秋田県・鈴木健太知事 マーケティング視点の政策で秋田を変える

約10年間の県議会議員活動を経て、2025年4月に就任した鈴木健太知事は、関西出身で元自衛官という経歴を持つ。マーケティング手法を県庁に導入し、施策の精度を高めて地域課題の解決に挑んでいる。秋田が変化していることを内外に発信し、秋田を覆う雰囲気を刷新したいと意気込んでいる。

鈴木 健太(秋田県知事)

秋田を再び豊かな地に

――知事は「秋田刷新・新しい秋田を共に」をテーマに掲げられていますが、どのような秋田県を目指されているのでしょうか。

私が秋田に移住して20年目に入りました。関西出身の私が秋田に住んでみて感じるのは、秋田は歴史的にとても豊かな土地であるにもかかわらず、それを十分に活かし切っていないということです。率直に言えば、あまり儲かっていない。これは非常にもったいないことです。

たしかに人口減少などが全国最速で進んでいる状況ではありますが、秋田には良いところもたくさんあります。まずは、県民の皆さんが、秋田は本当はもっと素晴らしい県であるということを再認識し、自信を持って積極的にアピールしていく雰囲気を作りたいと考えています。

そのために、まずは県庁のトップとして、県庁内の考え方や仕事の仕方を、一つひとつ前向きに変えているところです。秋田県には食料生産と再生可能エネルギーという強みがあります。今まさに、我が国が直面している食料安全保障やエネルギー安全保障という一大命題に対して、本県の強みをもって貢献し、その経済的利益を地元が享受する。こうしたマインドを県内に醸成し、もう一度豊かな地域にしていきたいと考えています。

――知事は自衛官出身という経歴をお持ちですが、その経験をどのように県政に活かしたいとお考えですか。

自衛官出身の知事としては宮城県の村井嘉浩知事に次いで私が2人目だと思います。私は陸上自衛隊に所属していました。多くの人員を抱えた部隊で、18歳の新隊員もいれば、自分よりはるか年上の50代の部下もいました。

そういう中では、まずチームを1つにすることが重要です。みんなが気分よく働けるような組織をつくる経験は、現在かなり役立っていると思っています。部隊では、法改正などの難しい内容を隊員たちに理解してもらい、現場の働き方を変えていかねばなりません。そうした場合、大勢の隊員を前に、ただ大声で指示を出すだけでは、複雑な内容はわかってもらえませんので、みんなが得心して働き方を変えるための話し方が大変重要です。今となっては、あの時の経験が、県庁で、また県民の皆さんとお話するような場でも役に立っていると感じています。

また近年、本県では大雨被害などの災害が頻発していますが、自衛隊での災害支援の経験は非常に役立っています。災害支援では、まず現場の状況を実際にこの目で確認することが非常に重要です。確認した内容を念頭に置き、みんなで災害支援の議論を進めるスタイルは自衛隊時代に培ったものです。

マーケティング手法の導入で
人口増減率最下位脱出へ

――秋田の出生率は30年連続全国最下位で、人口減少率も日本一です。人口減少対策についてどのようにお考えですか。

人口減少問題に一撃必殺の妙手はありません。移住・定住の促進、婚姻率を上げる、有配偶出生率を上げるなど、ありとあらゆる手を打ち、ようやく少し成果が出る。人口減少問題はそういう総合的なテーマです。

私は約10年間の県議会議員時代、人口減少問題にも危機感を持って取り組んできました。そして思ったのは、移住促進や結婚支援、子育て支援というどの県でもやっている取組を本県も同じようにしているのに、秋田県だけが一人負けしているのはおかしい。一つひとつの施策の歩留まりをもっと上げられるはずだということです。

UIJターンのフェアを企画しても、なかなか動員数が伸びないのは、㏚しているようで、実はそれがターゲットに届いていないからかもしれない。もしそうであるなら、取組のメニューを変えるのではなく、その一つひとつを手直しして精度を高めていき、成果につなげていく必要があります。こうしたことを全方面でやっていきたいと思っています。

今回、県庁内にマーケティング戦略室を設けたのはまさにこのためです。施策や事業のターゲットにしっかり焦点を当てる。本当にこの㏚でターゲットに届くのか、このチラシを見て面白そうだなと思って来てくれるのか、そういう厳しい視点を県庁内に持ち込みたいと思い、この7月にマーケティング戦略室を設置しました。

秋田県だけが断トツで人口増減率最下位であるという状況は、マーケティング視点を導入し、県庁の仕事の仕方を変えることで改善できると思っています。ドラスティックにV字回復とまでいかなくても、少なくとも地方圏の中の普通くらいまでにはならないと絶対におかしいと思っています。

再エネで地元を豊かに
第一歩は再エネ工業団地

――秋田県は再生可能エネルギーが豊富ですが、今後のエネルギー政策やカーボンニュートラルへの取り組み方針についてお聞かせください。

日本を俯瞰するような大きな視点で申し上げれば、風力発電は我が国に必要だと思っています。風車の調達も含め、事業環境は厳しくなっていますが、昨今言われているエネルギーの安定供給や脱炭素の課題を、資源のない日本が克服する手段の筆頭が風力発電だと考えています。

秋田県は風況が非常に良く、風力発電の適地とされています。風力発電は国策として進めていただかなければなりませんが、その時に、ただ土地を提供するのではなく、そこからしっかりと利益を得ていかないといけません。風力だけでなく、地熱、水力など、地域のエネルギーから生まれる利益をどれだけこの地に還元していくかが重要であると思っています。

