OpenRoaming対応Wi-Fiにより安全かつ簡単につながる世界へ 「つながる東京」が進める通信環境改革
東京都は「つながる東京」の名の元に通信基盤整備を2024年度から3か年計画で進めている。その根幹は次世代公衆Wi-Fi「OpenRoaming(オープンローミング)」。その導入理由や、「つながる東京3か年のアクションプラン」概要などについて、東京都デジタルサービス局の小野寺圭氏、小宮学氏に聞いた。
「つながる東京」の重点ポイント
OpenRoaming対応Wi-Fiの展開
OpenRoaming対応Wi-Fiの展開
東京都は通信基盤を基幹的インフラと捉え、あらゆる人やモノが、いつでも、どこでも、何があってもネットワークにつながる東京を目指している。その取り組みは、高速大容量の5G拡大や、災害時に備えた複数の通信手段による多重化など多岐にわたる。
2023年12月には、今後3年間で集中して行う具体的な目標・取組を定めた「つながる東京3か年のアクションプラン」を発表した。OpenRoaming対応Wi-Fiを2025年度末までに都有施設約1300か所へ整備するなどの方針が明記されている。
「インフラとしてのネットワークの整備を東京都が、民間事業者とともに整備を進めています。その考え方や規模感、スケジュールを計画にまとめ、都民に対して情報発信を行い、理解をいただきながら進めてきたいと考えています。」と、東京都 デジタルサービス局 つながる東京推進担当部長(兼スマートシティ推進担当部長)の小野寺圭氏。
アクションプランはOpenRoaming対応Wi-Fiの展開を重点の1つに据えている。OpenRoamingとは、登録を一度だけすることで、以降は異なるSSIDのWi-Fiにも自動で接続し、高速かつ安全なネット環境を実現する次世代公衆Wi-Fiだ。その仕組みは2019年にCisco OpenRoamingとしてシスコシステムズが開発した技術がベースになっており、東京都と連携する形で整備・認知度向上が進んでいる。
その採用理由について、同局 デジタルサービス推進部 つながる東京推進担当課長の小宮学氏は「昨年度のTOKYO Data Highway通信利用動向調査で、公衆Wi-Fiを利用したくない人の約8割の方が『公衆Wi-Fiは安全性に不安』という回答でした。安全で利便性が高い公衆Wi-Fiを提供したいという思いから、東京都はOpenRoaming対応Wi-Fiを都内全体に広げることを目指しています」と話す。
都有施設約1300か所への整備と
高度な「東京品質」を目指す
アクションプランでは、OpenRoaming対応Wi-Fiを約580か所に新規整備することに加え、従来型「TOKYO FREE Wi-Fi」約740か所でOpenRoaming対応への切替を行い、2025年度末までに都有施設約1300か所で整備を目指している。
「この計画によって東京都の主要な公共施設はどこでもWi-Fiが繋がるようになると考えています。都立公園など人が集まる施設を中心に、昨年度末時点で638か所への整備を行いました。都民アンケートでは、つながる東京で展開するOpenRoaming対応Wi-Fiに対して『安心して使うことができている』という回答を多数いただいています。都が推奨することにより、自治体をはじめ各施設管理者が安心感をもってOpenRoamingに切り替える流れが生まれ始めていると感じています」(小宮氏)
Wi-Fiを利用するユーザー視点によるOpenRoamingに対する利便性の声も挙がっている。
「使った方にはすぐに使用感の良さを実感いただいています。例えば、以前は公衆Wi-Fiに繋ごうとしたら、その都度認証が必要で、さらに一定時間が経過すると再び認証など煩わしさがありました。一方でOpenRoamingはSSIDの切り替えや認証が不要ですぐに繋がるので、とても便利という感想があります。最初に登録したときはわからなかったけれど、二度目に繋がっていて利便性を感じるという声もありますね」(小野寺氏)
東京都はWi-Fi整備か所を増やし、通信可能エリアを拡大するとともに、通信品質の向上にも取り組んでいく方針だ。「東京品質」と名付け、その実現を目指す。
「都民アンケートで、公衆Wi-Fiは通信速度が遅く感じるなど品質イメージに課題があるとわかりました。そこで、通信速度や電波強度に対して、都で独自の基準を定め、『東京品質』として高めていきたいと考えています。TOKYO Data Highway戦略推進協議会を通して通信事業者との連携を行っており、調査方法や基準設定などに関する知見をいただきながら高い品質を実現していきます」(小宮氏)
自治体への技術支援と
補助金制度をスタート
東京都はOpenRoaming対応Wi-Fiの整備をさらに加速させるため、今年度7月から区市町村に対する整備計画策定技術支援および整備事業補助金制度をスタートした。補助割合は1/2で、1か所あたり上限200万円と定めている。
「5月に都内区市町村に対する説明会を実施しました。各自治体がWi-Fi環境を整備しようとしても現地調査・設計等の技術面や整備のコスト面などで困難なことがあります。相談をお受けして、市役所職員の方の目線に合わせたサポートを進めています。アクションプランの整備目標は高い数字ですが、着実に進んでいます」(小宮氏)
技術支援は今後より注力していく予定だ。通信事業者からは専門知識をもつサポート人材が参加しており、さらなる加速に手ごたえを感じていると小野寺氏は話す。
「各自治体では、1人の担当者が多数の業務を兼務していて、Wi-Fiを整備したくても、優先順位が低い場合もあります。都は各自治体と説明会やオンライン会議を重ね、技術的な支援を通して、一緒に課題をクリアしていくことで、Wi-Fiの整備を丁寧にサポートしていきます。」(小宮氏)
来年2025年、東京都ではデフリンピックなど大きなイベントの開催予定があり、現在増加しているインバウンドの流れからも多数の外国人旅行者の訪問が予想される。それに対しては「東京都の区市町村と協力してWi-Fi設置個所を増やしていくとともに、鉄道事業者や航空事業者などと連携し、旅行者にも満足してもらえる通信環境を整備できるように広めていきたい」と小宮氏。
小野寺氏は「海外に行ってもフリーWi-Fiは街中で飛んでいますが、そこに繋げて安全なのか不安があります。それは日本に来る海外の方も同じですが、東京都が推進しているOpenRoaming対応Wi-Fiであれば安心感をもって繋ぐことができます。しかも簡単に繋がる。その環境は世界で見ても先端であると自負しています」と話す。
通信環境の整備は東京都が進めている行政DXの実現にも直結していくものだ。
「区市町村の窓口で手続きを進める際にWi-Fi環境が整っていることが前提になります。防災の観点からも通信の冗長化は非常に重要で、都の非常用電源を活用することでWi-Fiには繋がる可能性がある。携帯キャリアの通信や衛星通信など、複数の通信環境を整えていくことが大切だと考えています」(小野寺氏)