ストリートファッションのyutori 「好きな人と好きなことを」が原動力

2018年に、当時24歳の片石氏が設立した、ECベースのストリートファッション会社yutori。SNSのメディアを起源とし、同世代のニーズをつかむとともに、有力な起業家の出資を得て事業を拡大してきた。若者をターゲットに事業展開する片石社長が、同社のビジネスについて語った。

片石 貴展(yutori 代表取締役社長)

インスタグラム上の古着ファッションのコミュニティ、「古着女子」の運営・プロデュースで注目を集めた片石貴展氏らによって2018年4月に設立された、D2Cのストリートファッションアパレル会社の「yutori」。「9090(ナインティナインティ)」をはじめ11のブランドをすでに立ち上げ、2020年7月にZOZOの傘下に入って以降、事業の成長をさらに加速している。

yutoriの中核ブランド9090。「肩肘張らない生意気さ」をコンセプトに、90年代の若者のファッションをアレンジ

多様化する嗜好に応えるため
多くのブランドを立ち上げる

2022年3月に、コーポレートビジョンを「TURN STRANGER TO STRONGER(ハグレモノをツワモノに)」とし、リブランドした。その狙いについて「マイノリティかもしれないけれど反骨精神を持っている、自分たちと同じ志の人とブランドを作っていきたいという思いを表現しました」と片石氏はいう。とくに注力しているのは、K-POPやヒップホップなど若者に人気の音楽シーンの中で、熱狂を生んでいるクリエイターとのコラボによるブランド創出。

「ファッションの嗜好が細分化する中、売上規模300億円のビッグブランドを構築することを狙うのではなく、数億円のブランドをたくさん育てていきたい」と話す。2月には、創業者デザイナーを通じて海外にネットワークを持つストリートウェアのブランド「フラグスタフ(F-LAGSTUF-F)」を買収した。これを足掛かりに、海外でブランドを立ち上げるチャレンジも始めようとしている。

yutoriの起源は、片石氏が高校生の頃にさかのぼる。「古着をはじめとするストリートから生まれてくる自発的なカルチャー」に傾倒し、「服を買わなくても店主と話したくて古着屋に頻繁に通っていた」という。

nemneは古着女子がプロデュースするブランド。古着風のかわいい服を提供する

「ある意味で起業家でもある店のオーナーはみな楽しそうでした。そのようなキラキラしている大人にあこがれを抱いていました」と片石氏はいう。

また片石氏は、親も起業家だった。「普通のサラリーマン家庭とは異なり、当たり前ではないことが日常だった分、はみ出ることに躊躇はなかった。親からは勉強しなさいとも全く言われなかったし、自分を尊重してくれたから、好きなことをやらせてもらいました」と振り返る。

大学卒業後、いったん就職はしたものの「本当に好きな人と好きなことをやりたい」という気持ちが募った。「古着のマーケットが盛り上がっていて、インスタグラマー、インフルエンサーの活動を見ていたら、自分でも何かできるのではと考えました。資金も人脈もなかったので、まずはインフルエンサーをキュレーションするメディアを立ち上げました。SNSがベースのため初期費用はかかりませんでした」。

会社を立ち上げた時、片石氏は24歳だった。若年での起業については、「自分と同じような年代の人が何のために服を着て、どのようにSNSを見て購入するか。一連の消費行動への理解がリアリティを持って実感できる。会社でマーケティング戦略を考えている社員も20代前半が多く、この仕事を自分ごとにできるのは強みです」と話す。

2023年には上場するという目標を立てており、会社としては収益にこだわっていかなければならない。一方で片石氏は、事業を続ける原動力としては「好き」が重要だと強調する。「お金が目的になってしまうと動機としては弱い。どうしてもある一定のところで満足してしまうと思うんです。『好き』とは、夢中になってそれに取り組めて、かつそれが良く理解できること。ピュアな気持ちでビジネスをしないと10年、20年と継続することは難しいのではと思います」。

先輩起業家との対話で得られる
体感を糧に事業拡大

片石氏は、会社設立の段階から、エウレカ創業者の赤坂優氏やクラウドワークスの佐々木翔平氏、CAMP FIREの家入一真氏などからの出資と、様々なアドバイスを受けていた。起業家として成功してきた先輩と近い距離感で接することができ、事業についても気軽に相談できる関係だった。これはビジネスを展開する上で、非常に役に立った。

「先輩起業家と会って話をし、同じ問題をどうとらえるかについて比較する。それにより、自分自身がどういうタイプの人間・経営者か、自分なりのうまくいくやり方は何なのかについて、解像度が上がりました」という。

「例えば、私はどちらかというと着実に積み上げながら売上も利益も増やしていきたいタイプ。いわゆるスタートアップ的な、Jカーブの成長を目指すタイプではないんです。これに対し『企業価値を上げるために一気に資金調達しちゃいなよ』というアドバイスをもらっても、体感として違うとわかる。自分に合った道を選ばないと、健全な成長はできないと考えています」。

起業家として成功している人たちからのアドバイスだからこそ、タイプの違いを明確に感じ取ることができ、また自らの血肉にもしやすかった、と片石氏は分析する。

足を引っ張らないことも
若手起業家の支援になる

SNSメディアから起業し、先輩起業家の出資などで手堅く事業を成長させていった片石氏。若手起業家にとって役立つ支援策については、「何かを付け加えたり背中を押したりする、プラスの支援は部外者にはなかなか難しい。一方で、若者が何か新しいことに挑んでいる時に邪魔をしないようにするのも重要です」と話す。

そして片石氏は、yutoriの発祥の源となったSNSの、最近のあり方について言及する。ユーザーの増加に伴い、SNSから誕生した新規事業やビジネスは増えてきた。yutoriの事業自体、SNSがなければ始まらなかった。

「SNSがあったからこそ、たくさんの人の共感を集めることができ、ビジネス面でも多くの応援を集めることができました」。ただ、ここ数年のコロナ禍でSNSの雰囲気は荒んでいる。他人の発言をたたいたり、気に入らないことをさらしたりという風潮を片石氏は危惧している。「新しいことを発信、表現をしようとする人に対し、批判ばかり集まるようでは、前向きな気持ちがそがれてしまう。発信する際のインセンティブがなくなり、新しいものが生まれなくなるのはもったいないことです。ネガティブな批判を減らしていくことはできないのかとも思っています」。

これから若い起業家が生まれる土壌を豊かにしたいと考える、SNS発の先輩起業家の真摯な声だ。