2019年10月号

環境会議

市民による共同発電所づくりでエネルギーの自立をめざす

高橋 伸英(自然エネルギー共同設置推進機構(NECO)代表理事)、浅輪 剛博(同企画部長)

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化石燃料に頼らない再生可能エネルギーへの関心が高まりを見せるなか県を挙げて自然エネルギーの活用や省エネに取り組む長野県は、「自然エネルギー先進県」として注目されるまでになった。

中でも全国屈指の日照率を誇る上田市では、恵まれた環境を活かし「市民信託」という独自の方式による市民をオーナーとした太陽光パネルの設置が進行している。

これまでにない手法で市民発電をサポートする一般社団法人 自然エネルギー共同設置推進機構に注目し、話を聞いた。

集中型大規模電源から
分散型自立電源へ

地球温暖化は、1992年リオ・デ・ジャネイロで開催された地球サミットで国際的な問題として取り上げられた。1997年には世界で初めて国ごとの温室効果ガス削減目標を取り決めた国際条約「京都議定書」が採択され、「ストップ地球温暖化」に向けて大きな一歩を踏み出した。

そして今、日本政府は温室効果ガスを2030年度に26%、2050年までには80%削減(2013年度比)を目標に掲げている。国内企業に目を向けると、2050年を目標に富士通、コニカミノルタ、NEC、リコー、パナソニック等が二酸化炭素排出量「ゼロ」を打ち出している。

脱炭素社会への志向、そして東日本大震災による原発事故以降、日本の再生可能エネルギーへの関心は高まり、従来の集中型大規模電源から新エネルギー活用による分散型自立電源の導入・拡大が期待されている。

国を挙げての施策であり、自治体を初め企業や市民団体による動きはあるものの、特に太陽光の場合は住宅の築年数によっては導入費のほかに屋根の補強が必要な場合があること。地域により太陽光、風力、水力それぞれに適地があること。また、生み出された電力を送る送電線そのものに余裕がないなどの課題があることは否めない。

電力の大半を火力発電に頼っている今、我々国民にできることは再生可能エネルギーにより関心を寄せ、できるところから始めていくという意識と行動が重要といえそうだ。

 

 

地域の資源はその地域のもの

全国で分散型自立電力が注目される中、豊かな自然資源に恵まれた長野県は、早期から県を挙げてエネルギー政策に取り組んできた。中でも上田市では、日照率の高さを活かした太陽光発電の導入が盛んだ。NPO法人上田市民エネルギーが市民発電としてこの事業を推進している。そして、その活動を支えているのが「一般社団法人 自然エネルギー共同設置推進機構」、通称NECO(ネコ)である。設立は2013年。地域の自然ネルギーはその地域に設置して活かすことが最適であるとの考えから誕生した。

一般市民においては、自然エネルギーに関心はあってもコストや設置、長期にわたる管理など、不安や疑問が付いて回る。NECOが相談に乗り、不安解消や手段の提供により、想いをかたちにするサポートを目的としている。

また、長野県を初めとする33の市町村、企業や個人など含めれば360ほどの団体が加盟する全県ネットワーク「自然エネルギー信州ネット」の事務局としても活躍中だ。

代表理事の高橋伸英氏は「長野県は日照率の高さから太陽光、森林によるバイオマス、豊富な水量を活かした小水力発電の3つが地域資源となります。地球温暖化防止、脱化石燃料、防災や独立電源といった側面から、自然エネルギーを増やしていきたいと思っています。今はFITもあり、一番取り掛かりやすい太陽光の普及に努めています」。行政や企業などからは、防災面での分散電源として関心が高く、問い合わせが入るようだ。

高橋 伸英(自然エネルギー共同設置推進機構(NECO)代表理事)

一方、パネル導入のブレーキとなるコスト面は、以前に比べて安価になり取り付けやすさは増した。「軽量化など技術的な工夫の余地はあると思います。送電線に関しては、経済産業省が見直しをかけています。千葉では自然エネルギーの送電可能容量が500万kWほど増えました。これは系統運用の見直しのみで可能になったもので、送電線の予約や緊急時用の領域を自然エネルギーに充てたことになります」(企画部長 浅輪剛博氏)。

浅輪 剛博(自然エネルギー共同設置推進機構(NECO)企画部長)

運用ルールを柔軟にし、その活用や補強をすることで自然エネルギーの入る余地は増えていく可能性は十分に考えられるわけだ。こうした動きを背景に、地元上田を中心としながら、時には都内まで足を運び、各種イベント、講演会や勉強会を開催して自然エネルギーへの関心を高めると同時に、パネル導入の普及に努めている。

