2020年7月号

人間会議

ハイブリッド型事業で読書を促進

田宮 幸彦(トゥ・ディファクト 代表取締役社長)、野村 育弘(丸善ジュンク堂書店 執行役員)

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外出自粛や休校、企業のテレワークなどが相次ぐ中で着実な成長を遂げている書籍販売サービスがある。「書籍市場の活性化につなげたい」とする事業の担い手たちの構想とは。

これからの書籍販売に求められるのは
「ハイブリッド型」

伝統ある出版社の倒産、時代を彩ってきた雑誌の休刊といったニュースを目にすることは、もはや珍しくはなくなった。書籍市場の縮減は否定できない事実だ。特に紙書籍の売上は、年を追うごとに減少している。

紙媒体が先細ってゆく一方で、電子書籍の売上は、小幅ながらも堅実な増加傾向を示している。いまだ書籍の売上は紙媒体が主体ではあるが、電子書籍のシェア増加は今後も続くことが予想される。

今後を左右するもう一つの流れが「実店舗を持つ書店」の減少だ。2019年の時点では書籍販売の7割を実店舗が担っているが、これが2023年には5割近くまで減少すると予測できるデータがある(『出版物販売額の実態2019』『出版月報 2020年1月号』)。

 

季刊 人間会議

トゥ・ディファクトの田宮幸彦社長が展開する「ハイブリッド型総合書店honto」は、こうした環境の変化を見据えた書籍販売サービスだ。大日本印刷株式会社(DNP)の書店・出版事業グループの一員として、2012年から通販、電子書籍販売、店舗販売を手掛ける。

田宮 幸彦 トゥ・ディファクト 代表取締役社長

「多様化する読書スタイルに応えて、読みたい本を、読みたい時に、読みたい形で提供する。これがhontoのコンセプトです」と田宮氏。複数の販売チャネルに、ポイントサービスや中古買取サービス、実店舗の在庫検索などを組み合わせ、およそ570万の会員のさらなる増加を狙う。

外出自粛下での売上動向と
取り組み

hontoの店舗販売サービスは、同じDNPグループの丸善ジュンク堂書店など、既存の書店と提携して行われている。丸善ジュンク堂で執行役員を務める野村育弘氏は、実店舗における直近の売上動向をこう概括する。

野村 育弘 丸善ジュンク堂書店 執行役員

「店舗販売では先の3月ごろからステイホームの影響が現れ始め、コミックのほかドリルなどの学参書籍の売上は2桁の伸びとなりました。しかし、4月に入ると休業や時短営業をする店舗が増え、総売上は半分程度まで低下しました。ただ、この急減は都心の大型店舗の特徴であり、郊外で平常に近い営業を続けていた店舗では、売上が急増したケースも少なからず見受けられました」

外出自粛下で、書籍の需要自体は高まっていることが窺える結果だ。本離れが言われて久しく、メディアデバイスが一人一台の時代となった今も、紙書籍が依然として持つ底力を感じさせる。

野村氏は、「知識を持つ書店員」と「書籍の調達力」こそが書店の財産だとする。実店舗で書籍を売るための施策にはコロナ以前から注力してきたが、今回の外出自粛の状況下では、書店員によるソーシャルメディアでの動画配信などに大きな反響が得られたという。

また、この数年継続してきた店舗宿泊イベント「丸善ジュンク堂に住んでみるツアー」も、本年5月開催分は「エア開催」とし、参加者が読んでいる本についてTwitterで自由につぶやくネットイベントとした。予想以上の盛況となり、参加者の読書環境や、読書のお供となる飲食物などについても知ることのできる、有意義なイベントだったという。

野村氏はこう語る。

「こうした取り組みでは、人と本との関係性を知ることができます。本がライフスタイルの中でどのような位置にあるかを知ることで、本の可能性をさらに広げられるものと考えています」

既存のレコメンド商法と差別化した施策

hontoの特徴は、リアルとオンラインを横断する展開にある。注力している施策を田宮氏に聞いた。

「honto」の事業イメージ

「ネットでの書籍購入は、欲しい本を検索して買うという形態が中心です。これには『出会い』がなく、目的のもの以外は買っていただけないという弱点があります。それを補うために『hontoブックツリー』というコンテンツを用意しています。毎回、著名人がキュレーターとなって、1つのテーマから連想された5冊の本を、ジャンルの縛りなく紹介するというものです」

hontoブックツリーは、テーマという木の幹から枝分かれしていく形で、人びとと本との出会いを創造する新しいキュレーションサービスだ

過去のキュレーターとしては、作家の綿矢りさ氏や酒井順子氏、スポーツ庁長官の鈴木大地氏などが並ぶ。テーマも「落ち込んでいるときに読みたい本」等の柔らかいものが多く、購買履歴からのレコメンド、いわゆる『あなたへのお薦め』とは一味違うものになっている。

田宮氏はこうした展開を「演出」と呼ぶ。直接に購買を勧めるのではなく、顧客の知的好奇心を喚起して購買に繋げる姿勢が窺える。

コロナの影響下で得た
 手応えと今後の展望

田宮氏は現在の事業をこう評価する。

「外出自粛下での通販の急増は予想していたのですが、ネットで注文した書籍を実店舗で受け取る取り置きサービスも、思わぬ急伸を見せました。短時間でも本屋に寄りたいという需要は、いまだ根強いようです。我々は2012年のサービス開始から『読みたい本を、読みたい時に、読みたい形で提供する』多チャネルでの販売を展開してきましたが、顧客の側でも購買チャネルの使い分けが浸透しつつあり、サービスが時代にフィットしてきたことを、この状況下で実感しているところです」

野村氏は、今後の書店の在り方をこう展望する。「これからの書店は、ただ本を売る場ではなく、人生を変えるような、新たな価値観に触れられるような一冊に出会える場でなければならないと考えています。これまで新刊著者による店舗講演などを行ってきましたが、これをネット配信で大規模に行うなど、情報発信の在り方も変えるべき時期に来ています」

感染症の世界的流行という非常事態は、社会に大きな制約を課している一方で、様々な気付きの機会も提供している。人の学びの基礎であり続けてきた書籍は、今後どのように流通してゆくのか。その担い手への期待が高まる。

 

『人間会議2020年夏号』

『人間会議』は「哲学を生活に活かし、人間力を磨く」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 アート思考とクリエイティビティ
特集2 不確実な時代を生き抜く経営哲学

(発売日:6月5日)

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