徳島県・後藤田正純知事 「未来に引き継げる徳島」の実現を目指す

現場に近い政治を実践するために国会議員から転身し、2023年に徳島県知事に就任した後藤田知事。「未来に引き継げる徳島」の実現を基本理念に、2024年度より新総合計画のもと全力で取組を進めている。産業振興では「徳島バッテリーバレイ構想」に注力するほか、積極的に海外へ徳島を売り込んでいく。

後藤田 正純(徳島県知事)

ビジョン実現のため、徹底的に
魅力度・安心度・透明度を高める

――2024年度から開始された「徳島新未来創生総合計画」のビジョンや、戦略のポイントについてお聞かせください。

「徳島新未来創生総合計画」では、素晴らしい徳島を未来に引き継いでいくため、県民が「ずっと居りたい」、一度県外に出た人たちが「いつも帰りたい」、徳島に来たことのない人々が「みんな行きたい」徳島県を目指す姿とし、このビジョンを実現するために「魅力度」「安心度」「透明度」を徹底的に高めることをミッションとしています(図表)。

図表 「徳島新未来創生総合計画」のビジョンとミッション

出典:徳島県

 

「魅力度」向上では、観光、農林水産業、中小企業の振興などに戦略的に取り組んでいます。本県の観光は遅れをとっており、県別宿泊者数では全国で最下位に近いという状況です。そこで徳島県への導線強化施策として、航空路線の増強を図っています。知事就任後、台湾チャーター便の就航は3倍に増え、この秋以降は徳島-香港間の定期便や、韓国ソウルとの定期便が就航する予定です。

本県の魅力と言えば、山や海や川などの豊かな自然です。近年は自然を見直す流れになっていますが、本県の自然が価値あるものであることをまず県民自身が知り、ブラッシュアップして魅力度を高めていくことが重要だと思っています。例えば、本県には吉野川や那賀川という一級河川があり、その支流は清流として知られています。急峻な四国山脈には見ごたえのある滝がたくさんあります。現在、こうした徳島の自然を満喫できるように宿泊施設やキャンプ場などの整備を進めているところです。

農林水産業に関しては、人口減少に伴う担い手不足が全国的な課題です。農林水産業に就業したいと思えるように、儲かる産業にしていかなければいけません。徳島の農林水産物を日本国内に広めることはもとより、海外への輸出も進めています。香港への航空定期便が就航すれば、香港の隣には中国マーケットも広がっています。今後は海外市場を視野に入れた儲かる農林水産業の推進に注力していきます。林業については、若い世代の関心が高いSDGsに直結する産業として振興を図りたいと考えています。

中小企業については、この秋にタイの政府機関である「投資委員会」、「工業省産業振興局」とMOU(産業連携覚書)を結ぶ予定です。締結後は、タイ政府と連携し、タイ企業と徳島の中小企業との交流を図ります。製品の輸出だけでなく、徳島の中小企業の優れた能力や技術力をアジアで展開して稼いでいただきたいと考えています。

徳島の魅力を発信するさまざまなイベントも企画しています。イベントは都市部だけでなく、各地方が公平に盛り上がるように予算化しています。今年の12月1日には「徳島おどりフェスタ」を開催します。ここに「東京ディズニーリゾート®スペシャルパレード」が参加してくれることになりました。徳島でミッキーマウスが見られると、今から県を挙げて熱狂しています。

スピーディに雇用や教育を
変え、人材の確保を

「安心度」向上においては、地震や台風などによる災害への対策について徹底的に検証し、訓練を繰り返し実施しています。特にこの4月に起きた台湾花蓮地震での、迅速な避難所開設が可能となるNGO・行政の連携体制、防災備品の備えは大変参考になりました。我々日本も、TKB(トイレ・キッチン・ベッド)などの防災装備品は防衛装備品と同様に国がやるべきではないかという話を政府としながら、南海トラフ巨大地震に対する危機管理レベルを上げています。医療や介護の充実も「安心」につながります。

