国内だけでなく全世界へ 愛されるものがたりを届ける

1951年の創立から70年以上、一貫して映像製作を続けてきた東映。メディアが変わっても、常に魅力的な映像と物語を作り続けてきた。2023年2月、初めて今後10年の中長期ビジョン「TOEI NEW WAVE 2033」を発表した同社。グローバル展開を柱に、全世界で愛されるコンテンツの創造発信に力を入れる。

バーチャルプロダクションで撮影した「王様戦隊キングオージャー」(他社スタジオで撮影)

娯楽の変化とともに発展
最も大きな転換期は今

2021年に創業から70周年を迎えた東映。1951年、3つの映画会社が合併し誕生して以来、世の中の変化を捉え、新しいメディアに対応しながら、一貫して映像製作を継続してきた。1950年代の日本映画黄金期には時代劇などのシリーズ作品で人々に娯楽を提供。また1960年代という早い段階からテレビドラマの製作を開始しており、現在でも日本で有数のシェアを持つ製作会社となっている。1980年代後半からは、レンタルビデオ店の全国的な広がりに合わせ、新たなコンテンツとして、レンタル専用の映像コンテンツ「Vシネマ」を生み出した。

「メディアが変わるたびに、それに合わせたコンテンツを作り続け、現在に至っています」と同社社長の吉村文雄氏は振り返る。

吉村 文雄 東映 代表取締役社長

これまで同社グループが製作した映像作品は、劇場用映画が4,400作品以上、テレビ映画3万8,000話以上、配信映画も600話以上にのぼる。さらに、生み出した作品をIP(知的財産)ホルダーとして劇場から放送、配信、DVD/Blu-ray、商品化、ゲーム、イベント、舞台においてマルチユース(多用途活用)展開している。シネマコンプレックスを運営するグループ会社ティ・ジョイでの映画興行や、自社メディアによる配信、東映太秦映画村(京都)の運営など、エンターテインメントビジネス全般に事業を広げてきた。

「メディアに合わせ、あらゆるものを企画・製作し、提供できるのが、東映の一番の強みです」。

実写作品については、東京・練馬の大泉に東映東京撮影所、京都・太秦に東映京都撮影所という2つの撮影所を持ち、アニメは、東映アニメーションにて製作。東映デジタルセンター、東映ラボ・テックでポストプロダクション(撮影完了後の仕上げ作業)を行う。東京撮影所の中には映像研究機関としてツークン研究所も持ち、デジタルを活用した最先端映像技術の開発にも力を入れる。

吉村氏は、同社の70年を振り返り、大きなターニングポイントを3つ挙げた。1つ目はメディアとしてのテレビの台頭、2つ目は家庭用ビデオの普及、そして3つ目が配信プラットフォームの台頭だ。映像メディアの変化の影響を、東映は直接的に被ってきた。

「映画館に行かなくても映像が楽しめるようになったことと、一般の方々がお金を払って作品を所有できるようになったことは、それぞれの時代で起きた大きな転換でした。直近では配信という形で、個人のデバイスで場所・時間を選ばず、好きな作品を見ることができるようになりました。そういう意味では、今が最も大きな転換期だと感じています」。

面白ければ世界で愛される
「ものがたり」の質で勝負

2023年2月に発表した中長期ビジョンでは「To the World, To the Future─『ものがたり』で世界と未来を彩る会社へ─」をスローガンに掲げる。

「これまで主に国内に向けて作品製作を行ってきましたが、今後は全世界へ、愛される作品を届けたい。自社の映像作品を世界にもっと広めることを、ビジョンの頭に据えました」。

日本のアニメは世界中にファンが多く、グループ会社の東映アニメーションでは、売上構成比の6割を海外が占めている。実写作品も同様に海外展開していけるかどうかが、ビジョン達成の鍵を握る。

「Netflixのようなグローバルプラットフォーマーが出てきたことで、作品を全世界に一斉に届けることができる環境が整い、実写作品にも可能性が出てきたと思っています。作品のストーリーが突出して面白ければ、どの国であろうと、受け入れられ、楽しんで見てもらえると考えています」。

中長期ビジョンでは、企画製作力の強化として、毎年、国内興収30億円を目標とした大型作品2本の製作を目指す。実写作品では、10億円以上の興行収入があればヒットと言われるなか、30億円の興行収入を得られる作品をコンスタントに発表していくのは大きなチャレンジだ。IPビジネスの基軸となる映画をしっかりと製作・公開していくことで、その先にある、国内外でのマルチユース展開を促進する。

さらに海外については、2033年に連結決算における海外の売上比率を50%にすることを目指す。作品の企画段階から海外展開を視野に入れ、世界のプロダクションやクリエイターとも協業していく方針だ。国内で製作した作品のローカライズや海外オリジナル作品づくりも積極的に進める。そして実写・アニメともにグローバルコンテンツの創造発信基盤を確立していく。国内の若手育成を目的としたチャレンジ作品も支援し、海外映画祭へも積極的にアプローチする。

東映ツークン研究所がUnreal Engine5や自社開発したFCS(実写アクターの表情を映像解析してキャラクターの表情を作成するツール)などを活用して生み出したオリジナルキャラクター「Lisa」

撮影現場の働き方改革と環境整備
新しい映像手法の構築に力

10年後の2033年に、世界で愛されるコンテンツを数多く創造発信している姿を実現するには、そうしたコンテンツを企画・製作する人材がカギとなる。映画の撮影の現場では、長時間労働や低賃金、各種のハラスメントなどが昔から問題になっていた。若い才能をひきつけ、長く働いてもらうためには、時代にあわせたアップデート、労働環境の改善が必須だ。そこで業界では、2023年4月、第三者機関である日本映画制作適性化機構による「映適マーク」の使用が開始された。

「本編や予告、宣材映像に映適マークを表示し、適正な製作環境のもとで作られた映画であることを見える化することで、一定のルールの中で製作することが現場に根付いていけばと思います。将来的に『映倫マーク』のような、映画の上映に欠かせない制度になっていくことで、業界全体の風土改善が進むことを期待しています」。

今後は、東映東京撮影所、東映京都撮影所にも設備投資をし、老朽化したスタジオの再整備を進めていく。同時に、最先端技術として、ツークン研究所でのデジタルヒューマンやAI利用、東映東京撮影所におけるバーチャルプロダクションの実用化と活用に向け準備を進め、現場で使える新しい映像製作手法の構築に力を注ぐ。

2023年2月11日に62歳で急逝した手塚治元社長の遺志を引き継ぐ形で4月に社長に就任した吉村氏。

「中長期ビジョン『TOEI NEW WAVE 2033』は手塚元社長の指揮のもと皆で作り上げたビジョンです。ビジョンで謳っている『ものがたり』で世界と未来を彩る会社の具現化へ向け、確実に歩を進めていくのが、私の役割だと認識しています」と思いを語った。

 

吉村 文雄 (よしむら・ふみお)
東映株式会社 代表取締役社長