上場プロスポーツクラブ誕生秘話 不可能を可能にする物語と志を持て

総合型地域スポーツクラブとして、プロ卓球チーム「琉球アスティーダ」の運営をはじめ、卓球教室や飲食店、経営者サロンなど多彩な事業を展開する琉球アスティーダスポーツクラブ。「沖縄から世界を獲りにいく」という高い志のもとに突き進んできた同社のストーリーと今後の構想を聞いた。

早川 周作
(琉球アスティーダスポーツクラブ 代表取締役会長兼社長)

「弱い者、弱い地域に光をあてる」
という想いを、卓球で実現

「5歳で始めて、15歳でメダルを取れる可能性がある。お金がなくてもできるスポーツで、体格が小さくても勝てる。それが卓球です」と語るのは、プロ卓球リーグのTリーグに参戦するプロチーム「琉球アスティーダ」を運営する琉球アスティーダスポーツクラブ創業者で、現会長兼社長の早川周作氏だ。

秋田県出身の早川氏は、19歳の頃、家業が倒産し父親が蒸発。家財を全て失うも、新聞配達などのアルバイトをしながら明治大学法学部に進学。在学中の20代前半から、学生起業家として数多くの会社経営に参画してきた。

「家業が倒産した時、行政に相談しても全く相手にされず、奨学金を借りに行けば『保証人を連れてこい』と言われました。社会基盤や政治機能は、強い地域、強い者に働いて、弱い地域、弱い者には全く働かない。こうした構造を壊したいという想いを抱きました」

早川氏は政治に興味を持ち、羽田内閣の元で秘書として2年間学び、28歳で国政選挙に出馬するも次点。その後は総合コンサルティンググループの代表として、約90社のベンチャー企業の顧問やアドバイザーを務めてきた。

2011年に沖縄に移住して以降は東京と沖縄を行き来する生活をしていたが、2018年、翌年のプロ卓球リーグ創設にあたり、大学の先輩でプロ卓球選手でもある松下浩二氏からプロ卓球チームの運営を依頼されたことが大きな転機になった。

「松下さんの『卓球は誰もがチャンスを得られる球技だ』という言葉が、『強い者、強い地域にではなく、弱い者、弱い地域に光をあてていく』という、私が19歳の頃から抱き続けてきた想いと重なったのです。私自身は、実は全く卓球を知りませんでしたが、30分でチームを引き受けることを決めました」

早川氏は2018年2月、琉球アスティーダスポーツクラブを設立した。

左/沖縄県中城村に本社を構える琉球アスティーダ。ホーム戦での応援の熱は年々高まっている
右/琉球アスティーダの試合の様子

偉業達成を可能にした
「ストーリー」と「志」

沖縄県中城村のアパートの半地下に本社を構えた、琉球アスティーダスポーツクラブ。Tリーグ初年度の成績はダントツ最下位でスポンサーもつかない状況だったが、早川氏は「世界を獲りにいく」と敢えて宣言した。

「そして世界を目指すならば、当然日本一になっていなければ話になりません。そこで、まずは『プロスポーツで日本初の上場会社を作り、3年以内に日本一のクラブチームを作る』という目標を設定しました」

その言葉通り、琉球アスティーダは3年後の2021年にTリーグで優勝し、同時に運営会社の琉球アスティーダスポーツクラブも上場を果たした。

「2021年3月14日の15時30分に東証サイトで上場の対外公表が出され、その日の18時からのTリーグファイナルで日本一を決めました。周囲にバカにされた『3年で日本一』、誰もが絶対に無理と言った『株式上場』の夢を成し遂げた瞬間でした」

同社は、なぜこのような奇跡と言える偉業を達成できたのか。そのキーワードは、「ストーリー」と「志」だ。

「当社が徹底してこだわってきたのが、『世界を獲る』『夢を叶える』というストーリーです。人口2万人の田舎の村のパラサイト(半地下)の民であったとしても、夢と志を持って立ち向かえば、願いは必ず叶うことを証明しようと決めていました。また、私は事業を行うなら、誰よりも強い情熱と志が必要だと考えています。私たちが対峙するチームは、大企業が率いる大敵ばかりです。そうした敵に向かうには、資本力ではなく、誰にも負けないビジョンとミッション、チーム力が重要でした。自分のやりたいことに対し、そのストーリーをしっかりと作り、『絶対に無理だ』と言われることにも魂を込めて本気で取り組む。そうすれば、大きな夢も必ず叶うのです」

琉球アスティーダの「アス」は明日、「ティーダ」は沖縄の方言で太陽を表す。つまり、「明日の太陽」という意味だ。

「琉球アスティーダが世界的スポーツクラブになることで、その姿を見た多くの人が自信を持ち、自分も夢を実現させる。そんな循環を創り出すことを、私たちは本気で目指しています」

沖縄アリーナで参加費22万円の
エグゼクティブサロンを開催

同社は卓球のプロチームを運営するだけでなく、スポーツとビジネスを掛け合わせて多様な事業を生むことにも注力している。

「チーム運営をサステナブルにするには、スポンサー収入やチケット収入だけに頼るのではなく、他の事業を立ち上げることが重要です。当社では卓球スクールやスポーツバル、琉球アスティーダのブランドアイテムを販売するオンラインショップを運営したり、レンタカー事業も展開しています」 スポーツを軸とした会員制経営者コミュニティ「アスティーダサロン」も運営している。

「サロンメンバーが増えることで、チーム運営の投資力が増強します。また、メンバーにとってはビジネスマッチングの機会が増え、ビジネスが加速するというメリットがあります。2023年12月23日・24日には沖縄アリーナで、スポーツ・食・音楽・講演をミックスした複合イベント『ASTEEDA FESTIVAL2023』を開催します。そのなかで開催する『アスティーダエグゼクティブサロン』は参加費が定価22万円、上場会社100社以上、1000社の社長が集まる限定イベントとなっています」

今後の展望としては、「社会のインフラ、プラットフォームとして社会課題解決型の事業を行う」と語る早川氏。

「スポーツの応援の形を、短期である消費の概念から、長期である資産性のあるものに変えたいと思っています。投資家の方々には、そのために当社がどう行動するべきかを明確に打ち出しました。当社を応援することが社会へのインパクトにつながり、かつビジネスにもCSRにもSDGsにもつながる。そのような好循環モデルを作っていきたいのです。私たちが日本唯一の上場スポーツクラブとして、既存スポーツ業界を変革する先導役となり、スポーツ業界の在り方を変えて大きく成長する。それが、日本のスポーツ産業を底上げし、地方創生への貢献につながると確信しています」

 

早川 周作(はやかわ・しゅうさく)
琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社
代表取締役会長兼社長