しかし、人材不足は深刻です。現時点で数十万人の人材不足と言われていますが、2040年には1千万人以上の不足が想定されています。徳島県が選ばれるような環境整備が必要です。現在、本県の最低賃金は全国で下から2番目です(2024年11月以降は全国27位)。これでは若者の県外流出は止まらず、風評被害で人も来ません。経済・雇用・教育をスピーディに変え、人材を確保することは喫緊の課題です。

徳島県では新たな最低賃金980円が2024年11月より適用され、全国27位となる

「透明度」については、県民参加型の政治を実践します。そのためにはまず、県民の皆さんの政治への関心を高める必要があります。例えば、学校には校則がありますが、決められた校則をただ守るのではなく、生徒たちが「この校則はおかしくないか?」と議論を重ねてよりよいものをつくる。そういう教育が主権者教育につながります。「自分たちでつくる力」は、幼稚園から高校まで、大人が機会を与えながら、戦略的に教え込まなければいけません。

スポーツを、「部活動」から
優秀な選手が集まる世界標準に

――教育分野では、具体的にどのような施策に取り組まれていますか。

教育は、「安心」や「魅力」にもつながります。この9月、県内の小学生を対象に「徳島こどもメディカルラリー知事杯」を開催しました。救急救命講習を受けた子どもたちが、「けが人」や「倒れている人」に遭遇した際の「迅速な119番通報」や「適切な応急手当」などを競いました。こうしたイベントで人命救助に携わる人たちと直接触れ合うことは、子どもたちにとって貴重な経験になるはずです。

2024年9月、小学生を対象に開催した「徳島こどもメディカルラリー知事杯」の様子

スポーツなどの部活動も変えていきたいと思っています。日本ではスポーツは課外活動ですが、海外ではアスレティック・デパートメントという部局が学習とスポーツに取り組む学生の教育環境等を整備し、学生の活躍を支援しています。学生やチームが成果を上げれば、世界中から優秀な選手が集まります。アメリカでは10万人規模のスタジアムの9割は大学の所有です。スポーツを学校の部活動としか見ていない日本は、世界標準から遅れをとっていると言わざるをえません。教育、スポーツ、文化といったものの見直しを、徳島から始めようと思っています。

業務の進め方を見直し
職員の負担を軽減

――行政の働き方改革についてはいかがでしょうか。

本県職員の時間外勤務手当(一人当たり平均月額)は全国最多クラスであり、年間総支給額は約45億円です。そこで今、人事のあり方や業務の進め方を徹底的に見直して合理化を進めています。例えば、行政機関の書類の作成は100%に近い完成度で知事室に持ち込まれるため、訂正箇所が出ると、また最初から作り直しになり時間も労力もかかります。そこで、私は60%ぐらいの完成度で知事室に持ってきてもらうようにしました。訂正があってもスピード感を持って業務を終えることができます。

私は知事選の時に、公約として知事の任期上限12年と退職金廃止を掲げました。この2つは知事就任後条例をつくり、可決されています。劇的な変革はトップが変わらないとできません。よりスピード感をもって目標を達成し、後進に道を譲りたいと思っています。

バッテリーバレイ構想と
スタートアップ支援に注力

――産業振興では、2024年7月に「徳島バッテリーバレイ構想」を発表されました。

経済安全保障上、特に重要な2品目は、半導体と蓄電池です。本県にはリチウムイオン電池の「正極材料」を生産している日亜化学工業、ハイブリッド自動車の電池を製造しているプライムプラネットエナジー&ソリューションズ、関連設備の製造でニッチトップを誇る丸井産業があります。また、蓄電池産業が集積する関西と連携するため、「関西蓄電池人材育成等コンソーシアム」に入っています。徳島大学や国立阿南工業高等専門学校では、蓄電池などの研究が盛んに行われています。こうしたポテンシャルを活かすため、「徳島バッテリーバレイ構想」を策定しました。今後は蓄電池産業を集積し、県民の雇用拡大や所得向上を図っていきます。また、カーボンニュートラルに繋がる将来的な蓄電池の価値について、子どもたちに蓄電池の構造や使用する意味などを学んでもらう取組を進めています。