能代港に設置された洋上風力発電の風車
画像提供:秋田洋上風力発電株式会社

実際には、県民生活のエネルギーとして地域で活用するという面でも、産業として利益をあげるという面でも、まだまだです。再生可能エネルギーの電力は普通の電力よりも料金が高いのが現状です。それをどのようにして県民生活に還元していくのか。それが、これからの課題です。

まずは、脱炭素への要請が強い産業に使っていただくために、今、再生可能エネルギー電力を活用した工業団地(再エネ工業団地)を造成しています。本県の豊かな再生可能エネルギーをアピールして企業誘致を進め、秋田の特色を生かした電力供給事業の実現を目指したいと思っています。

カーボンニュートラルに関しては、今まで考えられなかった収入源が、農地や山林から生まれています。その1つが森林整備によるCO2吸収量をJ-クレジット化して販売する取組です。また、水田の中干し期間を延長することで削減できるメタン排出量がクレジットとして認証されるようになりました。まだ莫大な金額ではありませんが、少しずつ価格は上がりつつあります。

秋田の強みを生かす産業振興を

――産業振興では、今後どのような産業を強化したいとお考えでしょうか。

宇宙産業や医療機器、自動車など、これまでさまざまな産業支援を実施してきました。今はトヨタ系列の製造拠点が東北にできつつあります。そこに近い秋田県南地域では、そのサプライチェーンの一角をなすような製造業の誘致に引き続きしっかりと取り組んでいきます。しかしその一方で、地の利の面から不利な産業を強化するのは大変だと考えています。

今後強化していきたいのは、秋田の強みである再生可能エネルギー関連産業と、農業やこれに関連する産業です。再生可能エネルギー関連産業については、風力発電が盛んな沿岸地域はもとより、県内全域でしっかりと育てていきたいです。

一方、本県は4年連続で大雨災害に見舞われています。今年はそれに加えて渇水も起こりました。農業はこうした気候変動への対応が必須となっています。今一番求められているのは、高温耐性を持つ品種への改良をしっかり進めることです。逆に、気候変動によってこれまで秋田で栽培できなかった作物が栽培できるようになるというケースも出ています。本県では栽培が難しいと言われていた柑橘類への挑戦がすでに始まっています。園芸作物の栽培時期なども少しずつ変わってきているようです。こうした変化を目ざとくキャッチして、狙う市場などを考えていかなければならないと思っています。

また、食品加工業の振興を含め、農業の6次産業化にも注力していきたいと考えています。地域だけで楽しまれてきた加工品を商品化するなど、地域に眠る価値を見出して広く知ってもらえるようにしたいです。そのためには、しっかりと商品化し、販路を確立していく必要があります。

農産物の輸出に関しても同様のことが言えます。本県は農業県のイメージが強いわりに農産物の輸出量は多くなく、現時点では米、牛肉、りんごが中心です。農産物は国内価格が上昇していますので、廉価な輸出市場にチャレンジしてもらうためのモチベーションの醸成という高いハードルがあります。

また、輸出促進は生産者だけで行うのは大変だということで、今年、農畜産物輸出促進協議会を立ち上げました。現在、重点輸出先国を絞りながら、目標を立てて取り組みを進めています。

難しい課題は山ほどありますが、それを超えていけるのがマーケティングであると思っています。こうしたことも含めてマーケティング戦略室を中心にマーケティングマインドを醸成し、県庁から現場へ出て行き、課題を解決するような仕事を増やしていきたいです。

2025年8月には知事就任後初の海外トップセールスで台湾へ。秋田の特産品をPRした

ベンチャーのテストベッド
秋田から全国展開へ

――ベンチャーやスタートアップ支援についてはどのようにお考えですか。

これまで秋田県はスタートアップが少ない県でした。本県では昨年から、スタートアップと県内外の官民支援者とのパートナー形成を促し、スタートアップの創出・成長をサポートする取組「AKISTA」を実施しています。

今、AKISTAはまだまだ数の少ない地元の若者のチャレンジを育てるだけでなく、全国レベルで活躍しているスタートアップの皆さんと、本県の山積する課題を持つ地域をマッチングして、そこからビジネスを育ててもらうという手法を行っています。

秋田県はスタートアップに適していると思います。適度の規模感で課題にも事欠きません。今は社会課題に立ち向かうスタートアップが増えています。そういう皆さんに、まず秋田でチャレンジしてもらいたい。秋田が全国のスタートアップのテストベッドになれるように誘致を進めていきたいです。秋田で成功できれば、きっと全国でも成功できるはずです。

秋田県が運営するスタートアップ支援の取組「AKISTA」では、県内外の官民支援者とともにスタートアップの創出・成長をサポートする

マーケティングの活躍の場
最も伸びしろのある観光業

――秋田県の観光の現状と、今後の観光振興戦略のポイントについてお聞かせください。

観光業は、秋田県で一番伸びしろのある分野だと思っています。秋田に訪れた人はみんな、観光資源がたくさんあってすごくいいと言ってくださいます。ただ、今はそれがきちっとマネタイズされていません。今、日本各地がインバウンドで活況を呈していますが、秋田県は一人負けしているという認識です。秋田空港には台湾との直行便があり、搭乗率も非常に高いです。しかし、秋田空港に降り立った観光客はすぐに隣県に移動して、秋田県内をあまり周遊していません。

東北はエリア観光です。仙台や青森を訪れた観光客を秋田に誘導し宿泊してもらい、フルで秋田を楽しんでもらう。そういう流れを強化していかねばなりません。これこそまさにマーケティングが活躍できる分野です。秋田をもっと楽しんでもらうための努力と、さらなる搭乗率のアップによって、台湾との直行便の増便も目指したいです。

 

 

鈴木 健太(すずき・けんた)
秋田県知事