型破りな人材をリーダーにする育成方法 タイ洞窟遭難事故をモデルにした研究
(※本記事は『THE CONVERSATION』に2024年10月30日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

危機の際には、予想外の場面でリーダーシップが発揮されることがある。2018年にタイ北部で発生した洞窟救出作戦は、その一例だ。12人の少年とそのサッカーチームのコーチが、豪雨で出口を塞がれた洞窟に閉じ込められた。
この救出作戦は17日間にわたり、2,000人の兵士、200人のダイバー、そして100の政府機関の人員を含む数千人が協力して行われた。その成功の鍵を握ったのは、型破りなリーダーたちだった。それは、国際的な洞窟ダイバーのグループであり、彼らの特殊な専門知識が救出活動において不可欠だった。
私たちの最近の研究では、この救出作戦に焦点を当て、従来の指揮系統の外からリーダーシップがどのように発生するのかを探った。そのために、救出活動を取り上げたドキュメンタリーやニュース報道、文献、オンライン検索、さらにLinkedInのプロフィールなどを分析した。
特に注目したのは、いわゆる英雄的でカリスマ的なリーダーの典型像に当てはまらないリーダーたちだ。これらの非典型的なリーダーは、リーダーのあるべき姿や行動に対する固定観念とは一線を画した存在である。
アドバイザーからリーダーへ:洞窟救出の経緯
タムルアン洞窟は、タイとミャンマーの国境に位置するドイ・ナンノン山脈の地下に広がる洞窟である。2018年6月23日、地元のサッカーチームの少年12人とアシスタントコーチが洞窟を探検中、豪雨による洪水で出口を塞がれ閉じ込められた。
6月25日、タイ海軍特殊部隊のダイバーたちが現場に到着し、捜索を開始した。しかし、洪水による水位の上昇でサッカーチームを発見することは困難を極めた。当初、民間の洞窟ダイバーたちは海軍のアドバイザーとして招かれたが、海軍ダイバーがチームを発見できなかったため、民間ダイバーが主導権を握る形になった。
7月2日、イギリスの洞窟救助協議会のダイバー2人が、少年たちとコーチを発見。彼らの役割はアドバイザーから救出活動の中心メンバーへと変わった。

少年たちの発見後、タイ海軍特殊部隊は主要な救助者としての役割を再び取り戻そうとしたが、過信が問題を引き起こした。特に、酸素不足のため少年たちを洞窟から連れ出すことができず、事態は深刻化した。
洞窟ダイバーたちは、タイ政府高官であるナロンザック・オサタナコーン県知事、バンチャー・ドゥリヤプント中将、アパコーン・ヨーコーンゲーウ海軍少将、アナン・スラワン大尉を説得し、作戦の主導権を得た。その後、国際的な洞窟ダイバーの専門家チームを新たに編成し、7月8日から少年たちの救出を開始。7月10日までに全員を無事救出することに成功した。
「ルドルフ効果」とは何か?
この救出作戦は、特殊なスキルと社会的資本(経験に裏打ちされた信頼、人とのつながりや周囲からの協力を引き出す力)を持つ個人が、最も困難な状況においても効果的なリーダーシップを発揮できることを示している。
救出作戦が行われる前、多くの人々は洞窟ダイビングを「奇妙」あるいは「異常」な趣味と見なしていた。ドキュメンタリー映画『The Rescue』では、洞窟ダイバーのジョシュ・ブラッチリー氏が、「真っ暗な洞窟の中で水中にいることは、多くの人にとって悪夢のようだ」と述べている。一方で、ダイバーのジム・ウォーニー氏は、「地下に入るとすべての恐怖が消え去る」と語っている。
こうした「型破りな個人」にとって、洞窟ダイビングや探検に対する愛情は、日常生活からの逃避と自己強化の手段となっている。また、自分たちが一般的な社会の枠組みから外れていることも受け入れている。
しかし、暗く冷たい水中の洞窟を進む知識や、洞窟ダイビングのコミュニティ内での社会的資本が、洞窟ダイバーたちを効果的なリーダーへと押し上げた。この事例は、リーダーシップが予想外の形で発生する可能性を示し、洞窟ダイビングのような型破りなスキルが適切に評価され、奨励されれば、革新的な解決策につながることを教えてくれる。

私たちの研究では、「ルドルフ効果」という用語を提唱している。この用語は、社会的にアウトサイダーと見なされる型破りな個人が、適切な機会を得ることで重要なリーダーになれることを示している。名前の由来は『赤鼻のトナカイ ルドルフ』であり、極限状況でチームを効果的に導く能力を象徴している。
信頼される型破りな助け手は、独自のスキルや知識、社会的資本を活用してリーダーへと変貌を遂げることができる。ただし、この変貌は、彼らがその能力を発揮する機会を与えられた場合にのみ可能である。
型破りなリーダーを育成するために
型破りなリーダーの必要性は、極限状況に限ったものではない。この事例を通じて、私たちは日常業務においても型破りな考えを持つ人々に貢献の機会を与えるべきだと訴えたい。
管理職は、多様な背景や経験を持つ個人が持つリーダーシップの潜在能力を見極め、育成する必要がある。これにより、組織は危機管理能力を向上させるだけでなく、潜在的なリーダー層を広げることができる。この多様性は、企業をより強靭にし、予測不能な課題への適応力を高める。
この事例研究は、管理職に対し、目標を達成するためには常にリソースを再評価し、調整する必要があることを思い出させるものである。特に困難な状況では、型破りな視点を持つリーダーを導入することが有益である。
さらに、管理職はリスク計画の段階でチーム内のユニークなスキルや人脈を把握し、型破りなリーダーを特定する必要がある。また、初期の解決策が失敗する場合に備えた第二の策を用意しておくべきである。
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- アメリー・クルーティエ(Amélie Cloutier)
- カナダ ケベック大学モントリオール校(UQAM) ESG学部 戦略・社会・環境責任学科 教授

- アンドリュー・ウェッブ(Andrew Webb)
- カナダ 国立行政学院(ENAP) 准教授