全国自治体リスキリングネットワーク 長期目線で地域の人的資本の価値向上へ
リスキリングやDX人材育成について全国の自治体と実証研究などを実施してきたベネッセコーポレーションが、自治体同士の情報交換促進を目指し、全国の自治体と2023年5月に立ち上げた全国自治体リスキリングネットワーク。9月に開催された最新のイベントをレポートする。
デジタル人材不足をリスキリングで解決
地域の当事者が情報交換
かねてから指摘されていた日本の行政のデジタル化の遅れは、コロナ禍によって一気に顕在化した。背景には様々な原因があるが、デジタル人材・DX人材の不足は特に大きな制約となっている。ベネッセではオンライン学習プラットフォーム「Udemy business」を活用し、大都市部と比較して学習機会の面で不利な立場に立たされていた地域の企業や自治体職員が、デジタル活用を学べるようサービスを提供してきた。
ベネッセが考える地域の人材育成支援
2023年5月には、「全国自治体リスキリングネットワーク」を立ち上げ、当事者である自治体間でリスキリングや人材育成について知見共有の機会を提供している。2024年9月に開催した直近のイベント時点では、参加自治体は発足時の45から、105にまで増えている。
「設立以来、参加会員の声を大切に受け止め多くの悩みごとを聞く中で感じたのが、自治体同士の情報交換の場の必要性です。そこでネットワークではこれまで、リスキリングをテーマに、専門家からの情報や実践的な先進事例を発信し、議論する場を提供してきてきました」と、ベネッセコーポレーションの川田英人氏は話す。設立時のキックオフイベントの後、第2回目はDX戦略セミナー、第3回目として情報交換会と参加型セッションが開催された。4回目となる9月のイベントでは、ネットワークが掲げるコンセプトである「ひとの学びで、地域は進む」に立ち戻り、リスキリングによる地域全体の課題解決の方向を探った。
産官学金で地域の人材課題を解決
長野県塩尻市の事例
第4回目のイベントでは、長野県塩尻市商工課の村上洋一氏と、塩尻市と協働するNPO法人MEGURUの代表理事、横山暁一氏が登壇し、塩尻市の事例を紹介した。
村上氏は、塩尻市が抱える課題について次のように説明した。「全国の自治体と同じように、塩尻市も特に中小企業における人材不足に課題を抱えています。コロナ禍で一旦落ち着いたように見えたこの課題も、コロナ禍が収束する前からすでに人材獲得が旺盛となり、人手不足が再燃しました」。また、多くの中小企業では人事を担う専門部署もなく、社長自ら、もしくは社長の配偶者などが、人事に限らずバックヤード業務を担っている場合も多いのが実情だ。「そこに支援が必要ですが、商工会議所や金融機関等の支援機関に相談しても、相談された側に専門知識やノウハウが乏しく解決が難しいケースが多々ありました」。
その時に出会ったのが、地域おこし協力隊として塩尻市の商工会議所に籍を置いていた横山氏だ。同氏は、地域企業の人材獲得や、塩尻市の関係人口創出事業などにも携わっていた。MEGURUが掲げる、「単体では解決できない地域の人材課題に地域ぐるみで向き合う塩尻の人事部」というコンセプトと塩尻市が抱えていた課題感が合致。2022年度からは関東経済産業局のモデル事業となり、行政、MEGURU、金融機関、大学、商工会議所など産学官金が一体で、地域企業における人的資本経営の推進と、地域で前向きに働く個人の育成を目指している。
多領域が連携し、時間をかけて
「地域で生きる選択肢」を創出
MEGURUの横山氏は、これからの地域の人材不足を解決していくために大切にしている視点を紹介した。地域の人事部として力を入れていく取組として、地域企業における緊急度の高い人材採用に向き合っていくことも大切だとしながらも、「民間の人材サービスが多数存在する中で、地域の人事部単体でできることは限られる」と語った。
その上、今後さらに生産年齢人口が減る中で、目先の求職者は先細りとなる未来は見えている。「だからこそ、地域の人材リソースの確保に向けて、緊急度は低いが重要度が高い領域として、将来の人材を育成するキャリア教育や、社員だけでない外部人材などの多様な人材活用、また、企業に人材が定着して育つような体制変革も含め、もう少し長期目線で地域を担う人材を育てていかなければなりません」。
時間をかけて地域に愛着をもった人材を育てるという活動は、民間企業だけで実施できるものではない。このような領域にしっかりと眼を向けていくことが重要だと横山氏はいう。地域企業に対する支援は経営支援機関や行政が、個人に対する支援には教育機関も参画しながら多機関が協力し、リソースを共有しながら、「塩尻における人的資本の価値向上を目指す、これが『塩尻の人事部』の取り組みです」と解説した。
このような模索を続ける地域の企業・組織に対し、人材育成を支援する企業として何ができるのだろうか。ベネッセコーポレーション大学社会人カンパニー 事業戦略部 事業開発推進課 課長の山端薫氏は、地域人材育成においては、様々なステークホルダー間に横串を刺し、地域とともに人材育成の戦略を描く支援をしていく存在が必要ではないかと考えている。地域には、企業、自治体、大学他の教育機関に金融機関と様々な組織がある。DXの重要性は共有しつつも、具体的な期待はそれぞれ異なるため、効率を落とさないためにもどこかで調整が必要だ。
「最近の企業では、人材活用の司令塔となる幹部職、CHROを置くところも出ています。地域の戦略と連動した、人材育成の方向性をリードする役割が地域にも必要だと考えます。ベネッセでは今まで自治体はもちろん、地域の企業、経済団体、全国の大学・専門学校の人材育成も支援してきました。今後はより地域の戦略との連動性を持ってベネッセがご支援をしていくことで、地域の持続的な人材育成を支援していくことができたらと考えています」と山端氏は話した。
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ベネッセコーポレーション
URL:https://www.benesse.co.jp/udemy/government/reskilling-network/
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