人口減少下のまちづくり ワット・ビット連携で生産性を上げる

まちづくりには水道やガス、電気などのインフラが欠かせない。それに加え、現在はデータ活用をすることで、さらに住みやすい街にすることが求められている。人口減少が加速的に進む日本において、まちづくりのアップデートが不可欠のなかで、どのような変化が求められているのか。

岡本 浩
東京電力パワーグリッド株式会社 取締役 副社長執行役員 最高技術責任者

岡本浩氏は東京電力パワーグリッドの取締役 副社長執行役員 最高技術責任者であり、電力(ワット)と情報通信(ビット)を連携させる「ワット・ビット連携」の提唱者として知られている。学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学客員教授である田中克徳が、その連携によるまちづくりの可能性と、日本の未来戦略について聞いた。

ワット・ビット連携により
まちづくりをアップデート

田中 岡本さんと言えば「ワット・ビット連携」の提唱者で、これはまちづくりにも直結する構想ですよね。まずはその概要からお聞かせください。

岡本 ワットとビットを分けるのではなく融合することが重要と考えています。ベースになる構想は約8年前に考えたもので、人口減少が進む日本がインフラやエネルギーを維持するうえで電気・水道・通信・ガスと個別に分けて取り組むことは難しく、それぞれの事業者が連携する必要性を感じました。

昨今、データセンターの需要が急速に伸びているなかで、当社がもつ変電所をはじめ簡単につくれないワット設備の余力のある個所の近くにデータセンターというビット設備を誘致していくことで、当社は投資額やリードタイムが減り、顧客にもメリットが生まれます。それがステップ1のワット・ビット連携です。

田中 連携はそこで終わらず、さらに先のステップもあるわけですね。

岡本 ステップ2はデータセンターの分散化です。非常に巨大なデータセンターを小さくして、街中に分散させて多様なデータセンターの群をつくると、例えばある地域で余っている電気を有効活用することができます。さらにステップ3では、街中の分散化されたデータセンターと都市OSやエリアOSとが連携することで、データを活用して町の中のオペレーションを最適化することが可能になります。最終段階であるステップ4では全てを組み合わせ、人口減少下で必須となるフィジカルAIをその基盤のもとに動かし、生産性を上げることを狙います。

「分散」を実現するためには
「地産地消」がポイントになる

田中 「分散」という話が出ましたが、現在は日本全体の世論として、まだ行き渡ってません。どうしたらそれが実現できるのでしょうか。

岡本 必要なコンセプトは「地産地消」だと思います。その土地にあるエネルギーをうまく使って、コンピューティングやAIに活用し、さらに副産物として出てくる熱もその地域で使えば効率的です。また、自動運転などフィジカルAIが発展すると、遅延の少ない処理が必要になり、できるだけ近い場所で演算処理を行い、情報を戻すことが求められます。エネルギーと情報の地産地消が求められると考えています。

田中 これは「日本モデル」ですよね。そこを応援する政策やアプローチがもっと必要になると感じています。

岡本 データ管理や運用の主導権(ソブリン性)を自分たちが持つことを重視しており、要はその主権は誰にあるのかが気になります。アメリカにはクラウド法があり、何かあれば日本のデータも全てアメリカに引き上げられる可能性があります。我々もインフラの自動化を進めようと考えていますが、米国クラウド法の網がかかるインフラの上では難しい。主導権のあるクラウドで、データ主権や運用主権が日本国内にあるということが我々のような事業者から見るとありがたいと思います。もちろん、ハイパースケーラーとも協調してやっていくわけですが、パブリックなクラウドだけではなく、国内に主導権があるクラウドやプライベートなクラウドのニーズは他社でも高まっていくと思います。

田中 分散の一例としては、九州大学と糸島市が共同でワット・ビット連携を進めているものがありますね。

岡本 当社として直接的な関わりがあるわけではありませんが連携はしていて、我々のエリアでも同様のモデルの実施を検討しています。あのモデルが面白いのは、地域住民の要望や主体的取り組みが第一にあり、外からの押し付けではないことです。それに補助金も使っていません。九州大学のキャンパスが隣にあるので、興味のある学生も参加して、スタートアップをつくるという可能性もあります。そういうエコシステムも実現するかもしれません。

田中 それを実現するためには人材も重要ですよね。御社は「事業創造型の人材を育成する」と明示されています。

岡本 当社は一大オペレーション会社で、決まったことを真面目に誠実にやり抜くことに喜びを感じる社員が多数います。そのなかで事業創造型の人材をどう育成していくかを考えています。その1つは、お客さまや自治体に出向き、話や課題を聞き、あるいは我々が地域の課題を見つけてソリューションを提案していけるようになることを事業活動の目標としています。

もう1つは、自分たちの会社に閉じず、出島と言えるような会社をもつことです。例えばエナジーゲートウェイは、スタートアップなどとの共創により、電力データを使って認知症の予兆を検知できる技術などを開発しています。当社には新しいことをやりたい人材も多数いるので、そういうことも組み合わせて人材育成に繋げています。

日本の高品質なオペレーションが
大きな未来のチャンスに

田中 どの地域でも活性化に注力している企業や人材はたくさんいます。持続可能な事業体としての循環をつくっていくためには、交通やエネルギー、医療など、その地域を支える本丸に対して取り組み、生産性を上げたり、付加価値をつけたりすることが近道ですよね。そこでは御社のように全体を見渡している企業がお題を出して、それに対して意欲のある民間企業や人材が取り組む形がいいと思います。

岡本 ぜひそういうことを我々もやりたいと思っています。我々と地域やお客さまの課題は、人が減る、平均年齢が上がると共通しているんですね。だから解決のためには枠を外して考えた方がよくて、1人が1個のことしかやらなければ多数の人材が必要ですが、人が減っていくなかでは地域にいる人が複数できた方がいいと思います。

田中 地域活性化の取り組みはこれからを担う若い世代の方にとってやりがいのある仕事ですよね。最後に、未来に向けたメッセージをお願いします。

岡本 地域課題が多数あるなかで、当社は地域に根差した会社なので共に課題解決しやすいという利点があります。そこにさまざまな方々とパートナーシップを組むことで、もっと地域のお役に立てると考えています。

もう1つは、日本の強みを活かしていくことが重要ということです。強みの1つはオペレーションで、電車が定刻通りに運行される国は少ないなか、日本は非常に高品質です。これからフィジカルAIが先行している米中からさらに入ってきますが、フィジカルAIは実際に物を動かすため、安全性には十分な配慮が必要です。そこに日本の高品質のオペレーションという強みを活かすべきで、日本のチャンスもあると考えています。

対談を終えて(田中克徳客員教授)
AIの影響が日々語られる一方、基盤となる電力不足への認識は未だ十分ではない。地域活性化には、独自性と資金を循環させる事業規模の両立が不可欠だ。岡本さんの構想は単なる不足対応を超え、インフラ革新を地域創生の力へと昇華させている。まもなくAIを使いこなすα世代が社会の主役となる中、この挑戦は真の地方創生を導く鍵となろう。「エネルギーと情報の地産地消×街づくり」という“日本モデル”の重要性について是非注目をお願いしたい。

 

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