日本テトラパック 紙容器でコスト以上の価値を社会に還元
スウェーデン発祥のテトラパックは、世界160か国以上に展開する食品加工処理と紙容器充填包装システムの世界最大手企業だ。市販飲料や給食の牛乳パックなどの紙容器で日本でも広く親しまれている同社は、1951年の創業以来、先進的な技術で世界の食品供給を支えてきた。これまでの独自の技術を生かし、人口減少や防災といった社会課題の解決や循環型ビジネスモデルで、新たな価値創造に挑む。同社の持続可能な社会の実現に向けた構想について、日本テトラパック株式会社代表取締役社長ニルス・ホウゴー氏に話を聞いた。
(日本テトラパック株式会社 代表取締役社長)
「PROTECTS WHAT’S GOOD(大切なものを包んでいます)™」-食品、人々、地球を守る
テトラパックは1951年、スウェーデンで創業。「A package should save more than it costs(紙容器のコスト以上のメリットを社会に還元しなければならない)」という創業者の理念は、単なる紙容器製造業にとどまらず、同社がより大きな社会的使命に取り組む原点になっている。
「私たちが掲げているモットーに『PROTECTS WHAT‘S GOOD(大切なものを包んでいます)™』とあります。これは、私たちにとって大切なもの、つまり食品を守ることはもちろん、人々と地球を守ることも意味しています」とホウゴー氏は語る。テトラパックは世界中で年間約1800億個のパッケージを供給するのみらなず、24,000人以上の従業員の安全、地域コミュニティへの貢献、そして地球環境の保護まで含んでいる。
日本では1962年の進出以来、60年以上にわたって事業を展開。日本の食文化や流通事情に合わせた技術開発を続けてきた。「日本は非常に成熟した高度な市場。お客様から多くを学び、共に成長してきました」とホウゴー氏は日本市場への敬意を示す。
テトラパックが掲げる理想の循環型社会-2050年バリューチェーンのネットゼロへ
日本テトラパックが描く「理想の循環型社会」は明確だ。「すべての紙容器が捨てられることなく、確実にリサイクルされる社会。そして、すべてのパッケージを再生可能にすることです」とホウゴー氏は力を込める。
同社の持続可能性への姿勢は、行動の中に表れている。「私たちは、より良い世界を目指すほぼすべての主要な協会や誓約に参加しています。Science Based Targets initiative(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)など、言葉だけでなくデータで証明することが求められる厳格な枠組みにも積極的に参加し、継続的な改善を実証しています」。目指す数値目標も明確だ。2030年までに自社事業における温室効果ガス排出量のネットゼロを達成し、2050年までにバリューチェーン全体でネットゼロを実現する計画である。
理想の循環型社会の実現に向けて、リサイクル推進に企業や業種の垣根を越えて取り組んでいる。日本では大手小売業をはじめ、回収・リサイクル事業者や大手製紙関連企業各社と連携し、2023年から2025年現在までに全国で約800カ所のアルミ付き紙容器の新規回収拠点を設置。回収された紙容器はティッシュペーパーやトイレットペーパー、段ボールなどへと生まれ変わっている。
持続可能な社会を支える、“常温で長期保存できる牛乳”という革新
循環型社会の実現に向けて、日本テトラパックが普及を進めているのが「ロングライフ牛乳」だ。超高温瞬間殺菌(UHT)によって栄養価と風味を保ちながら滅菌し、完全に無菌の環境下で滅菌された紙容器に充填される。
「この技術により、牛乳の長期間常温保存が可能になり、未開封の状態で約3〜4カ月の常温保存が可能です。冷蔵が必要なチルド牛乳の賞味期限は製造日から約7〜14日程度であり、ロングライフ牛乳は格段に長く保存できることが分かります」とホウゴー氏は説明する。環境負荷を減らし、さまざまな社会課題の解決につながる技術だ。
常温で長期保存が可能になることで、省エネルギーや物流の課題、さらには労働力不足の解決にもつながっている。
「日本の物流における2024年問題や高齢化による人手不足は深刻です。例えば、チルド牛乳は頻繁な配送が必要ですが、ロングライフ牛乳であれば配送頻度を大幅に削減できます。また、チルド流通には膨大なエネルギーが必要です。常温輸送であれば、エネルギー消費を削減できることはもちろん、CO₂を大きく削減することができます」とホウゴー氏は強調する。
さらに、常温で長期保存ができるという特性により、日常使いしながら、防災備蓄としての価値も高い。
「日本政府が重視する災害対策の観点でも、常温で長期保存できるロングライフ牛乳の意義は大きいです。台風や地震で物流が途絶えても、離島や遠隔地の学校、避難所などで、ローリングストックとして日常利用しながら備えることができます」。同社は2025年9月、新潟で開催された内閣府などが主催する防災推進国民大会(ぼうさいこくたい)への出展や、大手通販サイトと連携したローリングストックキャンペーンなどを通じ、日常使いと防災備蓄としての価値を広く訴求している。
紙パックメーカーを超えて――テトラパックが挑む持続可能な社会づくり
テトラパックが目指すのは、持続可能な形で社会課題の解決に貢献し、その取り組みをさらに深化させていくことだ。
「2050年には世界人口が100億人に達し、食料を60%増産する必要がある一方で、CO₂削減も求められています。私たちは、この矛盾する課題を、技術とパートナーシップの力で解決する手段を持っています」とホウゴー氏は語る。
ホウゴー氏が日本市場において“最も注力すべき領域”として挙げるのが、紙容器の回収とリサイクルだ。日本における紙容器全体のリサイクル率は22.8%(※1)にとどまり、とりわけロングライフ牛乳などに使用されるアルミ付き紙容器は、地域によっては回収拠点がまだ十分でないことなどから、わずか3.6%(※2)という低水準にある。
「回収とリサイクルこそ、持続可能な社会づくりの要です。私たちはバリューチェーン全体のハブとなり、顧客である飲料メーカー、小売、回収・リサイクル事業者、そして政府や自治体を結びつけながら、循環型社会の実現を加速させていきます」とホウゴー氏は力を込める。
そして最後に、次のように締めくくった。
「私たちの挑戦は、これまで培ってきた独自の技術を発展させ、食の安全を守り、人々の健康を支え、地球環境を保護することにあります。この挑戦を通して、日本の皆さまと共に、持続可能な社会を創造していきます」。
テトラパックの事業構想は、まさに循環型社会の実現へ向けた壮大な挑戦である。
【出典】
※1 全国牛乳容器環境協議会「2024年概要版 飲料用紙容器(紙パック)リサイクルの現状と動向に関する基本調査(2023年度リサイクルの実態)」(株式会社ダイナックス都市環境研究所)

ニルス・ホウゴー(Niels Hougaard)氏- 日本テトラパック株式会社 代表取締役社長
1996年にテトラパックへ入社。デンマークおよび北欧、スイス、アラビアなどの国と地域で、食品加工処理機器や新規ビジネス開発、営業、グローバル戦略構築などに携わる。そののち、テトラパックアラビアとテトラパックエクスポート社で代表取締役社長を務め、2024年10月1日より、現職。
日本テトラパック(株)ウェブサイト: https://www.tetrapak.com/ja-jp
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