人間が存在しているのは 他の生き物たちのおかげ

2010年に開かれた「生物多様性条約第10回締約国会議(COP 10 )」では、生物多様性保全のための「愛知目標」が採択された。その達成に向けた「国連生物多様性の10年(2011~2020年)」には、国際社会の様々なセクターが連携して「生物多様性戦略計画」を進め、生物多様性の主流化を実現させようとしている。生態系ピラミッドの頂点に位置する人間は、他の生物のおかげで存在しているという意識が人々に求められている。

生物多様性は地球の基本

「英語のgarden(ガーデン)という言葉の語源は、古代ヘブライ語のgan(囲われる)と、eden(楽園)です。地球の奇跡は『囲われた楽園』として、見事にエネルギーと物質が再生、循環する仕組みができていることです。その仕組みを作っている主役は、生き物たちです」と「国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB―J)」委員長代理であり、都市と自然の関わりにおけるランドスケープ作品を手がけてきた東京都市大学環境学部の涌井史郎教授は指摘した。

UNDB ― Jは「愛知目標」の達成に向けて、国内のあらゆるセクターの参画と連携を促進し、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取り組みを進めるため、2011年9月に設立された。涌井教授によれば、「地球において、生物多様性は基本中の基本」となる。

「生産者である植物、消費者である動物、そしてバクテリアや昆虫類、土壌生物などの分解者が見事にシステムを形成し、地球の有機的なシステムが完成した時点で初めて、人類が登場したのです。これは500万年前のことで、46億年の地球の歴史を1年の暦に例えれば、12月末にようやく人間が現れたのです。しかし、今ではその人間が地球の主であるかのような横柄な態度をとっています」

涌井 史郎(東京都市大学環境学部 教授)

部品を落としながら飛ぶ宇宙船地球号

地球は一定で成長しないのに対し、人口は急激に伸びている。このような中で、人類が皆、成長し続けようとすれば、限界に達する。持続的な未来に向けては、成長のベクトルから成熟のベクトルへ、そして豊かさを追い求める社会から豊かさを深める社会への転換が重要なテーマとなる。

涌井教授によれば、その際、重要となるのは、以下の3つの点だ。第1に、人間と自然がどのように共生していくかという課題があり、第2に、現在、生きている世代が世代内における矛盾をどう解決するか、すなわち発展途上国と先進国がどのように地球の資源を分け合っていくかという点が挙げられる。第3に、将来世代が現世代と同様の自己実現への欲求を持った際、それを果たし得る資源や資本をどの程度、残していけるかという課題が存在する。

生物多様性に関してはとりわけ、環境が劣化し、絶滅危惧種が増加している。

「地球上の生物種は3300万種と言われますが、これは戸籍のある生物で、他に、いずれ発見されるであろう戸籍がない生物もいます。他方で、過去100年間に4万種の絶滅種が発生しています。いわば3300万点の部品でできた宇宙船地球号が70億人の乗客を乗せて飛ぶ中で、部品がどんどん下へ落ちている状態です。これでは、いつまで飛び続けられるかわかりません」

このような状況において人間はまず、人類が生態系の一部であるという事実を認める必要がある。そして、人間であればこそ可能な新たな技術の開発を、どのように進めていくかが問われる。さらに種や遺伝子、生態系について、保存だけでなく、その多様性を復元できる「復元力ある世界」を意識することが求められる。

「愛知目標」の達成を目指す にじゅうまるプロジェクト

COP10で採択された「愛知目標」は、2020年までに生物多様性の損失を止めるための効果的で緊急の行動を実施するという20の個別目標だ。そして、2050年までに「自然と共生する世界」を実現することを目指している。

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