2020年1月号

人間会議

ポケットエコーが拓く医療現場の革新

河野 光裕(日本シグマックス ウェルネス事業部 部長)

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医師以外も含めたチーム医療が発展するなか、様々な現場では正確な診断だけでなく速やかな「判断」の必要性が高まっている。より多くの医療従事者に的確な情報を提供し連携と効率化を促すデバイス。そこに込められた開発思想とは。

河野 光裕(日本シグマックス ウェルネス事業部 部長)

 

季刊 人間会議

 

診断よりも「判断」で
高齢者医療に革新を

日本シグマックス株式会社(以下、日本シグマックス)は、エコー診療を運動器(整形外科)領域に普及する事業を長く手掛けてきた。ウェルネス事業部では、健康寿命の延伸に向けて、中高年の運動習慣づくり、また国のプロジェクトでもあるロコモティブシンドローム予防への参画と普及貢献など、予防医療に資する幅広い活動を行っている。

2016年7月に発売された「ポケットエコー miruco」の開発に至った根底には、当時の医療現場が抱えていた課題を捉え、医療者のニーズに応えたいという想いがあった。

ポケットエコーmiruco には附属プローブによって3つの製品構成がある(10MHz リニアプローブ、3.5MHz コンベックスプローブ、 3.5MHz コンベックスプローブ& 10MHz リニアプローブ)。外国人看護師にも使えるよう、英語・中国語での表示にも対応する

「元々、ある総合診療医から自身が企画立案したポータブルエコーの製造販売及び普及を担って欲しいとのご要請を受け、このプロジェクトに参加しました。機器開発以前から、当社は運動器領域へのエコー装置の啓蒙普及活動を通じて、プロジェクトに参画していた方々と継続的な関係を育んできました。従来の運動器領域から踏み出す新事業でしたが、エコー診療の普及というこれまでの経験を活かせると判断し、機器開発に参加しました。」と、ウェルネス事業部の河野光裕氏は語る。

2019年9月発売の新モデルにも受け継がれるコンセプトは2つある。1つは「診断よりも『判断』で使えるデバイスを」。社会の超高齢化の進む過程で地域医療を充実させていくには、大学病院・総合病院で行われているような高度な診断だけではなく、診療・看護が求められる現場で「次にどう行動をとるべきか、どんな処置をすべきか」判断するための情報を提供するというもの。もう1つが「機器の進歩で医療を変革しよう」。コンピュータの据え置き型からパーソナル化・モバイル化への進展と同様、据え置き型の大型検査機器からラップトップ型が外来や病棟でも使われるようになった。続くモバイル化の先鞭を付けたのがmirucoに代表されるモバイル機器といえる。

「mirucoの仕様は、地域医療の現場を熟知した診療医の示唆を受け、エコー装置に不慣れな看護師でも使いこなせるように、スペックの絞り込みやユーザーインターフェイス(UI)の設計を煮詰めました。結果、現場での『判断』に必要最小限の情報を提供するようになっています」(河野氏)。

もっとも、ポケット型装置は2016年発売当時から競合他社が存在した。しかし、どの機器も価格が高く、またエコー診療に慣れた医師が使用する前提で開発されていた。そこでmirucoは多数の機能を省き、操作ボタンも必要最小限に設置し、起動してすぐ使ってもらえる利便性を重視して設計している。

「当社はかねてより経験豊かな診療医と緊密なパートナーシップを築いていました。『どう設計すれば、医療現場に必要最小限のシンプルなものにできるか』を医師の実務経験に即して実現できました。例えば新たに発売したリニアプローブで実際に頻度の高い使途は、経鼻胃管挿入時の事前確認、中心静脈カテーテル挿入時の血管の事前確認、寝たきり介護高齢者の褥瘡(じょくそう)確認、が主と考えられます。こうした想定からタブレット画面には経鼻胃管・末梢血管・表在などのボタンをデフォルトに配置しています」。こうして機能の絞り込みを行った結果、競合他社と比べて低価格を実現した。

研修・セミナーとの連動で
エコー診療を身近に

「機器の利用を促すうえでは、情報提供と認知が必要です。当社はこの点で、セミナー開催や技術伝達のノウハウが豊富で、また講師を引き受けていただく医師や看護師・検査技師とのネットワークも充実していました。研修では、看護師向けに実技ベースで分かりやすく伝えることをコンセプトに、膀胱などに特化して観察できる専用のシミュレーターを作り、それを使って実技を学んでもらうようフォローしています」。こうした看護師の教育は、デバイスに馴染んでもらい技術的な理解を促すうえで有効だ。他方で、実際の普及が進むうえでは、現場を監督する医師の理解を得るという課題もあり、この点は更なる後押しが必要と捉えている。

看護師向けセミナーの様子。講師には総合病院で長年勤務しエコー経験豊富な臨床検査技師(超音波検査士)や、看護現場で先進的にエコーを利用してきた看護師を招聘

2019年9月にはリニアプローブ対応モデルの追加発売に踏み切った。「元々、医療現場で浅い部位を確認したいというニーズは聞かれており、開発すれば幅広い用途に使ってもらえる、という期待がありました。整形外科分野からもポケット型で使えるリニアプローブへの期待が寄せられていました」(河野氏)。

モバイルデバイスの普及で
医療環境に革新を

モバイルデバイスの普及は、医療現場にどのような革新をもたらすのか。「当社では『有機的かつ節度をもって多職種の連携を促す』ことを掲げています。今後、従来以上に多くの人が医療を受ける機会が増え、しかもその現場は高齢者向け介護施設や在宅など、医療機関外で受ける機会が増えるでしょう。こうした現場の多様化が進むなかで、医療者にいわば聴診器感覚でエコーを使ってもらい、常時簡易に患者の状態を把握できることが理想の姿です」(河野氏)。

背景には、増大する医療費とこれに反比例する医師不足の現状を課題として捉え、これを解決したいという意図がある。「疾患を抱える高齢者の増大に比べて医師の数は不足しつつあり、医師だけで全ての患者を診ていくことは到底できません。本来医師を呼ばなくてもよい状況で呼んでしまうことで、医師に掛かる負担は大きくなります。こうした医療現場の効率化にも、mirucoが少しでもお役に立てればと考えています」。

近年は学界での評価も高い。「昨2018年、医療の質・安全学会年次学術集会にコンベックスプローブを展示し、従来にない価格設定とUIが評価され『奨励賞』を頂きました。こうした専門的な評価を後押しに、医療の質向上に寄与できればと考えています」。

 

河野 光裕(こうの・みつひろ)
日本シグマックス ウェルネス事業部 部長

 

『人間会議2019年冬号』

『人間会議』は「哲学を生活に活かし、人間力を磨く」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 リスク社会を生き抜く未来構想
特集2 地域企業のポテンシャル

(発売日:12月5日)

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