2020年1月号

人間会議

次世代のモビリティに拡がる水素の利活用 水素閣僚会議2019

季刊人間会議 編集部

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水素の利活用をグローバルな規模で推進し、国際的連携を図るプラットフォーム「水素閣僚会議」。モビリティワークショップでは、各国の自動車メーカー・モーター事業者が一堂に会し議論した。

「供給側、需要側、政府の
3者で連携強化が必要」

「水素閣僚会議」は水素の利活用をグローバルな規模で推進し、各国が歩調を合わせてさらなる連携を図るプラットフォームで昨年、世界で初めて日本で開催された。世界各国の閣僚らのほか、水素に関連する企業や政府の関係者、研究者らが参加して議論を行う場となっている。

モビリティワークショップ「広がる水素の利活用」では、米国エネルギー省燃料電池技術室ダイレクターのSunita Satyapal氏がモデレーターを務めた。プレゼンテーションとパネルディスカッションには、▽トヨタ自動車株式会社代表取締役会長の内山田竹志氏、▽現代自動車副社長のKim Saehoon氏、▽ニコラモーター(Nikola Moter)副社長 Jesse Schneider氏、▽岩谷産業株式会社代表取締役会長兼CEOの牧野明次氏、▽リンデエンジニアリング(Linde Engineering)Senior VicePresidentのAlexander Unterschütz氏、▽日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM)代表社員職務執行者 (社長)の菅原英喜氏、▽Ballard Power Systems President & CEO, Randy MacEwen氏の7人が参加した。

 

季刊 人間会議

 

内山田 竹志(トヨタ自動車代表取締役会長)

このうち、トヨタ自動車の内山田氏は、水素社会の実現に向けた自社の取り組みに関するプレゼンテーションを行った。トヨタ自動車は水素を二酸化炭素(CO2)排出削減の重要なアイテムと位置づけ、2014年には世界に先駆けて燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を発売した。当初は年700台だった生産能力を、現在は年3000台レベルまで増強し、累計約1万台を販売している。

内山田氏は「水素社会の実現に向けては、水素や関連コストの低減、規制見直しなど多くの課題があります。そして供給側、需要側、政府の3者が施策を進め、連携を強化していくことが必要です」とした上で、「トヨタは需要側として水素需要量の拡大をはかるべく、様々な取り組みを進めます」と述べた。

その取り組みでは第1に、FCVの生産能力を現在の10倍に当たる年3万台以上に高めるため、FCスタック(燃料電池)生産用の建屋を新たに建設した。現在は2020年代の次期ミライ発売に向けて、最終的な開発を進めている。第2に電動車両は普及してこそ意味があることから、完成車だけでなく、車両電動化技術のシステム提供も始めた。

第3にミライの経験を通じてトラックやバス、フォークリフトの分野でFCV技術が有効という手ごたえが得られたことから、商用車への拡大を加速させる。第4に、移動体燃料としてだけでなく、自社の工場内でも水素利用を開始した。

「水素社会の実現に向けては、企業間の協力に加え、各国政府、投資家、お客様といったすべてのステークホルダーと連携、協力していくことが何よりの推進力となります。トヨタは水素社会の早期実現に向けて、よりオープンに、より多様なパートナーと協調し、今後も先頭に立って取り組みを進めていきます」(内山田氏)

「世界中での早期の水素
ステーション整備に期待」

一方、現代自動車のSaehoon氏は、エネルギーや運輸、製造業のリーディングカンパニーで構成されるグローバルなイニシアチブ「水素協議会」の合同議長も務める。現代自動車では1998年から燃料電池技術を開発し、2013年にはFCEVの大量生産を開始した。さらに2018年には第2世代のFCEVを発売し、年1000台を生産している。今後も生産能力を高め、2022年には年4万台に増やしていく方針だ。また2025年までにバッテリーコストとFCVのコストが355kmの段階でほぼ同レベルになり、コスト競争力を持つ見込みだ。

Kim Saehoon(現代自動車副社長)

「システムコストを見ると内燃エンジンの車より高いですが、CO2のコストを加えれば、より競争力があるといえます。自動車産業はこれを目標に、取り組みを進めています。

目標は3~5年で達成できる見込みですが、そのためには水素ステーションの数を増やす必要があります。2025年前が適切なタイミングと考えており、政府や国際組織が協力してくれています」(Saehoon氏)

現代自動車ではまた、FCVのシステムを船舶や発電機など様々な領域にも展開していく方針だ。生産目標では、2030年にはシステム自体は70万台作り、20万台を自動車以外の分野に展開する方針だという。

