東京ドーム 地域と連携し、世界一のエンターテインメントシティへ
1937年に「後楽園スタジアム」という1つの野球場から始まった株式会社東京ドーム。時代の要請に合わせながら幅広いレジャー・エンターテインメント領域に事業を拡大し、都内最大級のエンターテインメントシティをつくり上げた。その事業変革と現在の成長戦略を、代表の長岡勤氏に聞いた。
長岡 勤(株式会社東京ドーム 代表取締役社長 COO)
「街」としての一体感醸成へ
ランドスケープデザインを刷新
東京・水道橋の「東京ドームシティ」が現在、大規模リニューアルの真っ最中だ。東京ドームシティは、読売巨人軍の本拠地である「東京ドーム」を筆頭に、格闘技の聖地ともいわれる「後楽園ホール」、元々は「後楽園ゆうえんち」として始まった「東京ドームシティ アトラクションズ」、スパやショッピングを中心とした融合商業施設「LaQua(ラクーア)」など、多様な施設からなる都内最大級のエンターテインメントシティだ。現在進行中のリニューアルでは、シティ全体のランドスケープデザインの刷新により、いっそう賑わいのある憩いの空間の創出を目指し、2024年夏までを目処に連続性のある開発を順次実施している。

東京ドームシティの全景
「リニューアルのコンセプトは『心が動く、心に残る。』です。来場者の非日常感の醸成や期待感の高揚、滞在快適性と回遊性向上を図ることで、『街』としての一体感を醸成し、魅力的な空間を創出するのが狙いです。東京ドームを中心に最寄りのJR・地下鉄の各駅に向け、放射線上に多数のLEDビジョンを増設します。また、長さ100メートル以上のデジタルサイネージに囲まれた芝生広場を設け、自然とデジタルが融合したユニークな空間として、訪れる人に様々な体験価値を提供します」と代表の長岡勤氏は語る。
こうした一連のリニューアルの最終目標について、長岡氏は「地域と連携しながら、世界一のエンターテインメントシティを実現する」と意気込む。例えば、2023年5月に開業20周年を迎えたLaQuaでは、新たにプライベートサウナやフードゾーンを新設するなど、過去最大規模のリニューアルが行われた。東京ドームホテルでも、開業以来初の大幅な改装を経て、「大人の隠れ家」をイメージした新コンセプトのフロアが生まれた。
「この秋には、次世代型の『サッカー文化創造拠点』となる複合施設も開業します。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター長である落合陽一氏の参画のもと、体験型コンテンツ・デジタル展示やサッカー関連イベントを開催し、サッカーの未来を感じられる空間設計を目指します」
さらに2024年1月には、吉本興業グループとの共同事業による、演劇と演芸の新たな拠点となる「新劇場」を開業する予定だ。ほかにも、新規開業・リニューアルについて引き続き計画を進めているという。

左上/2022年3月に完了した東京ドームのリニューアル工事では、国内最大級のメインビジョンを新設した 右上/2023年4月、LaQuaに開業した個室サウナ「Rentola」 左下/今秋開業のサッカー文化創造拠点(イメージ) ⒸJFA 右下/新規事業社内提案制度「mokuMOKU」に参加する社員たち
たった1つの野球場から始まり
非日常から日常を楽しむ空間に
同社の歴史を振り返ると、日本初の全天候型多目的スタジアム「東京ドーム」の前身である「後楽園スタジアム」のオープンは、1937年。日本のプロ野球が本格的に始まった1936年、東京都心部に野球専用の新球場を建設する計画が持ち上がり、株式会社後楽園スタヂアムが設立され、翌年に野球場がオープンした。戦後、人々の目がレジャーに向くようになると、野球以外にも後楽園競輪場、後楽園ゆうえんち、後楽園ボウリング会館など、レジャー・エンターテインメント施設の多角的な運営を進めてきた。
「そのなかで大きなターニングポイントとなったのは、やはり1988年の東京ドーム開場でした。屋根のない後楽園スタジアムは、なんと言っても天候に左右されるのが最大のネックです。全天候型のスタジアムの建設は、当時の保坂誠社長の悲願でした。これにより、経営的にプラスになったのはもちろん、全社員が誇りに感じ、業務へのモチベーションが高まるなど、あらゆる点で大きなインパクトがありました」
次のターニングポイントは、2003年のLaQua開業だ。
「東京ドームは野球やコンサートのある日は大勢のお客さまに来ていただけますが、何もイベントがないとガランとしてしまうこともある。ところがLaQuaであれば、日常的に来ていただくことができます。イベント観戦という非日常を楽しむだけでなく、日常空間として利用いただけるようになったのは大きな変化でした」
強靭なビジネスモデルへの進化を目指し、
DXや新規事業開発に注力
その後も順調に事業の多角経営を進めてきたが、レジャー・エンターテインメント業界の他の企業と同様、コロナ禍では大きな苦境に立たされた。そうしたなか同社では、2020年9月に社内システム管理部署をデジタル戦略部に改編し、同年マーケティング戦略部を新設、両部が連携してDXを推進しているところだ。
「コロナ禍が一段落したとはいえ、客足が完全に戻っているわけではありませんし、コロナ前に戻るとは限りません。今後どんな状況にも耐えうる強靭なビジネスモデルを生み出すためにも、DXをはじめ、常に新しいチャレンジを続けなければなりません」
同社は事業変革の一環として、全社的に社員から新たな事業アイデアを募るため、「mokuMOKU(モクモク)」と呼ばれる新規事業社内提案制度を2020年にスタートした。類似の取り組みは以前にもあったが、提案増加に向けたワークショップやブレスト、トレーニングの機会などを増やし、提案が新規事業創出までつながるよう制度設計を見直した。2021年秋には初の社内ビジネスコンテスト「mokuMOKU AWARD」を開催し、現在は第3回AWARDの募集中だという。
こうした社内変革に取り組む一方、「街としての一体感を醸成する現在の大規模リニューアルは、従来以上に大きなターニングポイントになる」と長岡氏は語る。
「東京ドームシティの最大の強みは、東京のど真ん中にあり、しかもJR水道橋、地下鉄水道橋、後楽園、春日と4駅に隣接する交通至便な立地にあります。この強みを最大限に生かすには、地域との連携も欠かせません。東京ドームシティ內部だけに来場者を囲い込むのではなく、今後は本郷や小石川といった近隣地域とさらに協力し合いながら、互いに成長できる街づくりを目指していきたいです」
- 長岡 勤(ながおか・つとむ)
- 株式会社東京ドーム 代表取締役社長 COO