「バイオマスに関しては、毎年講演会を開催して啓蒙から実際に何が出来るのかまで踏み込んだ勉強会を実施しています。昨年は、公共施設の温泉やプールなど、熱利用の大きい施設を対象にバイオマスボイラー導入の可能性を上田市と連携して調査しました。バイオマスの活用・普及について検証中です」(高橋氏)。また、信州大学に設置したパネルの下草の管理に、同大繊維学部で飼っている羊を導入するなど、ユニークな実験も行っている。

市民主体の市民発電で
地域の活性化を図る

NECOが支援する上田市民エネルギーは、一般住宅を中心に、保育園、大学、工場や商業施設などの空いている屋根にパネルを設置する発電事業を行っている。屋根の持ち主が希望の面積に自分のパネルを置き、残りのスペース分を全国からパネルオーナーを募る方式と、上田市民エネルギーが発電事業者として屋根を借り、パネルオーナーを募る2つのパターンで展開中だ。集めた資金で設置し、売電費用から返済するというモデルで「相乗りくん」として親しまれている。

「相乗りくん」の事業モデル

上田市民エネルギーのメンバー。屋根に設置した太陽光パネルの前で

パネルオーナーは小口の出資で温暖化防止に貢献でき、屋根オーナーは設置費用の削減と12年後または17年後以降は自分のパネルになるという利点がある。日常的には売電しているが、災害時は自分達が使える非常用電源として使用できる。

このほか、農地に太陽光パネルを設置し、パネルの下で農業を行う「ソーラーシェアリング」も2018年から開始した。農地の有効利用のほか耕作放棄地の再生にもつながり、県外大学の見学や、海外からの視察を受け入れている。

こうして設置された発電所は現在46カ所。市民の出資金額は1億2000万円に上り、発電量は650kW弱となっている。2018年度、相乗りくんは杉の木約3万2400本が1年間に吸収する二酸化炭素と同じ量を削減した。/p>

ここで注目したいのは、独自の「市民信託」という方式をとっている点だ。メガソーラーのように大資本が売電目的に設置する事業とは異なり、非営利で事業を行い、市民や地域が主体となって再生可能エネルギーの普及に取り組んでいる点である。売電収入は必要経費を除き全てパネルオーナーに還元している。

もう1つは、パネルオーナーの約半数が県外ということもあり、自分の出資したパネルを見学に来ることもしばしばで、自分のパネルのある場所を訪れるという楽しみもでき、下草が伸びていれば草刈りをするなど地域住民や他のオーナーとの交流が生まれ、新しいコミュニティが発生している。こうした活動が認められ、「相乗りくん」は2018年環境省の「グッドライフアワード」で環境大臣賞を受賞した。

市民レベルが気候変動やエネルギー問題に関心をもち、化石燃料に頼らず自らエネルギーを作り出す。発電で得た利益は地域に還流される。これにより地域は活性化し、持続可能な地域づくりにつながっていくのである。「環境、経済、社会。まさにこの3つが持続可能な開発目標(SDGs)を構成する側面でもあるのです。相乗りくんの受賞は、この3つを実現したからに他なりません。こうした活動を通じ、自然エネルギーをもっと身近に感じて欲しいと思っています」(高橋氏)。

エネルギーミックスでできること

NECOがメインに活動する上田市以外の長野県内には、ペレットやチップで熱利用を推進している地域がある。このため、木質バイオマスの普及にも関心を寄せている。「どこかにチップボイラーを導入する事例を作ろうと調査したり役所に働きかけたりしています」(高橋氏)。

この取組は「見える化」することで導入しやすさにつなげていこうというものだ。上田市で初めてのチップボイラーを導入させるべく、木の切り出しからチップの生産体制整備に向けて、現在プロジェクトが進行している。資源の有効活用や循環で外部からの購入を減らそうというのが狙いだ。

「発電だけでなく断熱などの省エネも進め、太陽光発電で得た様々なメリットを熱利用に応用していきたい」と語るのは浅輪氏。市や国の制度などうまく絡めながら、最終的には交通をシェアする、歩いて楽しめる街づくりに活かすなど、全体をまとめていく地域のエネルギー公社を目指していく。

「地域100%自然エネルギー」への活動は、NECOを中心に広がりつつある。

 

高橋 伸英(たかはし・のぶひで)
自然エネルギー共同設置推進機構(NECO)代表理事

 

浅輪 剛博(あさわ・たかひろ)
自然エネルギー共同設置推進機構(NECO)企画部長

 

『環境会議2019年秋号』

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 SDGs時代に描く 開発の未来
特集2 再エネ・新エネで推進 持続可能な社会づくり

(発売日:9月5日)

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