「この段階より前に、水素ステーションが世界中に整備されることを期待します。ただ、規制の課題があり、そのための議論も必要です」(Saehoon氏)

Jesse Schneider(ニコラモーター[Nikola Moter]副社長)

続いてニコラモーターのSchneider氏が、ゼロエミッション・トラック輸送や水素ステーション整備などの自社事業を紹介。さらに「燃料電池には安全性の国際標準も求められています。小型車対応のみならず大型車対応も必要です」と指摘。その実現に向け「プロジェクトを展開しながら加速的に学習し、スタンダードの形成が求められます」と述べた。

「ステーションのコスト削減を」

一方、岩谷産業の牧野氏は、自社の水素ステーション整備に関する取り組みについてプレゼンテーションを行った。岩谷産業は水素の可能性にいち早く着目し、1941年からその販売を開始。水素の原料調達から製造、輸送、利用まで一気通貫のサプライチェーンを構築している。

牧野 明次(岩谷産業 代表取締役会長兼CEO)

水素の供給では国内シェア約70%のトップサプライヤーとなっており、日本で唯一の液化水素サプライヤーでもある。水素ステーションの整備では、2017年度時点で国内に作られた100ヵ所のうち、自社での建設・運営のほか事業者への設備販売も含めると、全体の4割に関与してきた。

今後も国が掲げる「2020年度までに国内に160ヵ所の水素ステーションを整備する」という目標の実現に向け、積極的に取り組みを進めていく。さらに、海外でもFCVが急速に増加している米カリフォルニア州で、水素ステーション事業やサプライチェーン構築に取り組む。

水素ステーション事業の課題としては、整備コストや運営コストの低減がある。この課題を解決するためには、現在の高圧ガス保安法による規制の見直しも求められている。

「国による水素インフラ関連の規制見直しでは、例えば、水素ステーションのセルフ化や海外規格での水素ステーション建設など、大幅な規制緩和も必要でしょう。人件費等の運営費が削減され、過剰設備の是正や海外品調達による整備コスト削減も期待できます」(牧野氏)

また、JHyMの菅原氏は、日本に水素ステーションネットワークを築くため、昨年2月に設立されたJHyMの活動について説明を行った。JHyMではインフラ事業者、自動車会社、金融投資家という3つの異なるセクターが1つの方向を向いて水素ステーション整備を進めていくことを目的に活動を開始。当初は12社が参加し、その数は現在、23社に増えている。

菅原 英喜氏(日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM)代表社員職務執行者 [社長])の講演と列席する講師ら

「インフラ事業者に対しては従来から公的な補助金が付き、これがステーション建設や運営の支えとなってきました。さらにJHyMができたことによって、投資家や自動車会社の資金がインフラ会社へ流れるようになり、事業を金銭面で支えています」(菅原氏)

JHyMのミッションは、まず戦略的にステーション整備を拡大し、数を増やしていくことだ。具体的な目標としては、2021年までに80ヵ所を新設することを目指している。特に非競争領域における情報交換などを通じて、効率的な経営に資する活動を行い、より多くの整備を実現させたいという。

「これによってFCVユーザーの利便性が向上し、FCVの台数増加につながり、それがステーション経営をより安定化させ、より多くの整備が行われるというサイクルを回していきたいと思います。JHyMは10年を時限とする会社なので、これを10年間で回せるようにすることを目指します」(菅原氏)

JHyM設立以降、従来は未整備県だった6つの県に整備が拡大しており、今後もさらに未整備県を減らしていく方針だ。また、水素ステーション整備の担い手を増やすため、地方の中小事業者をサポートする活動も進めている。

将来的に、さらに水素ステーションを増やしていくためには、ステーションビジネスの自立化が不可欠となる。そのためにはFCVがさらに売れる必要があり、ステーションコストでは運営費や整備費、そして水素自体のコストも削減する必要がある。コスト削減に向けた活動には、企業努力で行うべきこと、業界の協調で達成すること、そして規制当局への理解を求めていくことといった様々な活動が必要だ。

「これらすべてをクリアした上で、ようやくロードマップの数値が少し見えてくるという感触です。これを行うこと自体がイノベーションで、その主役はインフラ事業者、自動車メーカー、機器メーカー、薬品メーカー、投資家の方々です」(菅原氏)

JHyMの特徴は、水素ステーションに関する様々なデータが一堂に揃う点で、これらの情報を基に主役となる関係者が1つの方向を向くよう土俵を整えていく方針だ。

 

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