AIの活用で社会を革新 創造性溢れる事業を推進

人工知能(AI)を活用したビジネス・ソリューションを提供するシナモンAIは、「日常的に発生する無駄な業務をなくし、人が創造性溢れる仕事に集中できる世界」の実現を目指し、数多くの企業に向けてプロダクトとコンサルティングを展開する。AIを人間の仕事と共栄させる活動は、人口減少や人手不足が深刻な日本において、最も速く進む可能性がある。AIの活用によって生産性を向上させ、労働時間を短縮できれば、人々が家族との時間をより大切にし、趣味を楽しめる時代も訪れるかもしれない。

世界の人々の生活を
変える企業を目指す

AIに関する高度なビジネス・ソリューションの開発に取り組む株式会社シナモン(通称、シナモンAI)は、2016年10月に設立された。AIコンサルティング事業とAIプロダクト事業を通じ、「日常的に発生する無駄な業務をなくし、人が創造性溢れる仕事に集中できる世界」を目指す。

代表取締役CEOの平野未来氏は、東京大学大学院工学系研究科在学中の2006年に、モバイル向けソーシャルアプリ開発のベンチャーを起業した。このベンチャーは2011年にミクシィへ売却し、翌年にはシンガポールで新たなベンチャーを創業、さらに2016年にはシナモンAIを設立した。

「大学・大学院時代の研究分野は、『複雑ネットワーク』でした。これは、世界に存在する巨大で複雑なネットワークの性質について研究する学問です。グーグルの創業者は複雑ネットワークを使い、検索のアルゴリズムを開発しました。私も当時から、グーグルのように『世界の人々の生活を変える企業を創りたい』と考えていました」(平野氏)

平野 未来(シナモンAI 代表取締役CEO)

 

季刊 人間会議

非構造化データを
理解できるAIを開発

シナモンAIの2つの事業のうち、AIプロダクト事業では、AI─OCR(光学的文字認識)の「Flax Scanner(フラックス・スキャナー)」や、特化型音声認識技術の「Rossa Voice(ロッサ・ボイス)」などの製品を開発、販売している。

 

フラックス・スキャナーは、フォーマットが統一されていない「非定型帳票」にも対応した最先端のAI─OCRだ。例えば、請求書のように取引先ごとにレイアウトが異なる帳票でも、各項目の特徴をAIに学習させて自動読取できる。また、自然言語処理技術の応用機能で契約書の重要論点を抽出したり、帳票を分類したりすることも可能だ。

ロッサ・ボイスは音声データの音声を認識して文字を起こし、議事録作成などに活用する製品だ。その際、録音環境や分野ごとに異なる専門用語、文脈をチューニングすることで精度の高い音声認識が実現される。また、自然言語処理技術を組み合わせ、情報の抽出や要約、分析なども可能にしている。さらに社内システムと連携させて、業務の生産性を本質的に向上させることができる。

「私たちは、非構造化データを理解できるAIの開発を行っています。現在、多くの企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組んでいますが、なかなか進まないのが実状です。私はその主な原因が、非構造化データにあると考えています。企業に存在するデータのうち、約8割は非構造化データだといわれます」(平野氏)

非構造化データは特定の構造を持たないデータを指し、メールや画像、音声、パワーポイントやワードのファイルなどの情報がこれに含まれる。一方、構造化データはデータベースに入り意味が付加された情報で、例えば、売上やユーザー名などの情報がこれに含まれる。

「構造化データは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を使って自動化することもできますが、非構造化データは、現状では人間が取り扱う必要があります。私たちは、この非構造化データの自動化を進めていきます」(平野氏)

シナモンAIには現在、3つの独自の研究領域がある。第1の領域は「Digitize(デジタル化)」で、ここでは紙や音声に含まれる情報をデジタル化していく。第2の領域は「Structure(構造化)」で、ここには画像を見た際にオブジェクトを認識する技術や、自然言語文から特定の情報を抽出する技術が含まれる。

第3の領域は、「Understand(理解・活用)」で、アクショナブルなインサイトを人に提供する。例えば、金融機関で、ある取引を不正取引と検知する、営業担当者に対し、次にどのようなアクションを取るべきかのレコメンドが含まれる。

