1万社の社史を分析 『社史から読み解く 長寿企業のDNA』

世界でも稀有な「社史大国」と言われる日本。明治時代から現代までに7000社以上が社史を刊行してきたと推測され、今も毎年200点程度が刊行されている。社史と聞くと「会社の自慢話が羅列されている」というイメージを持っている人もいるかもしれないが、実際にはそうした内容のものは少なく、創業期・創業者の理念から、製品・サービスの進化の歴史、各時代における戦略やキーパーソン、危機の克服やターニングポイントなどがまとめられており、「経営の教科書」とも例えられる。

本書は約1万冊の社史に目を通してきた著者が、長寿企業61社の歴史を振り返り、その強さの源泉とDNAを浮き彫りにしたものだ。

本書は約1万冊の社史に目を通してきた著者が、長寿企業61社の歴史を振り返り、その強さの源泉とDNAを浮き彫りにしたものだ。

社会への使命感と志は同じ

本書は長寿企業のDNAを「国産化への果敢なチャレンジ精神」「郷土・地域の発展と活性化」「着眼点・発想の転換」などに分類して紹介している。日立や花王、三井物産などの有名企業だけでなく、特定技術やニッチ市場で存在感を発揮する知られざる優良企業の経営も分析している。

例えば、体育館や航空機格納庫などの大空間建築を手掛ける巴コーポレーションは、関東大震災後の焼け野原を見た創業者が「燃えない電柱をつくろう」と鉄製電柱を考案したことが事業の始まりだ。以来、鉄骨構造建築の技術を磨き続け、近年では世界一の自立式鉄塔「東京スカイツリー」の鉄骨製作で重要な役割を担った。

誰もが社名や商品を知る企業が、拾は創業期は全く異なる事業を手掛けていたというケースも多い。歯磨き粉などのオーラルケア製品で知られるサンスターは、もともとは自転車用ゴムのりを入れるチューブ容器を製造していた。戦後、容器の需要が減少すると、製造技術を活かせる歯磨き粉容器に参入。人材を招いて歯磨き粉自体も開発し、日本人の衛生意識の高まりと共に成長した。当時の経営者の先見性には驚かされるばかりだ。

著者は、約100年の歴史を生き抜いてきた長寿企業に共通するのは、「時代や経営者が替わっても創業者の哲学・経営理念を長く引き継いでいること、苦境に立たされても常に前を向き、信念と工夫で危機を切り抜けていること」だと指摘する。そして、創業者たちに共通して、社会に対する使命感と志の高さが事業を始めた原動力になっているという。明治以来の起業家たちの足跡がまとめられている本書から、現代の経営者や起業家、事業構想家が学べることは多いはずだ。

 

『社史から読み解く
長寿企業のDNA』

  1. 村橋 勝子 著
  2. 本体2,600円+税
  3. 日本経済新聞出版
  4. 2023年2月

 

今月の注目の3冊

北欧のパブリックスペース

  1. 小泉 隆、ディビッド・シム 著
  2. 学芸出版社
  3. 本体3,300円+税

 

北欧のパブリックスペースは、自然環境に配慮し、個人の自由に寛容で、人間中心の包括的な発想でデザインされている。

スウェーデンの都市デザイナーであるディビッド・シム氏と、建築・家具等のデザインを研究する小泉隆氏(九州産業大学教授)による本書は、北欧各国のパブリックスペースの55事例を、公園や水辺、広場、自転車道、サウナなどの8つのカテゴリーに分けて写真・図面で紹介。アクティビティが生まれる都市空間のあり方を分析している。

計画プロセスへの積極的な住民参加や、新しいアクティビティの積極的な導入と行政の許容、自然をすべての人々のものとして享受できる文化などが、活気あるパブリックスペースを形成する要因になっている。人はどんな場所に行き、どのように過ごしたいのかを解説する本書は、行政関係者にさまざまなヒントを与えてくれる。

 

パラドックス思考

  1. 舘野 泰一、安斎 勇樹 著
  2. ダイヤモンド社
  3. 本体1,800円+税

 

私達が日々直面する“問い”は、決して二者択一のものばかりではない。「組織変革をしながらチームのモチベーションを維持する」「リモートワークをしながらチームの一体感を出す」「仕事と家庭を両立する」など、ややこしい問題に答えるために注目されているのが「パラドックス思考」だ。これは、問題の背景にあるパラドックス(矛盾)に着目し、ビジネスや人生等の課題に新たな解決策をもたらす考え方である。

立教大学経営学部准教授の舘野泰一氏らがまとめた本書は、「感情パラドックス」に着目して、難解な問題の解決法を体系化したもの。3つの戦略を使い分けることで、二者択一の答えに陥ることなく、シナジーを実現する効果的な解決策を導き出すことができるという。事業創造、アイデア、キャリア、組織などさまざまな事柄に応用できるすべてのビジネスパーソンにお勧めしたい思考法である。

 

OODA式リーダーシップ

  1. アーロン・ズー 著
  2. 秀和システム
  3. 本体1,500円+税

 

ビジネス推進のフレームワークとして広く普及する「PDCAサイクル」だが、本来は品質・生産管理を目的に開発されたPDCAは、予測不可能な現代のビジネス環境には適合しづらくなっていると指摘される。米国ではPDCAが回らないときの対処法として「OO DAループ」が確立されてきた。これは観察(Observe)、判断(Orient)、決定(Decide)、行動(Act)の頭文字で、米国空軍における戦闘勝率を高めるための手法に由来し、汎用性から多くの米国企業に採用されている。

本書は、米空軍の将校養成課程で学位を取得し、現在は事業開発プロデューサーとして多数の企業に関わる著者が、OODAの本質を解説したもの。科学的なリーダーシップの定義から、軍事戦略をビジネスで活用するための要素、ビジネスにおけるOODAの存在意義、日本企業がOODAを活かすための方法などを解説している。