産業振興のもう1本の柱として、スタートアップ支援事業に取り組んでいます。神山町にキャンパスを置く「神山まるごと高等専門学校」は、企業からの寄付により学費の実質無償化を実現して、学ぶ意欲に満ちた天才的な学生が集まっています。本県出身者も1期生4人、2期生2人が学んでいます。彼らをはじめ若者たちが事業を立ち上げたいと思った時に徳島で起業してもらえるように、県もしっかりとバックアップしてまいります。

このように、バッテリーバレイ構想とスタートアップ支援で産業を振興させるための種まきを、今着々と進めています。

良いものが適正に評価される
儲かる農林水産業へ

――冒頭でお話しいただいた競争力のある農林水産業の実現のため、どのような施策をお考えですか。

農林水産業の担い手不足の解消のため、私はよく東京の人たちに徳島と二重生活をして農林水産業をしないかと話します。地方の農林水産業が立ち行かなくなれば、都会に住む人たちはご飯が食べられなくなるからです。

世界の人口が増えるなか、円安が進めば食料輸入は十分にできなくなります。だから若い人たちだけでなく、元気な高齢者や障がいを持つ人たちにも、どんどん農業をやってもらう。良いものをつくり、それが適正に評価される。そういう仕組みをつくりたいです。

2025年に、本県で「第20回食育推進全国大会」を開催します。食育基本法の提案者である自分が20周年の節目に関わることができ、非常に感慨深いです。大会では、食料安全保障問題をさらに掘り下げ、フードセーフティー、フードダイバーシティ、フードロスの問題について考えたいと思っています。これは健康というものに農林水産業がどのように関わっていくのかということを考える機会になると思います。

産業振興のため、徳島を
どんどん海外へ売り込む

――観光産業の振興や、徳島の魅力発信への取り組みについてお聞かせください。

宿泊者数全国最下位レベルの対策としてホテル誘致の受け入れ態勢の充実を図るため、さまざまな補助金を設定し、複数のホテルの誘致を進めています。徳島駅前は四国最後の駅前開発と言われていますが、遅れをとった分、どこかの真似ではない個性的な開発をしたいと考えています。

鳴門では、徳島と淡路島を結ぶ「大鳴門橋自転車道(サイクルロード)」を2027年度の完成を目指して整備しています。サイクルツーリズムは世界的に人気なので、インバウンドの誘致にもつながると考えています。

インバウンドが増えるなか、彼らの関心は東京や大阪、京都といったゴールデンコースから、アナザージャパンに向かっています。この機運を活かすべく、徳島の自然や食などの魅力を磨き上げ、各地域それぞれが輝くようにしたいと考えています。かつて鳴門市にあった板東俘虜(ふりょ)収容所は、ドイツ兵捕虜によってベートーヴェンの「交響曲第九番」がアジアで初めて全曲演奏された場所として知られています。ドイツのベートーヴェン・ハウスの館長に徳島から来たと言うと「板東から来たのか?」と聞かれました。徳島でも鳴門でもなく、「板東」と。このようによりリージョナルにフォーカスされることはすごく良いことだと思います。

観光も含め、これからの産業振興は海外への売り込みが必須です。自治体はどんどん外に出て行くべきです。私は商社マンから国会議員となり、EU議員連盟の幹事長を15年ほど務めました。そこで培ったスキルと人脈を活かし、海外に徳島を売り込んでいきたいと思います。

後藤田知事は、徳島の魅力を世界に発信するための地域外交に力を入れている。2024年3月には外務省飯倉公館において、外務大臣及び徳島県知事共催の「SDGs先進県徳島を世界へ発信するレセプション」を開催

 

後藤田 正純(ごとうだ まさずみ)
徳島県知事