シナモンAIではこれら3つの研究領域に基づき、数多くの高度なAIアルゴリズムを保有している。それらを活用して、各業界に特有の非構造化データを活用したビジネスAIソリューションに取り組む。現在の主な取引先は、金融業界や製造業の大企業となっている。

AIを企業間競争の
ドライビング・フォースに

昨年2月に公表された日本経済団体連合会(経団連)による『AI活用戦略~AI─ Ready な社会の実現に向けて~』では、「AI─ Ready な企業に向けたガイドライン」が示された。このガイドラインでは、経営・マネジメント層、専門家、従業員、システムレベル・データに関し、「AI─ Ready 化着手前」(レベル1)から「AI─ Powered 企業として確立し、影響力を発揮している」(レベル5)まで、5つのレベルに分けて指標を提示している。

AI-Ready な企業のレベル分類

出典:日本経済団体連合会(経団連)「AI 活用戦略―AI-Ready 社会の実現に向けて」

 

「国内企業を見ると、残念ながらAI─ Ready 化が進んでいないところが非常に多く、大部分の企業がレベル1から2で止まっているという状況です」(平野氏)。この状況を懸念する経営者も多いことから、シナモンAIでは企業向けのAIセミナーも実施している。これらの活動を通じ、企業内におけるAIへの理解向上に貢献していく。

また、AIが企業間競争のドライバーとして活用されるよう、業界ごとに異なるニーズにも応えていく。

精度の高いAIを作るには、特に「AIリサーチャー」の確保が重要となる。AIリサーチャーは、AIエンジニアとは異なる職種だ。AIエンジニアがディープラーニングのライブラリを組み合わせてAIを作るのに対し、AIリサーチャーはライブラリを使うこともあるが、基本的にアルゴリズムをゼロから作っていく。ライブラリを組み合わせるだけでは、精度の高いAIを作るのは難しいことから、レベルの高いAIリサーチャーが求められている。

国内ではAIリサーチャーの十分な確保が困難であることから、シナモンAIではベトナムと台湾に「人工知能研究所」を設置し、現地で優秀な人材を獲得している。応募者はまず、数学とプログラミングのハイレベルな試験を受ける。合格者に対しては半年間に及ぶトレーニング・プログラムを実施し、さらに選抜を行う。このプログラムを修了できるのは、ごくわずかな人数で、このシステムを通じてトップレベルの人材獲得が可能になっている。

「ナレッジ・アンマネジメント」
が今後のAI活用でキーに

「今後の企業におけるAI活用では、『ナレッジ・アンマネジメント』がキーになると思います」と平野氏は指摘する。例えば、営業の仕事では、顧客宛に送信するメールから情報を抽出したり、ミーティングをレコーディングすることで、会話の内容や顧客の反応が自動的に蓄積されるシステムを取り入れる。

これによって、営業マンが自らの仕事内容についてその都度、記録や報告を行わなくてもナレッジが自動的に蓄積される。さらにAIの活用で、それらの分析や次にとるべき行動へのアドバイスも可能になる。

「AIを人間の仕事と共存させていく活動は、先進国では日本において最も起こりやすいと思います。欧米ではAI導入に関し、『人の仕事が奪われ、失業率が上がる』といった議論も多くなされます。しかし、日本では人口減少や人手不足が進んでいるため、AIとの共存はある意味で進めやすいはずです。人口減少は特に地方で激しく、世界に先駆けてソリューションを提供していくことが重要です」

コンサルティング大手、アクセンチュアの元チーフ・マーケティング・イノベーターでシナモンAI取締役会長執行役員の加治慶光氏は、今後の日本における人とAIの共存共栄に期待する。日本では労働時間が長さも課題が、近年は欧米諸国でも同様の傾向がみられるという。

「現在は人間が機械に合わせなければいけないので、労働時間が長くなってしまうのだと思います。大量のAIが様々な場面で使われるようになれば、労働時間を圧倒的に短縮できるはずです」(平野氏)

シナモンAIでは、「ホワイトカラーの生産性向上」をミッションに掲げ、それが実現する世界を創り出そうとしている。AIと人間の共存を進めることで、人々が個々人の時間を充実させ、人生を楽しめる時代の到来を目指す。

 

平野 未来(ひらの・みく) 
シナモンAI 代表取締役CEO