2017年10月号

環境会議

「風のがっこう」で育む 次世代環境リーダーの資質

ケンジ・ステファン・スズキ(環境活動家・「風のがっこう」創設者)

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日本人向け再生可能エネルギー導入への研修施設として運営を開始し、デンマークの歴史文化、福祉、環境政策を踏まえた幅広い研修を行い、ユニークな環境教育を展開してきた「風のがっこう」。地球環境の未来を構想できる人材をつくるには、どのような教育が望ましいのだろうか。そのヒントは意外にも、仲間との「遊び」の中にあるという。そこで生まれた才能や能力を伸ばし、社会課題を捉えて思考し改善と実行に移せる人材が育つと期待されている。20年にわたる歩みをひもときつつ、次世代リーダーの資質を聞いた。

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ケンジ・ステファン・スズキ(環境活動家・「風のがっこう」創設者)

「風のがっこう」と環境教育活動

私がデンマークに「風のがっこう」を創立したのは1997年6月です。同年12月には京都で第3回気候変動枠組条約締約国際会議、通称COP3が開催された年です。「風のがっこう」は、日本人向け再生可能エネルギー導入への研修施設として運営を開始しましたが、デンマークの環境・エネルギー政策の歴史、福祉、さらに地球温暖化防止を通した持続可能社会を構築しているデンマークの国民教育など幅広い内容で研修を行い、人間を含めた動植物が生存するうえで最も大事な、水と大気(空気)を汚染から守り、食糧とエネルギーの確保を主題としています。

デンマークは1970年代のオイルショックの教訓を活かし、持続可能な社会に向けた施策として風力、バイオマスの利用、住宅など建物の省エネ対策に力を入れ、その結果、140ページの図1の通り、二酸化炭素の削減につなげています。

デンマークの低炭素社会の背景にある「緑の旗」の運動は、デンマークの環境教育の目標で謳った「環境教育は生態系における人間社会の問題として捉え、環境破壊、資源の分配と利用、人口増加、動植物の根絶問題に対し、熟知した行動力のある市民の教育を目標とする」の「行動力」を具体化したものです。

緑の旗とは何か

1992年リオデジャネイロ会議で提案されたアジェンダ21を契機に、デンマークで1994年9月21日、環境に負担をかけない学校作りのキャンペーンが始まりました。生徒が環境とその保全問題に自ら取り組むことで、「自然との触れ合いによる喜びと自然を守る知恵を身につけることができる」と目標を掲げています。この運動の成果を表彰して配布される旗が「緑の旗」です。「緑の旗」運動の先頭を切ったのがデンマークの学校です。その後イギリス、オランダ、フランス、スペイン等各国に広がり、エコ・スクールの加盟国は主に欧州諸国で32カ国あり欧州諸国以外では南アフリカが加盟しています。2004年の数値で見るとエコ・スクールとして登録されている学校数は約12000校で、その中で、環境保全認可校のシンボルとして「緑の旗」を取得した学校数は約4000校に達していました。2016年現在、デンマークで「緑の旗」を取得した学校の累積は427校に達しています(2004年時点では188校であった)。

エコ・スクール参加加盟国では、共通の目的・目標を守るため、国際規定を適用し、その条件をクリアした場合において「緑の旗」が配布される仕組みになっています。エコ・スクール加盟国は欧州連合における環境教育プロジェクトに加盟し、学校における緑の旗運動を推進し認可する機関はデンマークの場合は野外活動審議会〔Friluftrådet〕(仮訳)となっています。この環境教育プロジェクトは環境教員組合や環境教育協会(Foundation for Environmental Education)と連携し、「地域での行動」に入るために必要な共通のルールは次の通りです。

国際基準の中で重視される点は、環境委員会の設立です。その役割は学校内における代表者の選任確認、生徒が選択したテーマとその行動計画が守られているかを確認し、環境行動計画と他の科目との関連性についても確認することです。そのためには環境委員会でこの活動の目的や実行にむけた行動を明確にするために規約を作る必要があります。

作業の進展状態を見るために、プロジェクトの環境行動計画は、大事なツールです。この環境行動計画を通し、その学校における将来の環境活動への方向性が見えるためです。行動計画の中で取り上げることは、環境活動のテーマの選択をし、それがどのような内容の活動になっているか、授業との関係はどうなっているか、どのような行動をいつから始め、初年度の活動は何か、2年目3年目では何をやるのか、など具体的な行動を表すものです。

3)環境規則の作成 

毎年テーマに合わせ生徒が環境保全に向けて自分たちは何をするのか発表しますが、これは学校での新たな規則として使われるため、大変重要な文書となります。生徒や学校に通う人たちは学校の環境や自宅の環境を守るために自分たちは何をしたら良いのかについて書いています。そのためには当然実現可能な条件をつけることに注意する必要があります。またこれは選択したテーマの活動評価にも使われます。

