2020年1月号

人間会議

地域の強みを活かした連携で共に発展を目指す

三浦 淳(川崎市産業振興財団(KIIP)理事長)

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京浜工業地帯の中心地として発展してきた神奈川県川崎市には産業が集積し、高度なものづくりを行う多数の企業や400超の研究開発機関が立地している。その強みを活かし、市内の産業振興だけでなく、県内外の地域と連携することで地域を活性化する取り組みも進めている。日本一のスギの産地である宮崎県との連携による国産材利用の促進や、歴史的に縁が深い沖縄県との連携などを通じ、互いの強みを活かした持続的な発展を目指す。

三浦 淳(川崎市産業振興財団(KIIP)理事長)

 

季刊 人間会議

「ものづくり」の京浜工業地帯
から先端R&Dの集積地域に

神奈川県川崎市は首都圏の中央に位置し、交通や商業、教育、文化、医療など様々な面で利便性が高いのが特徴です。人口は現在、約153万人で、20数年にわたって年3000〜5000人程度の自然増が続いています。市内には素材や機械・ITなど高度な技術を有する400超の大中小の企業や研究開発機関があります。

さらに、国内最大級のR&D施設でイノベーションの発信拠点である「かながわサイエンスパーク(KSP)」や「かわさき新産業創造センター(KBIC)」、「テクノハブイノベーション川崎(THINK)」のようなサイエンスパークも充実しています。

また、空港利用客数が世界第5位となっている(2018年時点)羽田空港が隣接していることも、川崎市の発展において大きな意味を持ちます。現在、川崎市殿町地区の国際戦略拠点「キング スカイフロント」と羽田空港周辺を橋で結ぶ、羽田連絡道路の建設が進められており、2020年度内に竣工予定です。また、川崎市と隣接する東京都大田区にはキヤノン、世田谷区の二子玉川には楽天の本社など、様々なグローバル企業が拠点を置いています。

川崎市は戦後、高度経済成長の中で京浜工業地帯の中心として発展し、「ものづくりのまち」として知られてきました。経済発展に伴い深刻な公害も生じましたが、地域の人々や企業、国や県などと協力してこれを克服し、その結果、先端環境産業都市として発展してきています。

また、産業構造は大きく変化し、近年はIoT、ビッグデータ、AIなど科学技術の目覚ましい進捗がみられます。川崎市にはこれらの分野でも最先端の企業や研究機関がありますが、その一方で産業だけでなく、文化や芸術、スポーツのような分野にも力を入れています。私たち川崎市産業振興財団も市の発展と共に歩み続け、昨年には設立から30年を迎えました。

宮崎県との「崎・崎連携」で
国産材利用や交流を促進

日本の大部分の地域では高齢化や人口減少が進み、大きな課題となっています。また、人口増加が続く川崎市でも高齢化への対応が課題になっています。

このような中、市では神奈川県内外の様々な地域と連携、協業して課題を解決し、それぞれの地域の価値や魅力を高めていくことを目指しています。例えば、宮崎県との間では2014年11月に連携協定を締結し、都市と地方の強みを活かしながら、まちづくりや産業、人づくりに取り組むこととしました。

宮崎県は森林や林業で日本を代表する県で、とりわけ、スギの生産量は日本一となっています。また、スギの利活用に関する技術やノウハウで、最先端にあります。川崎市では、市内の公共建築物の木質化・木造化などに関する取り組みで、宮崎県との連携を検討する中、木材以外の分野も含めた幅広い連携協定を結ぶことになりました。川崎市も宮崎県も名前に「崎」の文字が含まれており、また時代の一歩「先」を行くという意味も込め、この連携プロジェクトを「崎・崎モデル」と名付け、推進しています。

今年4月に開校した川崎市立小杉小学校は、校舎にたくさんの国産材を取り入れ造られています。木が多く使われ、ぬくもりのある校舎では、子どもたちが落ち着き、アトピーにかかりにくい、そして不登校にもなりにくいといった効果なども期待されています。

国産材の利用は、国内の林業保護のほか、地球温暖化対策としても役立ちます。「日本には資源がない」といわれますが、実はそうではありません。木材だけではなく海洋にも多くの資源がありますが、様々な理由から有効活用できていないのです。宮崎県のスギは県内だけですべてを活用することはできず、崎・崎モデルのような都会との広域連携が役立つはずです。

川崎市内の公共施設だけでなく、民間の建築物でも国産材利用を促進していくため、2015年10月には「川崎市木材利用促進フォーラム」も設置しました。フォーラムには、有識者や設計、建設業、林業、木材業、資材メーカー、行政などの92団体が参加しており(今年7月時点)、建築技術やノウハウの向上、情報共有、木育等の取り組みを通じて国産材の利用促進・普及を図っています。

