山形発の老舗メッキ工場が挑む 攻めの技術開発と外国人登用で社風改革
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2025年6月4日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
山形駅から車で10分ほどのところに、工房や工場が集まった“ものづくりの街”がある。昔、鋳物職人が集められたことから銅町と呼ばれ、山形鋳物発祥の地とされる。ここに本社を置く創業111年の老舗、メッキによる表面処理を行う「スズキハイテック」は、自動車部品や半導体への特殊メッキで、この数年、売り上げを急速に伸ばしている。一時はリーマンショックなどで業績が落ち込んだが、受注型から開発主導型へと思い切った転換に踏み切り、他社が追随できないメッキ技術を開発して活路を開いた。また、留学生ら外国人材を積極的に活用することで社内の活力を高め、拡大する需要に応えている。工場の新設など、さらなる投資で生産力を上げ、5年後には売り上げ100億円を目指しているが、同時に、メッキ技術を応用発展させた微細構造の開発を進めるなど、次代への準備も怠らない。

苦心の開発技術が自動車大手に採用、V字回復
スズキハイテックの創業は1914年(大正3年)。リヤカーや自転車、戦後はミシンや音響・通信機器、自動車部品などへと取扱い分野を広げ、半導体の受注増を追い風に2006年には過去最高の24億8000万円の売り上げを記録した。だが、これをピークに業績は悪化。一時は世界で圧倒的シェアを誇った日本の半導体も、市場への対応の遅れなどで勢いを失っていき、創業家の鈴木一徳さん(54)が5代目社長に就任した2015年には、売り上げは16億円にまで落ち込んでいた。先代は堅実で無借金経営だった。だが、それは積極的な投資はしないということであり、それでは先細りになる恐れがある。
「私の使命は、事業を成長させて、次に引き継ぐための基盤を作ること」。小さい時から父の跡を継ぐのは当然のことと思い、曽祖父から続く会社の歴史の中で、「自分の役割は何か」を考え続けてきた鈴木さんは、受注に頼らず、自ら開発した技術で営業をかける提案型経営への切り替えを決意した。
すぐに、温めていた10個のプロジェクトに着手。市場動向や開発後の展開時期などを見極めながら絞り込んでいき、事業化したのが、ハイブリッド車など電動車部品の特殊メッキだった。3年かけて開発した、この技術が自動車の大手メーカーに採用され、2020年から量産に入ると業績はV字回復し、売り上げは2022年に25億8000万円、翌年には42億5000万円に達した。

初採用の外国人、明るくて能力高い! 今や外国籍4割
この成功は、ある出会いがなければ、なかったかもしれないという。2014年、同業他社とメキシコにメッキ加工の合弁会社を作った。この時に取引を始めたメーカーの1社が、電動車部品の採用を決めた大手だった。「それまで自動車大手との付き合いはなかったので、いいものを開発しても相手にしてもらえなかったでしょう。メキシコで培った人間関係があったから、仕事が成り立った。運が良かった」と鈴木さんは振り返る。
また、メキシコ進出は、会社の急成長を支える外国人材を採用するきっかけにもなった。
スペイン語ができる日本人を探していたが見つからず、苦労していた時、山形大学大学院に在籍するボリビア人を紹介された。大学の就職担当とも面談し、日本語も英語もできることから採用を決めた。また、この担当に誘われて出展した会社説明会で、入社希望の中国人留学生とも出会い、2015年10月、2人を雇用した。初めての外国人採用だったため、まず、鈴木さんが手元に置いて、直接、指導にあたったが、その能力の高さには驚いたという。「前向きで、明るくてノリがいい。とにかくやってみようという姿勢で、失敗したらなんて考えない」。新しい事に尻込みしがちだった日本人社員たちも、2人と接するうちに変わっていくのを見て、鈴木さんは外国人材を活用していくことを決め、毎年、山形大学や仙台市の専門学校から留学生らを採用していった。今では技能実習生を含めて、従業員260人のうち115人が外国人だ。やる気と能力があれば外国人でもポストに就けるため、役職者も約4割が外国籍で、次の人事でさらに10人ほどが昇進する見込みだという。

外国人の働きやすさ追求 共に目標に向かう仲間として
入社した人材には、できれば長く働いてもらいたい。それには、安心して暮らせる環境づくりが欠かせない。鈴木さんは、外国人材の採用にあたり福利厚生などの制度を整備した。さらには、病院には日本人従業員が付き添い、週末にはまとまって買い出しに行けるよう社のワゴン車を用意する。住まいの賃貸契約の保証人は、鈴木さんが引き受け、子どもの入学前には学校にあいさつに行く。今年2月には保育士の資格を持つ労務担当を採用し、将来は社内託児所の開設も計画している。「外国人材の場合、重要なのは家族の理解。家族に呼び戻されて帰国してしまうケースもある」といい、インドネシアなどに出張した折に社員の家族を訪ねたこともある。こうした取り組みのなかには、日本人も恩恵を受けるものもあり、外国人材の採用は会社全体の働きやすさの向上にもつながった。
鈴木さんは、「理解、尊重、共有」という言葉を大切にしている。文化や生活習慣を含めて、お互いが違いを認め合い尊重して、ともに目標に向かっていくことが重要だ。それは、日本人でも外国人でも変わらない。「日本を入れると7か国の人が働いていますが、外国人を採用し始めて10年が経った今では、『外国人』を意識する人はだれもいません」と言い切る。

さらなる成長目指し医療などの新分野へ
顧客からの電動車部品や半導体の増産要請に対応するため、2025年から33億円を投じて工場を新設し、生産設備を増強する。こうした積極投資でさらなる成長を目指すと同時に、鈴木さんらは新分野の技術開発にも取り組んでいる。
2018年には、MEMS(微小電気機械システム)の技術で、医療器具に使える、高精度のマイクロミストを発生させる金属メッシュを開発した。2022年には、生物が持つ構造や機能を応用するバイオミメティクス(生物模倣技術)の研究に着手。フナムシの脚の超微細構造を再現して、車の自動運転には欠かせない、周囲の障害物を検知するセンサーの誤動作を防ぐ技術などを開発した。噴霧技術は、世界一細かいミストが作れるとして特許出願中で、フナムシの技術は、試作品を作って大手メーカーと商談を進めている。こうした新技術の開発は、国の補助を受け、山形大学や山形県工業技術センターなどと連携して行っている。目指すのは、外部から取り入れた様々な技術を蓄積し、設計からできる人材を育てることだ。
さらに2025年から、南米に生息する青い光沢を持つモルフォチョウのリン粉の微細構造を再現する技術開発に取り組む。顔料や色素などを使わない、環境にやさしい塗料への応用などが期待されている技術だ。

「中小企業でも世界に誇れるものづくりを」
鈴木さんは、半導体から自動車、ガソリンから電動車へと市場の動きを的確に捉えて、主力商品に投資を集中することで事業を成長させてきた。外国人材の積極的採用により、生産力のさらなる増強を計画しており、見据える目標は「2035年の売り上げ150億円」。次の経営の基盤にするべく、官学を巻き込んで進める技術開発は、着実に成果を上げ始めている。「私たちのような中小企業でも、世界に誇れるものづくりができる。そう信じて開発を進めています」。次の100年に向けた力強い歩みが続く。

【企業情報】
▽公式サイト=https://www.sht-net.co.jp/ ▽代表者=鈴木一徳社長 ▽従業員数=260人(2025年4月現在) ▽資本金=6, 900万円 ▽設立=1914年
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