4)学生(小中高の生徒)の参加率

全校生徒の少なくとも15%が、このプロジェクトに参加し、活動に加わる必要があります。

5)テーマ選択と行動計画の作成

「環境保全」をめざす学校の生徒たちは、「水、エネルギー、廃棄物そして自然」からなる4つのテーマの中から毎年一つのテーマを選び出し、行動計画を作り活動に移して行きますが、そのテーマ毎で満たす条件が違ってきます。例えば水やエネルギーのテーマを選んだ場合、学校で消費する水やエネルギー量を以前に比べ最低10%削減することが条件になっています。廃棄物のテーマでは、廃棄物の絶対量を減らす必要が無く、廃棄物の利用に関しては、今まで焼却していた廃棄物をリサイクルに回すことでこの条件をクリアーすることが出来ます。自然をテーマに選んだ場合は、学校の置かれた状況に合わせ、学校と自然の共生について企画や計画を立案し、それをどのように生かしていくのか、行動の成果を実証することでその条件を満たすことが出来るようになっています。つまり、「緑の旗」運動の目標や満たさなければならない条件は選び出したテーマによって異なってくるということです。既に触れましたがテーマの選択権やどのテーマを最初に取り上げるかの順序は学校に任されています。ただ、活動開始前に、選び出したテーマとそのテーマに関する行動計画書を揃え、野外審議会に申請し認可を受ける必要があります。

「水、エネルギー、廃棄物、自然」の4つのテーマの内から何を選択し、どの順序で取り上げるか、選択権は参加校に任されています。この内、最低3つのテーマをクリアした学校はさらに進み「環境監査」活動への選択権を取得できます。テーマ別にとるべき行動について見ますと、まず選び出したテーマの実態について調べ、その後で節減や削減方法について考え、あるいは改善方法を考え、それが、可能かどうか実践工作をします。そして、実践で得た成果を両親、供給会社、及び報道機関に伝えることで、児童の「地域活動」を「国レベル」の環境保全活動に繋げていく、そしてその活動の成果を、参加加盟国の国際部門を通し、「地球レベル」の環境保全の活動を広げていく。つまり、生徒が行った環境保全対策は「地域活動」から「国および、地球レベル」の環境保全問題につなげていくということです。この生徒たちの「地域活動」を通した「地球を考える」活動への成果を表彰し、そのシンボルとなっているのが「緑の旗」です。

緑の旗(Grøn flag) 出典:デンマークエネルギー省

図1 デンマークの実質二酸化炭素排出量の推移

(出典)デンマークエネルギー省

© Alexandre Zveiger / 123RF.COM

次世代社会をリードする資質

デンマークでは10歳まで(小学校4年ぐらいまでの年齢)学童はたくさん遊ばせることに重点を置いた育児をし、小中学校の生徒は7週間の夏休みを含め休みの期間、宿題やクラブ活動は一切ありません(もともとデンマークの学校には日本の学校のようなクラブ活動はない)。

デンマークは元来、遊びの中で育った子どもたちによって、世界で最も幸せな国民と言われる国家が作られています。そのことを考えると、社会をリードする人たちに必要な資質は、仲間との遊びの中でもって生まれた才能や能力を育て、それを基に、国や社会のあるべき姿、それを改善・修正するためには何が必要か、思考し実行に移せる人たちではないかと考えます。

日本人には諸外国の環境政策や環境保護運動を理解したとしても、実行に移せないことが多いように思えます。この背景に、国民生活において何が必要かその必要な物を確保するためには、国家や国民はどうあるべきかを語るための議論がないためだと思います。そして議論を尽くしたうえでの、国民の意向に沿った国のエネルギー政策が必要だと考えますが、その点で不十分さを感じています。

例えば、二酸化炭素の削減を進める国民的な合意が不十分です。住宅の省エネが語られるなか、なぜ、熱の伝道率が高いアルミサッシを窓やドアー枠に使うのか、なぜ動力としては不十分な100ボルトの電圧の電力を供給し続けるのか。森林資源を守ることを語る一方で、間伐材が無駄にされ、毎年億単位の部数の教科書が印刷されているのか。教育現場と現実の社会との間に実行されない大きな隔たりが見えます。

デンマーク人が世界で最も幸せな国民だと言われている背景には、国民の多くが国民生活に欠かせない「水と空気」を汚染から守り、食糧とエネルギーの確保に努めているためだと見ています。世論調査によると電力供給の手段として風車を進めるべきだという意見が8割にも達していると言われています。

その国民の意向に沿った国のエネルギー政策もあり、2016年6月から2017年5月までの1年間におけるデンマークの風力発電量は136億kWhでこれは電力消費量約338億kWhの約40%に当たると発表されています。このことも含め、デンマークの国民は公害ゼロ、燃料ゼロでの電力を使い、世界の中でも最も少ない労働時間にもかかわらず豊かに暮らし、生活保護者の子どもたちでも大学教育を受けられる国家を築いています。

よって、日本がやるべきことは、子供たちへの詰め込みや朝から晩までの教育を止め、遊ばせ、退屈させる育児に切り替えることだと思います。逆説的ですが、退屈させることで、「何をしたら良いか」物事を深く考える子どもに育っていく、と私は考えているためです。

© atosan / 123RF.COM

ケンジ・ステファン・スズキ(Kenji Stefan Suzuki)
環境活動家・「風のがっこう」創設者

 

『環境会議2017年秋号』

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 環境と事業の共生 SDGsに根ざす経営
根本かおる(国連広報センター 所長)、玉木林太郎(経済協力開発機構[OECD] 前事務次長) 他
特集2 環境教育で次世代リーダーをつくる
望月要子(ユネスコ)、寶 馨(京都大学大学院総合生存学館[思修館] 学館長) 他

(発売日:9月5日)

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