「デジタル改革共創プラットフォーム」導入 全国の自治体が「仲間」に

下呂市はデジタル庁が主導する「デジタル改革共創プラットフォーム」を活用し、行政および市民サービスのDX化を進めている。下呂市の取り組みは総務省にも評価され、6月には「東海総合通信局長表彰」を受賞した。その経緯や取り組みについて、同市の山内登市長とCDO補佐官の長尾飛鳥氏に話を聞いた。

下呂市の山内 登市長(左)と、CDO補佐官の長尾 飛鳥氏

アナログで孤立していた
コロナ禍の下呂市

岐阜県・下呂市は今年3月に「下呂市DX推進計画」を策定した。「誰一人取り残されない人にやさしいデジタルをデザインするまち」をビジョンに掲げ、2026年3月までに全ての住民がデジタル技術を通して快適に過ごせるまちを目指している。

基本方針は、デジタル技術を活用した市民サービスの向上、デジタル化による業務効率化とマインドチェンジ、人にやさしい地域社会のデジタル化の3点を挙げる。方針に基づき定められた具体的な取り組みは、デジタル通知の推進や市民等の対話による共創など多岐にわたる。

この計画を策定した背景について、同市の山内登市長は次のように話す。

「下呂市は中心を飛騨川が流れ、それに沿うようにJR高山線と国道があり、周囲は急峻な山に囲まれて平地がほぼありません。市内には8つの駅があり、それぞれに町はあるものの、平時から連携が薄い状態でした。また、行政のコミュニケーションはアナログそのもの。その状態で豪雨災害やコロナ対応があった際、孤立状態となってしまい、行政としても集まる手段がありませんでした」

現状に危機感を抱いた山内市長は2022年より時代の変化や市民の多様化するニーズに対応するため、外部人材をデジタル課長に登用し、アナログからデジタルコミュニケーションへの転換を進め、組織変革の取り組みを行ってきた。その延長線上として「下呂市DX推進計画」がある。

「今年度からは市長がCDOとして率先し、強力なリーダーシップのもと、利用者目線に立った行政サービスの改革に取り組んでいます。また、DX推進担当だった長尾をCDO補佐官として委嘱し、横の連携を強化する仕組みを現場から生み出すことで、職員が主体的に行動できる文化にしていきます。インフラでは行政のネットワーク体制を整え、分庁舎で本庁舎と同様のサービスが受けられるようにしました。次は、遠隔医療のプラットフォームづくりやAIを活用した自動運転による公共交通の研究、コンパクトシティ化など、市民サービスやまちづくりにも展開していくことを目指しています」

知りたいと思ったことが
プラットフォームの履歴にあった

現場でDX推進を進めてきたメンバーの1人は、CDO補佐官である長尾飛鳥氏だ。「DXは住民の利便性と行政の業務効率化と言われるが、それだけでなく、利用者目線の行政サービスを極めることで、住民の幸せ、ウェルビーイングを追求できるサービスを目指す」という視点のもと、現場での対話を重視してきた。

「大切にしているのは『同じ方向を向いてフラットに対話すること』です。CDO補佐官の役割は主体的にマルチにコミュニケーションを取るようにし、継続的に情報を収集する能力と、そのための人脈づくりを行うことです。また、単にデジタルツールを導入したから活用してと依頼するのではなく、現場に足を運んで職員や住民と対話や議論をするようにして組織の慣習や業務プロセスの見直しをしています。従来のように職員と有識者だけで地域の未来を話すのではなく、現場や時には学校に行って学生の声を聞きながら、ワクワクするような下呂市の未来像を一緒に考えて、デジタルも下呂市のためにどう活用するかを考えてきました」

対話の結果、下呂市のDX化の方向性は固まった。だが、そこで長尾氏は壁にぶつかる。組織内にその実現のための具体策について相談できる人材がいなかったことだ。

その解決策となったのは、地方公共団体と政府機関の職員であれば誰でも参加ができるコミュニケーションプラットフォームであるデジタル庁の「デジタル改革共創プラットフォーム(以下、共創PF)」だった。

「住民へのデジタル通知の方法をデジタル庁に確認しようと調べているときにネットで検索して、共創PFの存在を知りました。最初は軽い気持ちで登録してみたのですが、驚いたのは調べようとしたことが過去のやり取りから簡単にわかったことでした。まさに「情報のシャワーを浴びる」体験であり、この情報量と解決策の豊富さは衝撃でしたね。我々のコミュニケーションは電話かメールでしたが、共創PFはSlackのチャットでスピード感あり、心理的安全性も高く、使いやすいと感じました」

長尾氏は実体験をもとに、職員へ共創PF参加を呼び掛けたところ、現在は111人が登録して活用するようになったという。また、オフライン勉強会やリアルな場での自治体の集まりなどでの共創PFの普及活動や新規登録者集めに積極的に取り組んでいたため、デジタル庁より共創PFの初代アンバサダーとして委嘱されることになった。

「ある部署の部長からは『こんな方法があるんだ、もっと早く知りたかった』と言われました。多くの自治体が抱える課題や悩みは職員が日々の仕事に追われて新たなことへのリソースが割けないことや、従来の組織の方法があり、いきなり変えようとするとネガティブな反応がある点です。その点、共創PFは多くの人を巻き込みやすい。共創PFで『情報のシャワーを浴びる』ことを習慣化していきたいです」

共創PFに投げかければ
課題解決の糸口が見つかる

下呂市は共創PFで得た知見を活用して、マイナンバーカードを利用したデジタル身分証アプリ「xID(クロスアイディ)」により、子育て世代を対象に乳幼児健診等の案内を送付するデジタル通知サービスを実現。その成功体験を起点にさらに推進し、介護保険通知など等に多角的に展開していく。

これらの実績が評価され、今年6月に総務省の「東海総合通信局長表彰」を受賞した。下呂市に大きな変化をもたらした原点は、山内市長のDX化を進めるという強い意志だ。

「私は市長室の扉をオープンにして職員と直接コミュニケーションを取り、わからないことがあれば何でも質問するようにしてきました。そこから問題の本質を探ってきたのです。行政が究極求められることは『市民のために何ができるか』なので、その実現のためにフラットにフランクにやり取りができるようになったのはとてもよいことだと思います。民間企業では当たり前に階層を超えてダイレクトにスピーディにコミュニケーションをしているように、DXチームが下呂市でもそれを実現してくれました」

長尾氏は、共創PFが今後の自治体の働き方を変化させる可能性について示唆する。

「共創PFは自治体職員にとってサードプレイスのような存在です。行政は縦割りの組織と言われますが、実際は縦も横も繋がれていないことが多い。階層を意識せずにコミュニケーションが取れる共創PFを軸に全国の自治体が仲間のような意識で働くようになると感じます。共創PFは投げかけてみれば新しい視点やアイデアがあり、解決の糸口が見つかります。自分たちの失敗例は共有していきたいし、我々も他自治体の成功例を徹底的に真似をして、少しずらすことで独自性の価値を創りたい。共創PFによって組織の枠を超えて、新しい価値を創造することや地域の課題を圧倒的なスピードで解決していきます」

デジタル改革共創プラットフォームとは
デジタル庁が運営している、地方公共団体と政府機関の職員であれば誰でも参加することができる、ビジネスチャットツールのSlackを活用した「直接対話型」のコミュニケーションプラットフォームです。現在、1398の地方公共団体から、約8700名の方が参加し、政策や地域・規模別に約130のチャンネルで自由闊達な意見交換を行っています。(数値は、2024年10月1日時点)

共創プラットフォームへの参加登録はデジタル庁のWebサイトから