持続可能なフカヒレ生産へ、サメを丸ごと活用する構想
サメのヒレを乾燥させてつくるフカヒレ。日本は世界有数の産地で、様々な食品にも使われるようになっている。他方海外では、乱獲による個体数減、生態系への影響が心配され、食用を控えたり、禁輸する国も出てきた。国産フカヒレを持続可能にするため、サメ1頭丸ごとの有効利用を目指す取り組みを紹介する。

中華・高橋代表取締役社長の髙橋滉氏と、ピーチシャークのイメージキャラクター、ヨシ子
中華料理の高級食材として知られるフカヒレ。日本は世界有数の生産国で、宮城県気仙沼市はその中心となっている。多くはマグロ延縄漁業で獲られたヨシキリザメなどを原料にしたもので、気仙沼市では毎年1万トンほどのサメ類を水揚げしている。尾びれと背びれ、胸びれなどのひれはフカヒレに加工され、身の部分ははんぺんなどの原料として使われてきた。
一方海外では、2000年ごろからサメの乱獲が問題になっている。フカヒレの採取を目的とした海外のサメ漁では、捕獲したサメのヒレのみを切り取り、かさばる魚体は、時には生きたまま海に投棄する「シャークフィニング」を行っていた。乱獲による生態系への影響と、泳げなくなったサメを海に捨てる残酷なイメージから国際的な問題になり、英国のようにフカヒレの輸入を禁止する国も出ている。
1頭丸ごとの有効利用を目指し
サメ肉加工工場を気仙沼に開設
シャークフィニングが批判の対象になったことから、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)は、サメ類のひれのみの利用を禁止するための 5%ルール(サメの胴体重量の 5%以上のひれの保持や陸揚げを禁止)を導入。国産フカヒレはこのルールの下で生産されたものだ。また国産フカヒレの原料になるヨシキリザメやモウカザメ、アオザメは国際自然保護連合(IUCN)の分類では絶滅リスクが低いとされている。
しかし、海外での動きに引きずられ、フカヒレに悪い印象を持つ人も出始めている。そこで、気仙沼市の2つの漁業組合と岩手大学、シーフードレガシー(東京都中央区)は、ヨシキリザメ、メカジキを対象とした「気仙沼ヨシキリザメ・メカジキ延縄漁業改善プロジェクト(Fishery Improvement Project, FIP)」を2021年3月に開始している。持続可能な漁業を行っているお墨付きである、MSC認証の取得を目指した野心的な試みだ。
これらの動きと並行して、フカヒレの製造・供給事業者は別のアプローチでのイメージアップを模索している。中華・高橋(東京都江東区)と、グループ会社の中華高橋水産(宮城県気仙沼市)で代表取締役を務める髙橋滉氏は、フカヒレのみが目につき、サメ肉の消費が認知されていないことが問題なのではないかと考えた。中華・高橋は、中華食材の卸売商社として国内の中華料理店に様々な商品を供給しているほか、最近では消費者向けに中華料理の調味料やたれ、総菜なども販売している企業。国産フカヒレについては、気仙沼の中華高橋水産で加工したものを中華・高橋が外食市場へ卸しており、国内のトップ企業となっている。
気仙沼港、水揚げ前の延縄船(撮影:LIVEONE/菅野勝男)と、ピーチシャークの原料となるサメ
国産フカヒレは中華料理だけでなく、高級割烹料理店からファミリーレストランのメニュー、レトルト食品・缶詰まで用途が広がり、食材の1つとして定着してきている。一方、サメ肉の方は知名度が低い。白身魚のすり身を原料に作られるはんぺんにはサメ肉が含まれているが、サメだと意識して食べている人は少ないだろう。そこで髙橋氏は、魚としてのサメ肉を広め、消費を増やす取り組みを始めた。
「サメ肉の活用については1990年代後半から自社で取り組んでいました。鮮度が落ちると臭いが出ることから、当時は『脱臭』というアプローチで研究を進めていましたが、商品としては成功しませんでした」と髙橋氏は振り返る。
その後、2011年3月に東日本大震災が発生し、復興の中で髙橋氏はサメを使った地域活性の試みを開始。ここに気仙沼市や漁業組合も参画した。そこで漁船の船主と協力関係ができたことで、サメ肉の新たな商品化が動き出したという。
「船での漁から加工・販売まで、垂直統合すれば鮮度の高いサメ肉を供給できます。サメ肉は新鮮だと全く臭いがないので、漁船の協力のもと、多様な鮮度の検体を採取して科学的に分析しました。その結果、漁獲後に氷冷で10日経過すると臭いを感じるようになることが分かりました。そこで、6日以内に加工することを前提とした新鮮なサメ肉を『ピーチシャーク』としてブランディングすることにしました」と髙橋氏は話す。
2016年にサメ肉の専用工場を建設し、まずは切り身を商品化、加工食品原料や外食産業など向けに供給を開始した。すでに、ピーチシャークを原料とした魚フライは遊園地や水族館、レストランチェーンで食べることができる。また産地の地元の野球場、楽天生命パーク宮城は「シャークナゲット」をスタジアム・グルメの1つとして提供している。
気仙沼に開設したピーチシャークの工場。現在は寿司ネタとしての商品化に取り組む
高付加価値化と新市場の創造で
漁業を持続可能に
現在、高橋氏が取り組んでいるのは、ピーチシャークの寿司ネタとしての商品化だ。魚の加工品として最も付加価値が高い“刺身”で供給できるようになれば、サメの魚価が上がり、漁業者の収入を増やせる。フィニングをしない日本の漁では、漁獲したサメ1頭を丸ごと水揚げするが、その分漁船のスペースがとられ、運搬コストなどもかかる。1頭のサメからなるべく多くの売上を得ることは、漁業者にとって重要だ。髙橋氏は漁師の高齢化にも危機感を抱いており、気仙沼の漁業を持続可能にするためにも、「儲かる漁業」の実現が不可欠だと考えている。
「フカヒレの加工業はサメをとってくる人がいなければ成り立ちません。漁業の持続可能性が成立するよう、サメ肉の新しいマーケットを創造していきます」。
当面の目標として、2023年4月期までに、昆布じめにしたピーチシャークが、大手回転寿司チェーンのメニューとして採用されることを目指している。高品質で大量に供給できるよう、商品開発を進めているところだ。2024年4月期には、有名外食チェーン10社でサメ肉がメニューとして採用されるよう、営業を強化していく。さらに、スーパーの総菜としての利用や、家庭で調理する食材としての普及も促進する。
「新製品展示会で『サメ肉』というと食べることを躊躇していた人でも『ピーチシャーク』のブランドでは進んで試食してくれる。加工・販売業がサメ肉の市場をつくって魚価が上がれば、漁業者も資源管理の枠内でサメの水揚げを増やします。すると私たちはフカヒレの原料が安定して入手できるようになる。サメをめぐる経済の好循環を生み出していきたいです」と髙橋氏は抱負を語った。