また、宮崎県との間では、子どもたちの交流も実施しています。宮崎県の子どもたちが川崎へ来て、ものづくりの現場を見学したり、川崎市の子どもたちが宮崎県へ行き、自然の中で養豚場を見学したりしています。この崎・崎モデルのような形で地方と都市部が連携することで、作る側と使う側がつながり、人と物、そしてお金と情報が回るようになれば、地域が元気になっていくはずだと思います。

図1 首都圏全域と川崎市の位置

出典:川崎市産業振興財団提供資料

 

沖縄県や水源地の
神奈川県山北町とも連携

沖縄県は古くから川崎市と縁が深いところで、約100年に及ぶ長い付き合いになっています。川崎市と横浜市鶴見区には、沖縄から移住してきた方々による日本最大のコミュニティがあります。川崎では1924年(大正13年)に、日本初の沖縄県人会が発足しています。

川崎では毎年、ゴールデンウィークに沖縄県の文化や芸術に焦点を当てたイベント「はいさいFESTA」が開催されており、これは国内最大級の沖縄関連イベントです。

また、川崎市で障がい者就労支援事業所を運営しているダンウェイ株式会社は、沖縄県名護市で作られているシークワーサーの販売と障がい者の就労支援を組み合わせた事業を始めています。名護市では1日1トン、年間365トンのシークワーサーが、消費されずに廃棄されていたということで、ダンウェイではこのシークワーサーを活用して現地の農家と連携し、その加工品を販売する事業を開始しました。その販売では、川崎の障害を持つ人たちが活躍しています。

これは地方と都市部の連携によって、作る側と食べる側をつなげていく取り組みです。さらに、沖縄県が持つ価値の1つとして観光があり、この点でも川崎市の多様な主体が連携できる可能性があると思います。

地域間の連携は、県内においても重要です。例えば、神奈川県の西端にある山北町は現在、人口が1万人程度で、今後も人口が減少するとみられています。しかし、その面積は川崎市の約1・5倍で豊かな自然があり、町の約9割が森林です。山北町はまた、川崎市の水の約半分を供給する重要な水源でもあります。ですから、山北町の林業を支援し、森林を保護していくことは川崎市にとっても重要です。

このような中、川崎市と山北町は県と協働し、2012年4月に「水源地域における交流事業の実施に関する協定」を締結、川崎市民が山北町の森林を訪れる交流事業を行っています。こうしたことなどによって、川崎市民の水源地域への理解を促進し、水源地域である山北町の活性化に寄与できればと思います。

山北町では近年、地域の特性を活かして起業する若い世代も出てきています。相模原市出身の島﨑薫さんは昨年、自然の中で放牧し、環境に優しい経営を行う「薫る野牧場」を山北町で始めました。

1人で5頭の乳牛を飼うところからスタートし、乳製品などの販売を始めています。市場で価値があるものを作ることによって、地方に雇用や産業が生まれます。地方と都会をうまくつなげられれば、製品の販売も促進できます。

図2 崎・崎連携のイメージ

出典:川崎市提供資料

 

地域間の連携で互いに
地域価値を高めて活性化

川崎市では地域の産業活性化を目的に、大企業や研究機関が持っている開放特許などの知的財産を中小企業に紹介。中小企業の製品開発や技術力の向上、高付加価値化につなげる支援を行ってきました。これは様々なセクターが協力して互いに生産性を上げていく取り組みで、「川崎モデル」ともいわれます。このモデルは現在、全国の約30地域に広がっています。

人口減少が進み日本全体がシュリンクしていく中、人口増加が続き、元気な研究開発・産業都市として川崎だけが今後も発展できれば良いということはありません。

グローバルとローカルという視点で考えた際、グローバルはいわば完全競争の世界ですが、日本の国内総生産(GDP)でグローバルが占める部分は3割程度といわれます。残りの約7割はローカルの部分で、この部分でどのように生産性を上げていくかが問われていると思います。ローカルを活性化し、人々が働きやすく、生活しやすい地域社会を作っていくことが必要です。

そのためには、様々なステークホルダーと協力し、地域の産業、福祉、環境や教育などの課題を解決すると共に、異なる地域が互いの強みを活かして連携し、地域価値を高め、持続可能な社会を築いていければ良いと思います。

 

三浦 淳(みうら・あつし)
川崎市産業振興財団(KIIP)理事長

 

『人間会議2019年冬号』

『人間会議』は「哲学を生活に活かし、人間力を磨く」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 リスク社会を生き抜く未来構想
特集2 地域企業のポテンシャル

(発売日:12月5日)

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