旅費法改正は自治体の業務改革の絶好の機会
2025年4月に施行予定の旅費法改正は、地方自治体にとって煩雑な旅費精算業務をシンプルかつデジタル化するチャンスだ。これについて、自治体の旅費精算業務デジタル化を支援するコンカーの長谷大吾氏と、事業構想大学院大学教授の河村昌美氏が対談を行った。今回はその前半を紹介する。
「面倒で当たり前」ではない
効率化の余地が大きい旅費精算
── 自治体のDXを支援する中で感じた課題についてお聞かせください。
長谷氏 (以下、敬称略) 自治体DXと言えば、まずは住民向けサービスのDXをメインに考えると思いますが、私たちが対象としているのは自治体の職員の事務の部分。その中でも旅費という、自治体職員の方々にとってはノンコアな部分にフォーカスしています。
旅費申請や精算に関して、今も紙に記入して目視でチェックするというアナログかつ人海戦術でやっている自治体は多いと思います。自治体職員にとって業務旅行は付き物だし、行けば精算が必要で放置できません。そして、精算業務は面倒で当たり前という概念がある。そこを、デジタルツールを使って効率化するという考え自体及ばないのではないかと思っています。
加えて、旅費精算は件数が多大かつ1円単位という、不規則で煩雑なデータを扱います。自治体の経費は原資が税金であり、ミスは絶対に許されませ んから、経路や金額の審査工数も膨大で、そこを改革しない限り旅費業務の最適化は難しいと感じます。
河村氏 (以下、敬称略) おっしゃる通りです。旅費精算はノンコア業務なので、住民向けサービスや会計システムなどよりはどうしても後回しになります。しかし、ノンコアながら全職員に関わる普遍的事務作業であり、お金が絡むことは放置できません。旅費精算業務の効率化は必須であり、今回の法改正はその良いタイミングだと、自治体の皆さまには理解していただききたいと思います。
図 旅費精算業務に関する調査結果
数字にすると見えてくる
旅費精算のための膨大な時間
── コンカーでは自治体に対するアンケートや実証も実施されています。その結果や、そこから見えてくることをお教えください。
長谷 2024年6月に、旅費法改正に関するインターネット調査を実施しました。対象は主に自治体、そして国公私立大学や独立行政法人です。「旅費申請手続きが煩雑だと思うか」という設問に対しては「とても煩雑である」「やや煩雑である」という回答が合計約80%。さらに、1つの申請にかかる時間は43%が15分から30分と回答。つまり1回の業務旅行にこれだけの事務作業が必要ということです。業務旅行の頻度が少ない職員の場合、旅費規程を思い出すところから始まり、なんとか申請書を出しても不備で差し戻し、ということが起こります。
さらに言うと、申請よりも審査時間に多くの時間が割かれています。1件の申請を審査する時間について、22%が30分から45分と回答しました。大きな自治体ならそれが何万件になり、差し戻し再審査するとなると、膨大な時間がかかります。これまで旅費申請や精算業務は「なんとなく時間がかかっている」とは感じておられたと思いますが、データを集めて数字にすると見えてくるのではないでしょうか。
河村 システムを入れるとなると自治体は身構えるものかもしれませんが、こうやってデータを見せてもらえると分かりやすいですね。
キャッシュレスデータと連携すれば
「間違い」に関する苦労が減る
── コンカーでは、自治体にどのような提案をされるのでしょうか。
長谷 私たちのサービスのコンセプトは、デジタルデータを起点に業務を再構築すること。旅費精算で言えば、デジタルデータとはキャッシュレスデータです。今は皆さん、ほぼ現金を使いませんよね。様々なキャッシュレス決済を利用されていて、そこには金額だけではなく日付や支払先のデータも付随しますから、それをいかにうまく使うかだと考えています。コンカーではあらゆるキャッシュレスサービスと連携しており、自治体ごとの地域特性や個人の好みも踏まえて選択できます。自治体ではあまり利用されていませんが、タクシーアプリとも連携しているため、日付や利用者はもちろん、乗降場所まで全部データが得られます。
河村 まさに、今回の法改正にある実費精算のデータということですね。
長谷 定額制だと、例えばホテル代はこの地域で定額でいくらという申請だったので、キャッシュレスデータを使う余地がありませんでした。しかし、法改正によって上限金額の範囲内で実費支給となりますから、既に実費制を採用する自治体とは、キャッシュレスデータを連携させた業務効率化についてやり取りをさせていただいています。
河村 地方自治体としても実費精算となると、キャッシュレスデータを使う方法に転換しないと、これまで以上に手間が増えてしまいますよね。それにキャッシュレスデータなら記入ミスはないし、申請側がごまかすこともできません。
長谷 ケアレスミスも防ぐことができます。あらかじめ、担当者の部局や役職データを組み合わせ、その部局・役職ならこの種目に対していくら使っていいかを設定しておけば、旅行をする本人が申請する段階でミスをしても、エラーが出て教えてくれます。人から間違いを指摘されると嫌な気分にもなりますが、システムから間違いを指摘されてもあまり腹は立ちませんよね。精算時も、もし規程違反があれば、どうやったらクリアになるかをシステムがナビゲーションしてくれるので、本人が自らいろいろ調べなくても済みます。申請が通った時点で規程違反がないので、審査する側も手間が減ります。
河村 自治体の場合、「もうちょっと手を抜いてもいいのでは」という考え方は、税金を使っている点であり得ません。でも自治体職員も人間なので、細かなことを違うと指摘するのもされるのも心理的負担になる。それを避けられるだけでも、デジタル化は重要だと思います。
長谷 もちろん、キャッシュが確実に使われているか、それが規定に合っているかなど、人間のチェックも必要ですが、そこもある程度カバーしてくれるのがデジタル化した旅費精算のいいところ。自治体にはぜひ旅費法改正を機に、システム化をご検討いただきたいと考えています。
- 河村 昌美(かわむら・まさみ)
- 事業構想大学院大学/事業構想研究所 教授
- 長谷 大吾(はせ・だいご)
- 株式会社コンカー 公共営業部 部長
お問い合わせ先
株式会社コンカー
E-mail:info_japan@concur.com
Tel:03-6737-4300(平日10:00-17:00)
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