IT業界から異色の転身 国内外で注目される「和菓子作家」の哲学

霜の降りた朝のひんやりと静謐な空気。やわらかな日の光や落ち葉を踏みしめる音。坂本紫穗が作る和菓子には、音色や情景、そして物語がある。国内外にファンが広がる“紫をん”こと坂本がどのように『和菓子作家』というジャンルを切り開き、そして、如何にしてたったひとりで世界に活躍の場を広げてきたのか。その道のりに迫る。

文・油井なおみ

 

坂本 紫穗(和菓子作家)

何を求めどこに進むか苦悩の末に
見つけた和菓子作家という道

「日本的なもの、やわらかい物、小さい物が好き」。物心ついたころから、食べること、そして、色や抽象的なものに興味が強かったという坂本紫穗。

今振り返るとそれは和菓子そのものでしかないと思うが、坂本自身、それに気づくまでにかなりの時間を要した。

大学時代、経済学者の斎藤精一郎氏のゼミに学んだ坂本は早々に証券会社の内定を獲得。しかし内定者オリエンテーションに参加するに従い、「じわじわと何か違う」と思い始めたという。

「ゼミが面白かったので考えたこともなかったのですが、自分はその業界に特別な興味があるわけではないと気づいてしまったんです。とくにやりたいことがないまま、周りの流れに乗ってなんとなく就職を決めていたんです」

早々に辞退を決めるが、その時期には大手の新卒の求人は終了していた。

「中小規模のITベンチャーの募集が何社かあって。最終的に『六本木ヒルズに移転します』と書いてあったサイバードに入社を決めました。田舎者の私は、六本木ヒルズのオフィスエントランスでカードをピッとやってみたいなとわくわくして。本当に浅はかですね(笑)。あと社員の方たちとの相性。それまでの就活で見た企業の落ち着いた雰囲気と違い、上場したてということもあってか、とにかく元気で自由に見えて。直感的にここだと思いました」

早くから仕事を任され、仲間にも恵まれ、充実した日々を送った。当時はITバブル絶頂期。とくに六本木ヒルズに拠点を置く企業は“ヒルズ族”と呼ばれ、経済を大きく動かしていた。

「社内にも勢いがあり、そこについて行けない人はふるい落とされるような力強さがありました。私自身、20代後半になって、やりがいはありましたがすでに息切れもしていて。どこか満たされない思いも抱えていました」

同じ業界でも、好きな食を扱う会社なら何かを見つけられるのではないかと思った坂本は、クックパッドに転職。その頃、和菓子の夢を見たのだという。

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