネ・環境対策でいずれも世界3位以内と中身も充実し、まさに日本が目指すべき理想を体現しています。私は経産省などの委託調査で世界を見ていますが、これらを兼ね備えている国は多くありません」
人間「を」中心にデザイン
デンマークが電子政府の取り組みに成功しているポイントは主に2つあると河本氏は考えている。その1つは「人間『を』中心にデザインすること」だ。
「簡単に言えばユーザーの使いやすさを追求することです。見た目は綺麗だけど使いづらいものになってしまうことがありますが、それを解決するために必要なのがこの発想です。本当のデザインとはユーザーの日常の生活の流れに沿って設計することです」
デンマークにおける人間を中心としたデザインの実例として、電子政府のポータルサイト「borger.dk」を挙げる。出生届や税金申告、診察やデイケア予約など、多様な住民サービスがオンラインで完結しているという。一方、日本もオンラインサービスはあるものの、連携・統合の範囲が狭く、それぞれにIDや個人情報を入力するなど不便な点がある。
このような現状に対して、同社は日本でも人間を中心にしたデザインの流れをつくるため、総務省のフロントヤード改革モデルプロジェクトの一環として三重県明和町におけるDXを支援している。そこでは主に3つのポイントを重視して取り組んでいると河本氏。

明和町では来庁することなく、行政手続きを完了できる「デジタル完結」の実現を目指している
「1つめは住民のユーザー体験をベースにサービスをデザインすること。2つめは本来どうあるべきかという姿を先に描いて、そこからバックキャストしてサービスをつくること。3つめは住民をアンバサダーに任命してDXを広げる役割を担ってもらうことです。アンバサダーには、サービス開発段階にも入ってもらい、意見をもらいながらサービスをつくりあげています」

サービスの企画・テスト・認知拡大の一連のプロセスに、住民も参加し、開発に取り組む
人間「が」中心にデザイン
もう1つは「人間『が』中心にデザインすること」だ。これは行政と市民の関係性の成熟度がカギになるという。
「日本は行政や自治体がつくったサービスを住民が利用するだけの関係性のため、本当に必要なものだったか十分な検証がされません。住民が「お客様」の立場を逆手にとり、クレーマーになってしまうこともあります。本来は、地域のサービスの当事者は住民なので、行政と住民が対等な関係で、企画立案の段階から入って共に考えていくことが理想であり、それには関係性の成熟が不可欠です」
これを実現するためには課題を行政や自治体が勝手に決めないことが重要になるという。デンマークなど北欧では生活の場を実験室にするリビングラボと呼ばれる手法が取り入れられ、図書館をどういう場所にするかなど、住民の声を取り入れながらつくっていくことがあると河本氏。
「当社は3年前に山形県酒田市で酒田リビングラボを創設し、住民主体で住民が何に困っているのかなどの課題を浮き彫りにして、企画・開発・評価・検証のプロセスを共に取り組んでいます。地域行政はトップダウン型のマネジメントに慣れていると思いますが、本来はもっと柔らかいコミュニティ、緩やかなつながりが必要です。それを『ジェネラティブ(生成型)ガバナンス』と呼び、生成AIのように条件によって柔軟にサポートすべき役割を変化させるものを目指しています」
デンマークの成功事例を
日本流にカスタマイズ
自治体がこれらの取り組みを実施するために重要なこととして、河本氏は「職員全員の意識変革、マインドの変化」を挙げる
「全庁がポイントです。デジタル推進担当だけでなく、実際の窓口が変わらないと意味がありません。今までと違うことをやるので後ろ向きの反応もありますが、日本が置かれている危機的な状況を伝え、関係者が同じ方向を向いて取り組むことが解決策になると考えています」
同社はその支援と、人間中心のデジタル社会の展開を目指し、さまざまな取り組みを実施している。デンマークと日本の連携を促進するコンソーシア「Social Innovation Alliance Japan Denmark」を立ち上げ、デジタル化の成功の秘訣を日本が取り入れるためのプログラムを開発している。
「私たちはデンマークのやり方をそのまま真似すればいいとは思っていません。日本には日本のやり方があるので、それをカスタマイズしていくことが私たちの仕事です。失われた30年を突破するために、いろいろな自治体などと協力していけるとうれしいですね」

- 河本 敏夫(かわもと・としお)
- 株式会社NTTデータ経営研究所 ビジネストランスフォーメーションユニット アソシエイト・パートナー/クロスクリエイショングループ グループ長
お問い合わせ先
株式会社NTTデータ経営研究所
https://www.nttdata-strategy.com/
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この記事の著者
NTTデータ経営研究所
